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本音での話し合い

 

「――このロドウェルは素敵な場所です。全てを知っているわけではないどころか、まだこの街しか見ていないのですから何も知らないといってもいいでしょう。ですが、それでもこの地が素晴らしい場所だということは理解できます。――その上で、王都の方が利便性は高く、豊かな暮らしができると考えています。日々の充実はどちらが上かと言ったら王都でしょう。ロドウェルよりも辺境にあるウルフレックであれば、猶更そうなのだと思っています」


 ここでの暮らしと王都での暮らし、か……。ま、そうだな。ここでの……というか田舎での暮らしよりも王都で暮らした方が優雅な暮らしはできるだろうさ。王女についたとなれば金だってそれなりに入るだろうし、足りなければ自分で稼げばいい。身分は貴族だから大抵の者は手に入るし、辺境伯家の出身だから大抵の貴族に対してはマウントをとれる。


 不便なことと言ったら王族の相手をしなくちゃいけないってことだけど、言ってしまえばそれくらいだ。毎日のように命のかかっているクソ田舎で生活するよりは王都の方が幸せだと言えるかもしれない。――普通の感性で考えれば、だけどな。


「ウルフレックから離れた生活を送れば、王都での暮らしも悪くないと思えるのではないでしょうか? ですから、数年だけでも構いません。私の許で働くつもりはありませんか?」


 数年あれば自分の魅力で堕としてみせるってか? それとも、数年あれば王位争いで圧倒できるだけの力を手に入れられると? どっちにしても、その話しに乗るつもりはない。


「お断りだ。俺は学園を卒業したらすぐに実家に戻る。戻らないで他に何かやることができたとしても、それはお前のところに留まるわけじゃない」

「ではせめて、学園にいる間は親しくして……いえ。親しくすることを許してくれませんか?」


 ようやく本題に戻ったな。元々こうして話をして、せめて学園にいる間だけでも仲良くしてほしい、ってのがこの場を設けたローザリアの考えだったわけだし、俺としてもティアリアと仲良くするのは問題ないと思っている。俺の女々しい考えさえ考慮しなければ、ティアリアは普通に普通の奴だしな。ただ……


「……一つ聞かせてほしいんだが、どうしてお前は王様になんてなりたいんだ? 長子がいる上に、お前は女だろ。王位の継承ってのは普通なら目指すような立場じゃないと思うんだけど?」


 これを聞いたところで、学園にいる間は仲良くする、という考えを変えるつもりはない。まあ、仲良くするって言っても距離感くらいは変わるかもしれないけど。

 ただ距離感の事なんて関係なしに、これだけは聞いておきたかった。どうして長子でもなく男でもないティアリアが、王位継承権の順番を無視するなんていう本来は〝正しくない〟はずの行動をしようとしているのか。その理由が気になった。


「そうですね。ですが、それでも王にならなければならないのです。現在最も王位に近いといわれている兄は、民のことを考えていません。このまま進んで行けば、いずれ国は終わりを迎えてしまうことになるでしょう。……もっとも、私も民のことを考えているふりをしていただけなのかもしれませんが。なにせ、私はあなた方のことを知らないままその存在を語っていたのですから」

「そんなにお前の兄ってのは酷いのか?」

「酷い、というわけではありません。ただ、王族らしい王族と言えばいいのでしょうか。貴族を纏める者として納得できる言動をしている、とも言えますね」

「つまり、他者を見下して傲慢に振る舞う馬鹿野郎、ってことか」


 まあ、この間会った時の振る舞いが全てだって言うんだったら、ティアリアの言っていることも理解できるな。一事が万事あんな調子だってんなら、そう遠くないうちに滅ぶだろうな。そんで民主主義とか国民による議会とか、まあそんな感じに歴史が進んで行くと思う。だって、別にこの世界では貴族だけが力を持っているってわけじゃないし。


 もしこれで魔法って力が貴族だけのものだったら、貴族社会はずっと続いただろうさ。でもそうじゃない。だったらいつかはどこかで変化があるさ。そして、その変化は民を虐げれば虐げる程加速する。


 その貴族や国民の立場、力関係変化を〝国が滅ぶ〟というのなら、ティアリアのいうようにこの国はそのうち滅ぶだろうな。


「悪意があるわけではありません。そうするのが普通だと、そうして当然だと考えているのです。いえ、それすらも違いますね。そもそもそんなことは考えていないのですから。考えるまでもなく、他者を見下すことを普通のこととして生きているのです」


 産まれた時からそう育てられてきたなら仕方ない話ではあるよな。むしろ、ティアリアの方が異端扱いなんじゃないか?


 そう思ったけどこれって……


(ぶっちゃけどこにでもあるお家騒動だな。理由だって大したものがあるわけでもない。王族が傲慢だなんてのは、いつの時代どこの場所でも同じなんだから)

(だよなぁ。それに、傲慢さで言うんだったらそもそもティアリア自身だってそうだろ。まあ多少意識の変化はあったみたいだから何にも考えてない兄よりはマシかもしれないけど)

(つっても、〝お前ら〟にとっては大差はないだろうよ。どうせクソ田舎に引きこもってるだけなんだからよ)


 ティアリアの話は、正直に言えばどこにだってある普通の話だった。特別なことなんて何もない。単なる貴族の家督争いだ。ただその規模が領地か国かっていうだけの話。


 それに、ペンネの言ったように〝俺達〟は国がどう変わろうと関係ない。だって、あの場所で生きて、あの場所で死ぬことに変わりはないんだから。それこそ、森の魔物が一掃されてあの場所でクラスのに命の危険を感じない日が来るまで俺達ウルフレックは変わらないだろう。

 つまり、一生変わらないってことだ。だってあの森の魔物を一掃とか無理だし。姉上が百人いてみんな協力すれば……まあ……ギリ勝算はあるかもしれない、ってくらいか?


 やっぱり、特段肩入れするだけの理由にはならないな。仲良くはする。学園にいる間に喧嘩はしない。必要なら協力もする。

 でも、そこまでだ。個人的な事情に突っ込むつもりはないし、卒業後も――


「……すみません。今の話はやり直させてください」

「は? やり直し……?」


 白けたような顔でもしていただろうか? ティアリアとの関係をどうするかを考えていると、突然やり直しなんて意味の分からないことを言い出してきた。


「私は死にたくありません。金の髪、金の瞳を持って生まれてきた私は、『黄金』に最も近い王族としてもてはやされてきました。ともすれば、継承順位を覆すかもしれないとも。ですが、そのことが兄は気に入らなかったようです。当然でしょうね。順当に進んでいれば自身のものとなった玉座を脅かす存在がいるのですから。ですから、私は幼いころより何度も死にかけることになりました」

「兄弟喧嘩、か」


 金の目に金の髪……『黄金』か。そんなもので殺し合いの喧嘩をするなんてばかばかしいと思うけど、当人からすれば一言でかたずくようなことじゃない、か。


「喧嘩、と言えるほど生易しいものではありませんでしたが、そうですね。ですが、これまではまだ手心の感じられた、一種の脅しのようなものでしたが、今では違います。先日から、本格的に私の命を狙いだしたのです」

「それは、この間の実戦授業の時の奴か?」


 あの日の襲撃者は確かに警告なんかじゃなくティアリアのことを殺しに来ていた。襲撃者自身もそうだが、魔物を呼び寄せることで教師達にその対応をさせて想定外が起こらないようにしていたこともだ。


 だが、そんな俺の言葉にティアリアは首を振った。


「いいえ、それ以前からです。私が学園に入学するにあたって、私に差し向けられる悪意は増しましたが、それでもまだ〝脅し〟と言える範囲でした。恐らく、学園で自身の勢力を築く前に止めるべく、最後の警告だったのでしょう。ですが、学園に入学する直前に起きた事件のせいで、兄は本気になりました」


 ……あー、あの時か。そういえばそんなこともあったな。あの時は王女だと認識してなかったから忘れてたけど、そうか。あれって警告だったのか。じゃあ助ける必要なかったか? いや、でもあの時って一緒にいた従者だか護衛だかが死にそうになってなかったか?


「その事件とは、私が『黄金』を使った、という噂が流れた事です」

「黄金をねぇ……」


 なんて惚けてみせたけど、知ってるさ。なにせあの場で『黄金』を使ったのは俺なんだからな。


「ええ。あなたが信じていないように、世間では眉唾物の話として考えられています。ですが、貴族間では違います。そして、兄もまた、その噂が事実であると考えたのです。先日の実戦授業の時の出来事はあなたもご存じでしょう。ですがその前にも一度、私の目の前で『黄金』の壁が出現し、私の事を守ったのです」

「でも、実際に『黄金』を使えるようになったわけじゃないんだろう?」

「はい。ですが、不可能を証明することは不可能ですから。それに、私は今でも自分が『黄金』を発現したとは思っていませんが、そう取られてもおかしくない状況はできていました」


 つまりこれまでの話からすると……


(お前が路地裏で渡したセンス最悪でクッソきもい指輪のことじゃねえか?)

(だよなぁ。……っつーか、そんなにきもくなかっただろ。まあつけるのは躊躇うだろうけど)


 そんなことを言っている場合ではないが、少しでも気を紛らわせるというか、冷静になるための戯言だ。だってこの話が本当なら、俺の行動のせいでティアリアが命を狙われるようになったってわけで……いやいや、そんな……嘘だろ?


(この王女の言葉を信じるなら、あそこで手を出さなかったとしても死ぬことはなかったってのに、お前が割り込んだせいで本気で殺しにかかることになった、ってことだよな)

(そう、なるのかな……)


 そうであってほしくなかったが、ペンネにも言われてしまえば認めないわけにはいかない、よなぁ……


「正直なところ、今回このロドウェルに同行するのも危険だと思ったのです。私が自身の勢力を伸ばそうとしていると取られかねませんから。ですが、それでもまだ今の時期であれば兄もそう簡単に手を出してこないでしょう。それに、ロドウェルとは別であなたと話す機会は必要でしたから多少の無茶を許容することにしました」


 それでも、俺と仲直りするためにここまで来たってか? は……なんとも健気なことだ。そうするほど俺との関係を気にしてたってのか。まあ、俺達ウルフレックを味方につけるために必要だったからかもしれないけどさ。


「――それで、いかがでしょうか?」

「……学園にいる間は本当にマジのお友達をやろうって?」

「はい。もっとも、私も普通の友人関係など存じませんから、おかしな関係になってしまうかもしれませんが。そもそもの話をすれば、こうして話をして友達となる事が普通のことなのかもわかりませんし」

「俺も普通の友達なんて知らないけど……まあ、学園にいるうちくらいは仲良く……するかは分からないけど、努力はするよ」


 なんか俺のせいで命を狙われることになったみたいだし、せめて学園にいる間仲良くするくらいはしてやってもばちは当たらないというか……うん。普通のことだよな。別に罪悪感があるとかそういうわけじゃないけどさ。少し手間がかかるくらい良いだろ。それが人生ってもんだろうし。


「ありがとうございます。ですが、以前お伝えしたように婚姻を結んでもよろしいのですよ?」

「よろしくないからお断りだ。そこまで仲良くするつもりはないっての」


 学園にいるうちは協力しても良いし、友達やっててもいいけど、だからって結婚するつもりはない。学園を卒業したら、俺はマジで家に帰るからな。ちゃんとそこんところ覚えておけよ。


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