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ローザリアの気遣い

 ――◆◇◆◇――


 姉上に誘われて(強制)行った訓練を終えてからおよそ二週間が経過した。

 あの時王子は何かやるようなことを言っていたが、今のところ何か起きた様子はない。でも、何かしてくるんだったらさっさとやってくれないかなぁ。

 なんて思いながら日々を過ごしていたのだが、不意に俺の座っている席に近づいてくる人影があった。ローザリアだ。


「エルドさん。少々よろしいかしら?」

「どうした? ローザリア」

「来月になれば夏の長期休暇に入ることとなりますが、その時に我が領にお越しいただけないかしら?」

「我が領って……ロドウェルにか?」


 俗に言う夏休みなわけだが、普通は自分の領地に誘うなんて特別仲のいいやつくらいだぞ。そして〝特別仲のいい異性の相手〟となれば、大抵の場合は恋仲を疑われる。

 ついでに言えば、異性を実家の領地に誘うのは実際に恋愛関係にある奴ら大半だから、一緒にロドウェルになんて行ったらそういう噂が立つかもしれない。


 それくらいローザリアも理解しているだろうに、何考えてんだ? 貴族の令嬢としてはそういう噂が立つのは避けたいところだろうに、その危険を受け入れても尚誘うだけの理由があるのか?


「ええ。突然の話となって大変申し訳ないのですが、お父様がウルフレックの方であるエルドさんと一度話をしたいとおっしゃっているのですわ」

「ロドウェルの領主が話か……」


 まあ、ウルフレック家の貴族は、基本的に外に出てこないしな。先代である父上の時もそうだったけど、今はその父上が亡くなった件もありまだ完璧に落ち着いているというわけじゃないし、兄上はほとんど領地の外に出ていかない。


 だからウルフレックと話をしたいと思ってもそう簡単にはできない状況だったわけだが、そこに俺という存在が現われたわけだ。


 俺にウルフレックのことに関する決定権はないから本当に話をするだけになるけど、取引先であるロドウェルとしては、ウルフレックの状況だとか、代替わりをした影響だとか今後の予定や予想なんかを聞きたいところなのかもな。


(どうすんだ? 行ったら行ったで厄介事が起こるんじゃねえのか? 急ぎで何があるってわけでもねえんだし、実家のほうに話しを回した方が良いだろ)


 ペンネのいうことはもっともではある。いくらウルフレックの人間が外に出てこないから俺に話しを持ってきたとはいえ、じゃあこれから俺が実家に話しを持っていけばそれで解決するじゃないかと。

 ただ、そうすることもできるのに、それでも俺に頼むのではなく俺自身のことを呼んでいるのだからそこには何かしらの意図がある……のかもしれない。


「わかった」


 まあ大丈夫だろ。俺とローザリアが恋仲だと噂されたところでウルフレック家当主の名代として向かったと言えば弁明できるし、仮にそれで誤解が解けなかったとしても俺が困ることはないし。

 ペンネが言うような厄介事だって、そうそう起こる事じゃない。もし何かあると分かっているならそれこそ本家の方に連絡を入れるように頼んでくるはずだしな。だからまあ、大丈夫だろ。


「ふう。了承していただけてよかったですわ。もし断られたらどうしようかと思っておりましたの」

「そんな断るほど薄情じゃないって。これが直前とかだと分からないけど、来月のことなんだし、予定空けて学友の領地に行くくらいするさ」


 なんて、少し断ろうと思っていたことをおくびにも出さずに答える。


「ふふ、そうですわね。ですが、本当に良かったですわ。これでチームメンバー全員が揃うこととなったのですもの」

「え――」


 続けられた言葉に、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。


「どうかされたかしら?」

「い、いや……チームメンバー全員っていうのは……やっぱりティアリアも?」

「? 当然ではありませんか。わたくし達だけで領地に行くというのは、王女殿下のことを蔑ろにしてしまうことになりますもの。そうでなくとも、せっかくの機会なのですし、交友を深めるためには殿下にもお越しになっていただくべきでしょう?」

「それは、まあ……そうだな」


 というか、よくよく考えてみるとそうするのが一番だよな。俺を呼ぶこともできるし、王女も呼べる。変な噂が立つこともないし。


 ……でも、なんだな。こうなると俺がローザリアとそういう噂を立てられることを望んでいるみたいでなんだか気恥ずかしい。


 それに、ティアリアも一緒ということは、しばらくの間一緒に過ごさなくてはいけないという事でもある。今までのような学園の授業中だけ一緒、というわけではないのだ。どうしたって話す機会は増えるし、そのたびに邪険にするわけにもいかない。


「……正直なところ、エルドさんが王女殿下に隔意を持っていることは存じていますわ」

「隔意って……別にそんなわけじゃ……」


 いや、そうだな。姉上にも言われたことだが、仲良くしたほうが……いいよな。

 ただ、そうは思うし、過ぎたことをいつまでも引きずっているのは情けないことだとは思っているが、だからといってどう接すればいいのか今一つ距離感を測りかねているから厄介だ。

 それでも、せっかくの機会なんだし、少しくらい認識を変えてもいいかもしれない。少なくとも、〝今〟のティアリアのことはしっかりとみるべきなんだろう。


「なにがあったのか、何を考えてそう接しているのかはわたくしにはわかりません。それを知ろうというつもりもありませんわ。ですが、今のお二人はお互いに対する理解が足りていないように感じますの。ですので、今回わたくしの領地に来ることをきっかけとして、少しでもお二人が良い関係を築ければとも思っていますわ」

「そりゃあ……なんとも気を遣わせたみたいだな」


 ローザリアも貴族の令嬢として育てられてきた以上他家の……それも王族の関わっている問題に首を突っ込んでくることはすべきではないと分かっているだろう。それでもこうしてわざわざ場を整えて、参加する言い訳までくれた。こうまでしてもらうと、俺が頼んだわけでもないはずなのに、なんだか申し訳なさを感じる。


「お互いに立場がありますもの。考えの違い、前提となる思想の違いですれ違う事なんて幾らでも起こりえることは理解していますわ。ですから、それほど気にする必要はありませんわ。ですが、少なくとも今後一学年時終了まではこのチームで行動することになるのです。ならば、和解とまではいかずとも、お互いの相互理解を深めることは無意味なことではないと考えていますわ。もちろん、それはお二人に限った話ではなく、わたくしやエリオットのことも含めて、ですけれど」

「そうかもしれない……いや、そうなんだろうな」


 今までの意固地になっていた考えを追い出すように、大きく息を吐いてから軽く頭を振った。


「ローザリアの言ったようにせっかくの機会なんだ。少しくらい歩み寄る努力はするよ。……できるかどうかは分からないけど」

「それで構いませんわ。話してみて、決定的に相容れないとなればそれはそれで構わないのです。そういう関係なのだと周囲を含め、あなた自身が理解しているのであれば相応の行動をとることもできるでしょうから。まずはお互いを理解することです」

「そうだな。面倒をかけたみたいだし、多分これからもかけるだろうけど、ありがとうな」

「いいえ、大したことではありませんわ。それに、わたくしとしてもあなた方の関係が良好の方が好ましいものですから」


 それは貴族としての考えなのか、ローザリアの個人的な感情からなのかは分からないが、とにかくありがたいことには変わりない。精々頑張って話をしてみるとするか。


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