王族からのお誘い・王子編
「これでいいんですか?」
厳密にはまだ決着はついていないんだけど、それで騎士達が納得するだろうか?
「ええ。流石にとどめを指すところまでやる必要はないでしょ?」
「くっ……」
いやでも、そっちの騎士様はまだ諦めてない感じがするんだけど……まあ挑んでくる様子はないし、いいならいいんだけどさ。
「はい、それじゃあ本日の訓練相手として戦ったエルドから一言お願い」
「え? 一言って……別にないけど」
「いやいや、何かあるでしょ。ほら、ここをこうした方が良いとか、戦った感想とか」
なんて姉上は言ってるけど、いきなり一言なんて言われても特に話すことも何もない。最低限必要なことは戦ってる最中に言っておいたし。改めて言う事でもないだろ。
というか、そんな熱心に助言をするほどこの騎士団が気に入ってるってわけでもないし。頼まれたから戦ったけど、それ以外は頼みの範囲外だろ。
「えー……正直うちの戦士団の方が強いな、ってくらい? 騎士団なんだからもっと鍛えた方が良くないかとは思うけど、まあ王都を守るだけなら十分なんじゃない?」
「ひゅう~、煽るねえ。でもそれだけー? もっと強くなる方法とかなんかないの?」
「そんなの自分達で考えるべきでしょ。今日の戦いでマズいところなんて分かっただろうし。……まあ、強いて言うなら実戦経験が足らな過ぎ? 騎士団、なんて名前でかっこよくやってくのはいいけど、実戦では卑怯も卑劣も受け入れて戦うべきでしょ。騎士団において一番大事なのは〝騎士道〟なんかじゃなくて、自分達が守るべきものを守ったって結果なんだからさ」
どれだけご立派な思想を掲げていたとしても、それで本来守るべきものを蔑ろにしたのならそんな思想に意味なんてないと思う。
「はい、みんな聞いた~? 年下の子にここまで言われるくらいあなた達は弱いの。どんなことを思って騎士団に入って来たのか知らないけど、悔しいと思ったならもっと強くなりなさい」
「「「はっ!」」」
割と無理矢理やらされることになった今回の訓練だし、色々と問題はあったような気がするけど、それでもこうしてなんかいい感じに締めるといい訓練だったな、って感じがするから不思議だよな。というか……
「……なんか、まともに騎士できてるんだな、姉上」
今日一驚いたのがそこだ。城の広さとか騎士団の強さとか色々と感心した利驚いたことはあったけど、姉上にまともに教官役なんてのができるんだってことが一番の驚きだ。多分これは俺だけじゃなくてウルフレックの全員が思う事だろう。なんだったら母上辺りは泣いて喜ぶんじゃないか?
「――素晴らしい戦いだったな」
なんて思いながらさっきまでの訓練の反省会をしている騎士達を見ていると、不意に背後から声がかけられた。誰だ? ティアリア達が見ていたのは知っていたけどあいつらの声じゃないし……
「げっ……」
誰だろうかと思いながら振り返るが、やはり知らない人物だ。ただ、姉上の反応からするに姉上はそいつのことを知っているらしい。
でも、この姉上がこんな声を出して嫌がるなんて珍しいな。実家の森で巨大ムカデの腹から無数の小型ムカデが出てきた時くらいじゃないか、こんな声を出すのなんて。
「どちら様?」
「王子様。あんまり好きじゃないのよね」
王子様……それってもしかして、ティアリアと喧嘩中の例の王子様か? そりゃあ何とも……なんだってこんなところに来たんだか。
というか、姉上……相手は王子だってのにさっきあんな声出したのか? 不敬罪とかで捕まったり……捕まる前に逃げるか、この人なら。
「お兄様……こちらに来られたのですね」
「ああ。なんでもアイリーンの弟が騎士達の訓練をしていると聞いてな。年端も行かぬ者がまさかそのようなことを、と気になったのだ」
『呼び捨てなんて、やけに親し気だな』
でも姉上の反応からして仲悪そうだけど?
それにまあ、普通は親しくないと呼び捨てなんてしないだろうけど、相手は王族だしなぁ。格下の俺達のことなんて敬称を付けたりしないだろ。親しくないとしても王子が俺達貴族のことを呼び捨てにするのはおかしなことじゃない、のかもしれない。ティアリアは俺に敬称付けてるけど。
(仲が悪いってか、一方的に嫌ってるだけじゃねえのか?)
んー、まあそうかも? 王子の方は姉上のことを気に入ってるし配下に加えたいけど、姉上は何らかの理由で王子のことを嫌っている、って感じかね?
「先ほどの騎士達との戦い、見ていたが素晴らしいものだったな。騎士達も王国を守る騎士を名乗る以上そう弱いわけではない。むしろ、強者の部類であるといえるだろう。そのことは私の名を以て認めよう」
「殿下……」
王子が来たことでいつのまにか背筋を伸ばして整列をしていた騎士達だが、王子に声をかけられ、褒められたことで感動している。まあ、俺みたいなのに負けて落ち込んでいるところを王族に褒められたら、喜びもする……のか?
「だが、お前はそんな騎士団を相手に一歩も引かぬどころか圧倒さえしてみせた。話しぶりからすると、実戦では更に活躍することができるのだろう? どうだ。愚妹の下ではなく、アイリーンと共に私の下で仕える気はないか?」
勧誘か……。まあ戦力を確保できるうえに、政敵である妹の戦力を削ることもできるんだから良い手ではあるか。もしかしたら、俺のことはどうでも良くて本当に姉上のことがお気に入りで、姉上を手に入れるために俺を、なんて思ったのかもな。でも、残念。
「申し訳ありませんが、私は学園を卒業後はウルフレックに帰還するつもりですので」
こんなくっだらないところなんて、学園に通う必要が無ければいる意味がないんだ。卒業したらさっさと帰るに決まってるだろ。もしくは世界を旅するけど、とにかくここに留まって誰かの配下になるつもりはない。
「ウルフレックは既に家督を引き継いだ者がいるのであろう? であれば、お前が戻ったところでその立場が尊重されるとは限らないだろう。それどころか、家督争いの原因となりかねないのではないか?」
「ご心配いただき感謝したします。ですが、私にそのつもりはありませんので」
普通の貴族だったら家督争いもあるんだろうけど、うちは普通じゃないからなぁ。
「本人の意思に関係なくことが進んでしまうのが世の恐ろしいところだな。それだけの力があるのだ。お前のことを勝手に持ち上げる者も出てくるだろう」
「……殿下。お言葉ですが、そのようなものはウルフレックには現れませんよ。もし出てきたとしたら、その者はウルフレックの者ではありません」
「なに……?」
「恐れながら殿下はウルフレックがどのような場所かご理解しておられないご様子ですね。あの場所では、そのようなくだらない事に時間を割く愚か者は存在しません。そんなことに手間暇をかけていれば、自身の命も、大切なものも失うことになるかもしれないのですから」
本当の意味での一枚岩。それが俺達ウルフレックだ。一応指示役がいないと集団としてまとまりに欠けるから俺達ウルフレック家が当主としてみんなをまとめているけど、その関係性、命の価値に上下はない。強いて言うなら、次の世代の子供を残すことができる女性は優先して命を守るってくらいか。
でも、本当にそれくらい。上も下もなく、只それぞれがお互いの役割を果たして戦っている。
そんな俺達の中に裏切者なんて出るはずがない。そもそも、裏切って得をするようなことなんてないしな。これが他国との国境ってんなら意味があったのかもしれないけど、相手してるのは魔物だし。裏切ったところで何が手に入るわけでもない。
それに何より、裏切りや権力争いなんて楽な道に逃げることを考えている奴があの場所で生き残れるはずがない。
「身内で争うような愚か者も、それを扇動する害悪も、ウルフレックには存在していませんし、必要としておりません。ですので私は、殿下の下で仕えるつもりはございません」
「なんっ……! ……それが答えで良いのだな?」
「はい。誠にありがたい申し出ではありますが、私はウルフレックのために生きるつもりですのでお断りさせていただきます」
明確に言葉にしたわけではないけど、「お前の存在は害悪だ」といったのがお気に召さなかったようだ。でもまあ、そうだろうな。王子だし、今までこんなことを言われたことなんてなかっただろうし、なんだったら王子じゃなくても怒るところだろうし。
「……アイリーンも同じ考えか?」
「え? わたし? あー、はい。そうですねー。多分そんな感じです?」
姉上……せめて疑問形で答えるのはやめようよ。というか話聞いてなかっただろ。
(こいつ、ぶっちゃけ何も考えてないだろ)
考えてるんだったら王子相手にこんなこと言ってねえだろうよ。
ペンネの言葉が脳内に響くが、俺はその言葉に溜め息を吐くしかできなかった。




