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黄金の地平 ~魔法属性『平面』も意外と悪くない~  作者: 農民ヤズー


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いいから……やれ

 

「……こっちの総力は俺一人しかいないんだけど」

「その一人で百人分の戦力になるんだから平気でしょ」


 いやそれはさ、そうかもしれないけどわざわざそんなこと言う必要なんて……ああ、ほら。そんなこと言うからまた騎士達から敵意の眼差しが向けられてるじゃんか。というか、ここまで来るともう敵意というか殺意になってないか?


「ほう……第三副隊長がそれほどまでおっしゃるとは。ですが、我々としましても実際に力量の分らぬ相手……それも学院を卒業もしていない年齢の者を相手に集団で仕掛けたとなれば騎士団の汚名となってしまいます。ですので、まずは私が相手をしましょう」

「……ま、私は何でもいいけどねー。どうせどのみち全員戦う事になるんだし、好きな順番で戦ったら?」


 そう言って姉上は呆れたように一つため息を吐いたけど、まあ普通はそうだよな。こんなガキを相手にするのにいきなり集団戦なんて挑むようなことはしないか。

 それならそれでいいんだけどさ。俺としても騎士達の実力ってのが分からない状況で集団戦なんてやらされることになったら加減を間違えるかもしれないし。


 ……あっと、そうだ。実際に戦う前に一つ聞いておかないといけないことがあったんだ。


「姉上。一応聞いておきますけど、俺の能力は話してますか?」


 話されてるんだったら戦い方も考えないとだよなぁ、なんて思ったのだが、そんな心配をする必要はなかったようだ。


「そんなことするわけないじゃない」

「奥の手だけじゃなくて、普通の能力の方もですよ?」


 奥の手……つまりは『黄金』の方だ。どちらかというとそっちの方が重要で、話してもらっては困ることだ。まあこの騎士達の様子を見るに話していないとは思うけど、姉上のことだしそのかけらくらいは話したかもしれない。ちょっと変わった力があるとか、奥の手があるってことくらいは言った可能性がある。


「だぁかぁらあ! 言ってないっての! さっさと行きなさい、まったく」


 だが、そんな俺の問いかけがお気に召さなかったようで、姉上は少し苛立ちを感じさせる笑みを浮かべながら俺の背中を押した。


「はいはい。それじゃあみんな・・・準備は良いわね? はい、始め~」


 俺と相手の騎士が向かい合い、武器を構えるなりすぐに合図をした姉上だったが、なんとも気の抜ける合図だなぁ。

 準備は良いかと確認してから開始を宣言するまであまりにも間がないうえ、宣言した姉上の声に緊張感がないから相手の騎士は本当に戦いを始めて良いのか迷ってしまっている。


「えっと、それじゃあその、よろしくお願いします」

「ああ。全力で相手をしよう」

『なんて言ってっけどよ、先に攻撃を仕掛けてこない辺りてめえのことを格下として考えてるよな』

「……ま、それならそれでいいけど」


 ペンネの言った通り、格上を相手にするんだったらまずはいかに隙を突くのか、というところから始まる。隙を突いてこない時点で相手の騎士は俺のことを格上だと思っていないということになる。

 ま、格上相手でも奇襲なんてしないのが騎士ってやつの生き方なのかもしれないし、そう言われたらそこまでだけどさ。


「ハアッ!」


 相手から攻撃してこないので、とりあえずこっちから攻撃してみることにしたんだが、まあまだ様子見の一撃だ。騎士様はどうやって対応してくるんだろうな?


「……確かに、子供としてはそれなりだろう。だがやはり騎士団と相対するには足りないな。さしもの『王家の切り札』も、身内を視る眼は鈍るようだ」


 おっと。思ったよりも簡単に受けられたな。ウルフレックでは子供でも受け止められる程度の攻撃とはいえ、少なくとも学園の生徒では受け止められる奴は限られるであろう一撃だったつもりだったんだけど。腐っても騎士ってことか。まあ、別に腐ってるわけじゃないけど。


「テエイッ!」

「甘いっ」


 続けて攻撃を仕掛けてみるが、今回のはさっきよりも少しだけ弱くしてみた。当然ながらこれも軽く防がれる。訝しげな顔をしている辺り、弱くなったのは気づいているんだろう。でも、その様子にどこか呆れが混じっていることから考えるに、きっとさっきの俺の一撃が全力で、溜めのない攻撃は一段劣るとでも考えたんだろう。

 でも……


「甘いのはどっちなんでしょうね」

「なっ――!?」


 語りかけながら一段階力を上げて相手の懐に潜り込み、騎士が驚いて後ろに体をのけぞらせたところで服を掴んで足をかける。柔道で言うところの大内刈りだ。

 そしてそのまま相手を押し倒し、剣を突き付けておしまい。


「相手を殺すまで、もしくは相手に殺されるまで油断なんてしちゃあいけないなんてのは、戦う者にとっては当たり前の常識じゃないですかね?」

「……猫を、被っていたのか……」

「というより、本気を見せてなかっただけですね」


 柔道の有段者からすれば甘い技だけど、そもそも柔道なんていう概念自体が存在しない世界においてはかなり役に立つ技だ。……まあ、うちの家族達に効いたのは初回くらいで、後は普通に対応してきたけど、あれはうちの家族がおかしいだけだ。実際、目の前にいる騎士はしっかり技にかかっている。


「ほら、これでうちの弟の強さが分かったでしょ? あなたももう一回やっていいから、今度はすぐにやられないようにね」

「あの、姉上? 俺としては今ので一人仕留めたつもりでやったんですけど?」


 倒したはずなのにまた復活して挑戦してくるとかやめてほしい。一回体験したんだし、次は対応してくるだろう。そうなるとこっちとしては凄いやりづらいんだからさ。


「一人増えたくらいで変わんないでしょ」

「戦い方を見ただけの集団と実際に手の内を体験した人がいるのとじゃ変わるでしょうに……」

「良いから! やれ」

「……はあ」


 やれって……あんたそれ、弟に対する言葉じゃなくね? いやまあ、やりますけどね。ここでごねたところでどうせ機嫌悪くなるか、騎士じゃなくて姉上本人と戦う事になりかねないし。



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