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約束は守る

 

「……ええ、本当に。これで本当に私が『黄金』を使うことができたのであれば話は早かったのですが、実際には使えませんから。ですが、他の者達はその言葉を信じません。私の目の前で黄金が使われた形跡があったのですから、それも仕方のない事ではありますが」


 ただ、ティアリアも一度俺が否定したからか、この場でそのことに関して言及してくることはなく、はあ、と小さくため息を吐いてから話を進めた。


 ……けど、本当に大変そうだな。『黄金』を使った使わないなんて話題一つでここまで大事になるなんて……ウルフレックでは凄いものだと喜ばれたけど、みんなそれほど重要視してなかったし、母上たちもあまり喜んでいなかったからこの扱いの差に少しビビっている。


 俺からしたら役には立つけど特に持て囃すほどのものではないと思えるんだけど……その認識は改めろってことなんだろうな。


(なあに今更なこと言ってんだよ。今までだって散々すげえって言われてきてたろ。だから隠してたんじゃねえのかよ)


 それはそうだけど、どっちかって言うと母上や兄上が隠しておけって言うから隠してたって方が正しいし、こんな大変そうにしてる状況を見てようやく本当の意味で理解できてきたっていうかさ……。まあ、それほど持て囃すようなものじゃないって考えは変わらないけど。だって結局、どんな力があるかよりも、どんなことを成すかが大事だろ。貴族であってもそうだし、国王ならなおさらだ。力があるだけのバカと、力はないけど天才的な頭を持ってる奴だったら天才の方が王様に相応しいだろ。


「『黄金』ね……そんなにすごいもんじゃないと思うけどな。そんなものが使えるかどうかよりも、国民を導く能力があるかどうかの方が大事だと思うけどな」

「国民を導くための力として『黄金』が重要なのです。少なくとも、王都の貴族たちはそう考えています」

「王都の貴族たちは、か。まあそうだよな。辺境の状況を知らない方々にとっては見栄えのいい『黄金』は人気になるか」


 王様が『黄金』なんて能力を持っていたところで、ウルフレックまでその力が届くことはないんだから、普通に善性の人間でそれなりに頭の良いものなら誰でもいいと思う。ウルフレックの状況を憐れんで支援をたくさんしてくれるような奴ならなお良しだな。


「……私が『黄金』を使えないことを証明できればそれでもかまわないのですが、それは不可能ですので」


 まあ、使えないことを証明することができれば、今みたいに貴族たちが騒ぐ理由がなくなるんだから少しは忙しさも解消できるだろう。でも、無理だろうなぁ。


「できないことの証明は無理だからな。力を隠してるだけだって言われたらそれまでだ」


 いくら必死に訴えたところでそれを証明する手段はないし、仮にその場ではティアリアの言葉を信じた様子を見せたとしても、腹の中では完全には信じることはないだろう。それに、「私は分かっていますよ」とか「そういうことにしておきましょう」みたいな勘違いをする奴も出てくると思う。


「はい。ですので私が『黄金』を使えるが隠していると考えて接触してくる貴族が多くいるのが現状です。ですので、わずかな時間とはいえこうして気負うことなく話ができるというのはありがたい事なのです」


「ふーん……ま、気晴らしになるんだったらいいさ。面倒ごとに首を突っ込むつもりはないが、〝友人として〟なら少しくらいは利用されてやるよ」

「……ふふ。ありがとうございます」


 別に、そんな感謝されるほどの事じゃないさ。というか、そもそも俺のせいでそんな大変な状況になってるようなもんだし、罪滅ぼしってわけじゃないけど少しくらいは話に付き合ってもいいだろ。


(なんだ、そんなデレて。きめぇな。この王女のこと狙うことにしたのか?)


 んなわけねえだろ。デレてねえから黙ってろわんこ。


 ――◆◇◆◇――


「あ。来た来た! 今回はちゃんと来たわね」


 練武場、なのだろうか。集団が訓練するのに十分な広さのある場所に辿り着くと、すでにそこで待っていた姉上に見つかった。

 それ自体は良いんだけど……姉上。あなたもういい歳した大人なんだから手を振りながらこっちに駆け寄ってくるのやめません? いやまあ、見た目は割と美人だし、純粋な顔つきしてるから似合っていると言えば似合ってるんだけどさ。


 でもほら、後ろみてみろよ。あの待ってる人たちが今日俺が戦う騎士達なんだろうけど、五十人くらいいる人たちがみんな見てるんだぞ。もうちょっと威厳とかある振る舞いを……ああでも、もう威厳なんてないか。


「王女様もこんにちは」


 いやあんた……〝近衛騎士〟が〝城の敷地内〟で〝王女〟を相手にこんにちはって……そんな態度でいいのかよ。


「ええ、こんにちは。騎士達を鍛えてくださって感謝します。少し邪魔をしますね」

「うんうん、見てって。きっと今日は楽しくなるから!」


 だからあんた、言葉遣い……はぁ。もういいや。ティアリアも気にしてないみたいだし。偉い人に怒られるんなら自業自得だし、俺には関係ないからどうでもいいか。


「今回はって、今まで約束をすっぽかしたことなんてないでしょうに」


 ウルフレックにいた時は普通に顔を合わせていたけど、その時だって何かを頼まれることはあったし、約束をすることもあった。けどその全てを俺はちゃんとこなしてた模範的な善い子だったってのに。

 ……まあ、約束を破ったらあとで面倒なことになると思ってたから破ることができなかっただけだけどさ。


「でも王都に来たのに私のところには会いに来てくれなかったじゃない」


 いや、まあ……それはね。だって会いに行ったら訓練をしようってなったでしょ。行かなくても結局訓練することになったけどさ。


 とはいえ、そんなことを言ったら泣かれるか怒られるかなので言うわけにはいかない。


「それは、あれです。姉上は王室近衛騎士団なんてところに所属しているんですから、そう簡単に会えるものでもないだろうし、無理をして会おうとした結果迷惑をかけるのもマズいかと思っての気遣いです」


 実際、会おうと思ったらいくら身内でもそれなりに手続きが必要になるだろうし、姉上の方も調整とかすることになっただろう。姉上は気にしないで予定を開けるかもしれないけど、その結果他の同僚や周りの人たちに迷惑が掛かることになるし会わずにいたってのもある。ちなみに、俺が手続きをするのがめんどくさかったって理由も……ないとは言わない。


「ふーん。そう言うことにしておいてあげるけど、次はそんな無駄な気遣いなんていらないから」

「……はい」


 これ、またしばらくしたら面会を取り付けないときげんわるくなるんだろうなぁ……。

 まあでも、あと半年は大丈夫だろうし、そろそろヤバいかも、って時になってから考えればいいか。


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