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お城にやって来た

 ――◆◇◆◇――


 姉上が学園に強襲してからおよそ二週間。外部の者を城の中に入れるにしてはだいぶ早いな、なんて思いながら俺は城の前まで来ていた。


「――はあ。来てしまったか」

(んだよ。そんなに来たくなかったってのか?)

「そりゃあそうだろ。誰が好き好んでこんな面倒な場所に来たいって思うんだよ」


 確かに俺だって全開はちょっと楽しそうだ、なんて思ったけど、あれは状況に流されただけだ。よくよく考えてみるとやっぱりふざけんな、って気持ちが湧いてくる。


 まあね。俺だって戦うこと自体は楽しそうだとは思うさ。けど、それが城でやるとなると面倒に感じてしまうのはそうおかしなことじゃないだろ? 面倒ごとに巻き込まれたくないと思ってるんだから、こんなイベントは避けるべきだってのに。あの時の俺はやっぱりどうかしてたんだ。


(貴族のバカどもは来たいと思うんじゃねえか?)

「そんなバカどもと一緒にするなよ」

(つってもお前も貴族だろうが)

「バカじゃないって言ってんだよ」


 ついでに言うなら普通の貴族という枠組みでもない。もっと言えば貴族という枠組みに収まっている意識すらもちょっと怪しい。だってうちの家って国よりも領地を優先するし。一応貴族として所属しているけど、それが重荷になるようなら迷うことなく抜ける。その程度の意識しかないんだから、こんな城なんて期待と思わないし、ありがたみを感じることもない。


「まあ、無難に終わらせてさっさと帰るしかないよな」

(それが出来ればいいな)


 できるだろ。姉上に頼まれた通り騎士達をちょっと相手しておしまいなんだから。ティアリアが呼び留めてきたりするかもしれないけど……まあ学友と話をするのは普通の範囲だろ。


 どうか何も問題なんて起こらないでほしいな、なんて思いながら城とその外の世界を隔てている門へと近づいて行き、門衛に話しを通して中へ入れてもらう。

 その際に案内役の使用人を待つこととなったのだが、流石は城だな。俺が待っている間も門衛たちは無駄口一つ叩くことはなかった。

 そうしてやって来た案内役の者の先導を受けて城の敷地内を進んで行くのだが……


「……ああ?」


 通路を進んでいると、その向かい側からゆっくりとこちらに向かって歩いてくる一団が見えた。

 城には俺以外にも登城している貴族がいるんだしそいつらかと思ったけど、すぐに違うのだと気が付いた。なにせ、先頭にいるのは俺も良く知っている人物――ティアリアだったのだから。分からないはずがない。


「あら、このようなところで、奇遇ですね」


 なんて本当に驚いたような表情をした上に、口元に手まで当てて反応しているが、そんな言葉を誰が信じるかっての。


「奇遇って……先回りしたんだろ?」

「ふふ。分かりますか?」

「城に来た時はよろしく、なんてこと言っておいたくせに、今更惚けても意味ないだろ。それに、タイミングが良すぎるっての」


 これだけ広い敷地内で、たまたま俺が来た時にたまたま同じ場所を通ったなんて信じるかよ。しかもここ、王女が使うような場所じゃなくて騎士とか兵士、後は使用人向けの通路だろ。


 それに、城に来るときは盛大に歓迎するとか言ってたしな。


「実は、門にあなたが来たら私のところにも報せが入るようになっていたのです」

「だろうな。でも、なんでだ? 今日はティアリアに会いに来たわけじゃないし、別にこんなところで話なんてする必要ないだろ」


 わざわざこんなところで話をしなくても、どうせ学園で会うことになるんだからその時に話しをすればいいと思う。だが、俺がそう言うとティアリアはかすかに不愉快そうに顔を顰めた。


「学園で会うことができるとはいえ、友人が家に来たのですから、挨拶の一つくらいすべきだとは思いませんか?」

「家……ああ。そう言えばここはティアリアからすれば家になるのか」

(規模が違い過ぎて実感湧かねえな)


 だよなぁ。でもお前の家も広さだけは勝ってるだろ。まあ、あの森と城じ文明が違いすぎるけど。


(ああ? んだてめえ。馬鹿にしてんのか? 齧るぞ)


 事実だろうが、森の王様。ある意味あの森はお前の家みたいなもんだろ。お前だってかなりの範囲を縄張りにしてたんだし。


「ええ。それに、折角ですし友人の雄姿を見ておこうかと思いまして」

「雄姿って……そんなすごいもんでもないだろうに」

「騎士団を相手に戦うのですから、凄い事ですよ。これまでも外部からの招聘によっての訓練は行われてきましたが、そのどれもが名を馳せた方々でしたもの」

「俺の場合はたんなる身内びいきってだけだけどな」


 姉上が言い出さなければ俺なんかが呼ばれることはなかっただろうさ。


「そんなことはないでしょう。アイリーンは実力がないものは決して讃える言葉を口にしませんから」


 なんてティアリアは姉上のことを信頼している口ぶりで言ったけど……うん、まあ、それは俺も同意する。あの人、強い弱いと信じられるかられないかだけはハッキリしてるから。姉上が強者を称える時は全て本心だ。それ自体は嬉しいんだけど、今回ばかりは嬉しくないというか、余計なことをというか……まあ、今更仕方ないんだけど。


「まあ来た理由は分かったけど……それよりいいのか?  お姫様って言ってもやることはあるんだろ?」


 昔は王族や貴族なんて遊んでるだけだろ、とか思ってたけど、貴族って結構仕事ってあるんだよな。兄上を見ているとよくわかる。

 まあ、貴族と姫じゃやることは違うだろうけど、ここ最近忙しくしているティアリアを見てもやることは沢山あるんだと思う。最近は毎日用事があったみたいだし、そのせいで学園を休むこともあったんだから今日だって多分何かしらの用事はあったんじゃないだろうか。


「そうですね。ですがやることといっても、貴族達とのお茶会をしているだけですから。もっとも、お茶会というのはあくまでも名目であって、実際には貴族達と面会をして嘆願を聞き、話をまとめてお父様にご報告するのですが」


 お茶会ねぇ……イメージとしては女性がお茶とお菓子を飲み食いしながらおしゃべりをする華やかな催しってなもんだけど、王族ともなるとそこに込められた意味合いが変わってくるんだろうなぁ。


「お茶会っていうと華やかで優雅なイメージだけど、そう聞くと大変そうだな。こんな学園でも会える田舎貴族に時間を割く余裕なんてないんじゃないか?」

「忙しいからこそ、です。流石に私も疲労を感じてしまいまして、息抜きの時間も必要なのです。その為に、申し訳ありませんが学友であるあなたのことを理由にさせていただきました」


 そう言いながら微笑みを浮かべたティアリアだが、その笑みの奥には本人が言ったように疲労の色が感じ取れた。


 正直言ってティアリアの事はあまり好きじゃないし、学園での班行動中じゃないんだから気遣う必要もない。

 でも、一応学園限定とはいえ仲間であることには違いないんだし、特に何かする必要があるってわけでもないんだから少しくらいは付き合ってやってもいいか。


「……まあいいけど。でも、俺なんかを理由にしないと休めないなんて、思ってたよりも大変なんだな、お姫様っていうのも」

「元はこれほどではなかったのですが、最近は私が『黄金』の魔力を使えるという話が広まってしまっているせいで、特に用がない貴族達も面会を求めてくるのです」

「そうか。そりゃあ大変だな」


 なんてすっとぼけてみせたのだが、なんだろうか。ティアリアの眼差しが胡散臭そうなものを見るような、もしくは何かの犯罪の容疑がかかっているものを見るような、そんな感じのものに思える。……これってやっぱり俺が疑われているんだろうか? いや、疑われているんだろうな。だからこそこんな目で見てくるんだろう。


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