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姉弟のふれあい

「え、エルド? この人は……?」

「下がれエリオット。この人の相手をするなら周りに気を遣う余裕なんてないから巻き添え喰らうぞ」


 一度ローザリアに止められたけど、姉上はまだやる気だ。全力で戦うつもりはないだろうけど、本気では戦うかもしれない。そうなるとエリオットまで巻き添えを喰らうかもしれないし、なにより邪魔だ。


「だ、大丈夫なの? 衛兵を呼んだりとかは……」

「向こうにお前の主とお姫様がいることで分かってんだろ。そんなの呼ぶだけ無駄だ。そもそもこの人自身が衛兵の上位互換みたいなもんだしな」


 こんな人でも近衛騎士だぞ? 今日だって多分王女であるティアリアに呼ばれてこの場に来たんだろうし、衛兵を呼んだところで対処なんてできるわけがない。


「現ウルフレックにおける『最高の戦士』、アイリーン・ウルフレック。王家直轄の王室近衛隊に所属している正真正銘俺の姉だ」


 そう言えばエリオットにはこの人がどんな人なのか話していなかったな、と思い出して、視線を外さないまま俺は姉上のことを紹介した。


 姉上は対外的には『最高の戦士』と呼ばれているし、俺達もそう呼んでいる。実際多少の問題はあれど、おれの『黄金』を抜きで考えた場合、ウルフレックにおいて最も強い戦力であることに間違いはないんだ。


「やだなぁ~。最高の戦士なんて名前は私じゃなくて――」

「姉上。そんな無駄話をしにここに来たのですか?」


 俺としてはそれでもいいんだけど、絶対に違うよな。だったらさっさと終わらせてしまいたい。一応今は昼休み中だし、下手に時間を延ばしても他に面倒ごとが来る可能性もあるからな。


「え? ううん、違うけど……そうね。それじゃあ、そろそろ本気で話そっか・・・・


 そう口にした直後、姉上は再び俺の目の前まで一瞬で異動し、音速を超えた証拠である水蒸気をばら撒きながら拳を放ってくる。


「これのっ……どこが話し合いだって言うんだよ!」

「これくらいは話し合いの範疇でしょ?」


 角度を付けた平面でわずかにだが拳の方向を逸らし、同時に体も傾けながらなんとか避ける。


 だがやはり避けているだけでは意味はなく、迎撃して満足させないとこの戦い話終わらない。

 そう判断した俺は、『黄金』は使わないままだが、それでも魔物を相手する様に殺す気で魔法を使い、姉上を仕留めにかかった。


「ん……?」

「潰れろ!」

「んー……避けてもいいけど……」


 頭上から叩きつけられるほぼ透明な平面魔法。それを視認しているのかいないのか、顔をあげて空を見上げた姉上は呟きながら拳を構え、空に向かって振り上げた。


「久しぶりの〝お話し〟なんだし、受けてあげるのがお姉ちゃんよね!」


 かかった!


 大声で話しながら拳を振り上げた姉上。確かに俺が使ったのがただの平面であればそれで問題なかっただろう。姉上のことだし、普通の奴ならそのまま潰れていた攻撃も、迎撃できたのなら壊すことができるに決まっているんだから。


 でも、今回はそう簡単にいかない。今回俺が使ったのは平面魔法だし、空から落としたのも間違いない。

 だが、その向きが違う。板を叩きつけるように〝面〟で落としたのではなく、〝辺〟を下にして落としたのだ。


 以前魔物を千切りにした時と同じ技。まああの時程たくさん出していないし、姉上ならこの程度の攻撃は喰らったところで死にはしないだろう。傷をつけることができれば御の字と言ったところだ。


「いったあ~~~! 壁の方じゃなかったの!?」

「戦いの最中に相手の言葉を信じるなんて、油断しすぎではありませんか?」


 だが、それでも隙はできる。

 姉上が縦に落とされた平面魔法を迎撃し、予想と違っていた衝撃に驚いている中、俺は動きを止めることなく姉上の背後へと回り込んだ。


 そして、そのまま姉上の背中に向かって平面魔法の刃を放つが……


「なーに言ってんのよ。弟の言葉を疑うお姉ちゃんがどこにいるっていうの? これが命のかかってる戦いの中でも、私は弟の言葉は疑わないわ!」


 振り向きざまのアッパーで俺の攻撃は砕かれることとなった。

 確かに声をかけはしたが、それでも背後からの攻撃だぞ。あのタイミングで防ぐのかよ……。


「――でも、このままやられるのもかっこ悪いし、そろそろいいところを見せようかな」


 そう言った直後姉上の体から魔力の高まりが感じら――


「ぐぎっ……!」


 魔力の高まりを感じた直後、魔法の発動だのを感じるよりも先に姉上の拳が脇腹に突き刺さった。魔力を感じた瞬間に反射で壁を作ったが、そんなものに意味はない。ただ障子紙のように破られておしまいだった。


「前より腕が落ちたんじゃないの? その程度の壁なんて、十枚作ったところで木っ端みじんよ!」

「あ、姉上の方が強くなっただけじゃないですかね? それに――捕まえました」


 脇腹を殴ってきた姉上の腕を掴み、吹き飛ばされるのを堪える。

 正直吹き飛ばされた方が威力的には良いのだが、それだといつも通り一方的にボコられて終わる。なんだったら地面に足を付けることもできないピンボールになるだけだ。

 だからここは多少無理をしてでも距離を開けないようにしなくてはならないのだ。


 とはいえ、腕を掴まれたところで普通の敵なら振り払っておしまいだろう。でも、今の姉上はそうしないと確信している。だって、振り払うことは出来るとはいえ、〝腕を掴まれた〟という事実は確かなのだ。そんな状況で攻撃をされるなんて面白い状況・・・・・を姉上が捨てるはずがない。

 殺しのためでも生活のためでもなく、ただ楽しむための戦いなんだ。なら、こんな状況は願ったりというもの。だから姉上は俺を振り払わない。


「今度は本当に潰れろ!」

「潰れない!」


 姉上の左右に平面魔法の壁を作り、それを全力で叩きつける。まともに喰らえばぺちゃんこになるだろう攻撃だ。

 でも……


「足を使うなんて、淑女としてどうなんですか?」

「淑女である以前に、私は戦士だもの。これくらい当然でしょ」


 両脇から迫る壁。ほとんど透明で視認することは出来ていないはずなのにも関わらず、姉上は俺に捕まれていない左腕と右足を使って受け止めている。タイミングも完璧で、威力も乗っている。そのせいで挟み込むように展開した壁にはヒビが入ってしまっている。


 でも、言ってしまえばそれだけだ。普段であればヒビどころか砕かれておしまいなのに、今は〝受け止められている〟のだ。つまり、姉上の拳の威力が普段には遠く及ばないという事。


「手がふさがって足も使っているとなると、もう動けませんね」


 加えて、壁で挟み込んでいることで、姉上は碌に動くことができない。もし壁を受け止めている手か足を遣おうとすれば、その瞬間壁は動き出して壁に挟まれることになるんだから。


「そうでもないわよ? あなたの目の前に立派な武器があるじゃない」

「え……?」


 なんて驚き、戸惑っているのもつかの間。姉上は俺が掴んでいる右腕を大きく引き、それに伴って俺も姉上の方向へと引き寄せられた。

 そして、姉上の頭が大きく後方に引かれたのを見て、姉上がなにをしようとしているのかを察した。


「うっそだろ、おい……」

「踏ん張りなさい!」

「ちょ、まっ――」


 姉上に引き寄せられたことで体が流れている俺に、姉上の頭突きが放たれた。

 それはまさしく放たれたというに相応しい一撃だった。まるで大砲のような強力な頭突き。先ほどまで拳で音速越えの攻撃を繰り出していた姉上だったが、まさか頭突きでも同じようにできるなんて誰が思う? 頭突きを放った瞬間にパンッと空気の壁を破る音が聞こえるなんて、どう考えてもおかしいだろ。音速を超える頭突きって……もはや兵器にしか思えない。


「ヅアッ……!」


 姉上がなにをやるのか理解した瞬間、俺は平面魔法で止めることを諦めた。だって、あんなぺらっぺらな壁じゃ何枚あったってこの攻撃を止めることができるわけないんだから。何十枚も重ねれば何とかできるかもしれないけど、それには時間が足りない。


 そう見切りをつけたが、だからといって何もしないわけにはいかない。そんなことをすれば、マジで死ぬ。本当の本当に、冗談抜きで死ぬ。

 だから、代わりに身体能力の強化……それも、首から上だけを重点的に強化していくことで何とか何とか堪えることができたが、それでも頭だけトラックにひかれたんじゃないかってくらいの衝撃で弾き飛ばされた。


 なんだよ今の衝突音。絶対に頭突きの音じゃないだろ。鐘撞きの音だってもっと静かだし、車の衝突音だってもっと大人しいはずだ。なんだあの人。頭に爆弾でも備わってるのか? いやまあ、頭の中は爆発してるようなふざけた脳みそしてるけどさ。


 頭突きをする際に踏ん張ったのだろう。右足の接地している地面は陥没し、挟み込むように設置した壁は力んだ時の力に耐えきれなかったようで砕け散っている。

 ただ力を入れただけの踏ん張りで俺の魔法を壊すなんて、どれだけ力を込めたんだよ。

 でも、ある意味壊してくれたおかげで俺は助かったと言えるかもしれない。踏ん張るために使っていた壁が壊れたせいで今一つ力を載せきれなかったみたいだから。


 でも、その代償として、姉上が自由になってしまった。同じような状況を作っても二度目は大人しく捕まってはくれないだろうし……マジでマズいかもしれない。



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