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一章・終了

 

「ティアリア王女様! ご無事ですか!?」

「どうやら教師たちが来たようですわね」

「ええ。これでひとまずは安心できます」


 十人近い教師達がやって来たことでティアリアは安堵に胸をなでおろす。ティアリアにとっては暗殺者の男がどうなったのかは分からないが、これだけの教師がいる中で再度殺しに来ることはないだろうと判断したのだ。実際、暗殺者がいたとしてもこの状況で殺しを慣行しようと思うものはいないだろう。

 もっとも、ティアリア達のことを襲った暗殺者はもう死んでいるのでこの場で襲われることはありえないのだが。


「森全体で異常が発生しました! 現在は教師たち全員で事態の収拾にあたっておりますが、先ほどの救援要請は何かあったのでしょうか?」

「ええ。あなたの言ったところの森の異常というのも関係しているかもしれませんが、〝不審者〟が現われ、学園の生徒である私達を襲ってきました」

「な、なんですと!? それでお怪我は……」

「問題ありません。ただ、その不審者が一人だけとは限りませんし、他の生徒達に何か起こらないとも限らないので、警戒を怠らないようにしてください」

「そ、それはもちろんです!」


 ティアリアが教師達と話をしていると、森の一画ががさがさと音を立てた。その瞬間教師達に限らずティアリア達も警戒し、それぞれ武器を構えたのだが……


「全員無事みたいだな」


 森の奥から姿を見せたのは全身に木の葉や土を付けたエルドだった。


「エルドッ! 無事だったんだね!」

「まあ、あのくらいなら数が多いだけだしな。その数が多いのが厄介で時間がかかったけど」

「それでも、あれだけの魔物を相手にして生き残ることができただけでも賞賛に値しますわよ」


 実際にはまともな〝戦い〟になる事もなく魔物処理をし、エリオットたちのことを陰ながら助力し、危機に陥っていたティアリアを助けた後、再び森の中に戻ってしばらく潜伏していたのだが、それを知らないローザリア達にとっては自分達を逃がすために囮となったエルドが今ようやく敵を倒して戻ってきたのだと判断したのだった。


「ところで、そちらでは魔物の動きにおかしなところはありませんでしたかしら?」

「おかしなところ? いや、特にはないけど……何かあったのか?」

「実は、魔物の動きがおかしいと言えばいいのかしら? なんだか途中で魔物達の勢いがなくなったように感じられたのよ」

「いや、とくにそういったことはなかったけど、普通に魔物のボスを倒したから統率が取れなくなったとか、倒され過ぎて逃げたとかそんなんじゃないか? 魔物だってバカじゃないし、ヤバいと思ったら逃げるもんだしさ」


 それはエルドが通りすがりに陰ながらローザリア達が戦っていた魔物を処理していたからなのだが、それを言うつもりのないエルドは何も知らないとばかりに惚けて流すことにしたのだった。


「……そんなものなのかしら?」

「とにかく、今は生き残ったことを喜ぼうぜ。一応誰も死ぬことなく終わったんだし」

「そうですわね」

「終わったって言っても、まだ本当に終わったかどうかは分からないよ。教師と合流は出来たけど、森から出るまでは何があるか分からないし」

「あー……まあそうだな」


 これだけのことがあったのだ。帰ってからも色々と面倒で大変なことはあるだろうが、今はとにかく全員無事でよかったと話して全員で教師に守られながら学園に帰っていくこととなった。


「――なあ、ペンネ」

(なんだよ。人前で話しかけて良いのか?)

「これくらい平気だろ。どうせ今は俺の事なんて誰も注目してないし」


 学園に帰る集団の最後尾を歩いているエルドは、小さな声で自身の内に潜んでいるペンネへと話しかける。

 あえて声にする必要はないし、なんだったら無駄な危険を冒しているとも言えるのだが、今のエルドはなんだかそういう気分だった。


「この学園生活、案外退屈しないかもな」

(なんだそりゃ。皮肉か? でもまあ、お前なら地獄だろうと楽しむことができるだろうよ。精々存分に楽しめや)


 久しぶりに〝遊んだ〟ことでご機嫌となったエルド。

 厄介事はごめんだと言いながらも厄介事を楽しんでいるという矛盾した考え、だが、エルドはそれに気づかない。


 この矛盾した考えはきっとエルドが生まれ変わったからこそだろう。

 退屈な人生を生きた経験があるからこそ、魔法という〝ファンタジー〟がある世界に興奮しているため、厄介事を楽しむ。

 だが同時に、この世界での思い出も大事にしているからこそ〝皆〟に迷惑を掛けたくない、領地を大事にしたいと厄介事を忌避している。


 そんな相反する想いを持ったエルドが今後どう生きていくのか。それは誰にも分からないのだった。


これにて一章が終了となりましたが、書き溜めが無くなりました!

いつも読んでくださっている方には申し訳ありませんが、『勇者少女』の八巻の執筆作業があるので、しばらく更新することができません。

おそらく一ヵ月程度でまた更新できると思いますので、その時をお待ちいただけれは幸いです。

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