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『黄金』が発現した……?

 ――◆◇◆◇――


 SIDE:王女


「うう……いったい何が……っ! 私はっ……!」


 エルドが自身の正体がバレないようにと逃げてからそれほど時間をおくことなくティアリアは目を覚ました。

 目が覚め、数秒ほど意識がはっきりしない様子で頭を押さえていたが、今自分のいる場所が自室のベッドの上ではなく固い地面の上だと気が付いて慌てて状況を思い出し、体を起こした。

 だがそうして顔をあげた先に敵はおらず、代わりにあったのは……


「『黄金』……」


 エルドが作っておきながら消すことができずに放置しておいた『黄金城壁』。

 ティアリアはその威容に目を奪われていたのだが、それも永遠にというわけにはいかない。ティアリアが目の前の『黄金』に目を奪われていると、突然『黄金』はその形を失い始め、金色の鱗粉となりだしてしまった。


「消えていく……」


 溶けるように消え、金色の粒子が空中に舞う。『黄金』が消えてしまう様子を呆然と見ていたティアリア。

 最初は起きたばかりであり頭が吐きりしていなかったためただ見ているだけだったが、目の前に『黄金』がある、ということを認識するなり慌てて立ち上がった。


「っ! ま、待って――え?」


 だが、立ち上がり、手を伸ばすティアリアだが、その手が触れる前に『黄金』は完全に形を崩し、消えてしまった。後に残ったのは空中を彩る金色の粒子だけ。


 そのことを名残惜しく思ったティアリアだったが、すぐにそんな気持ちも消え去った。

 なぜなら、壁の向こう側の景色が見えてしまったから。


「なに、これは……あの男がやったの?」


 エルドが最後に防いだ暗殺者の男の自爆攻撃。その被害は城壁で防いだこちら側には何もなかったが、その向こう側は酷いものだった。そこに存在していたはずの森は消滅し、遠くまで見通すことができるようになっていたのだから。


 あまりの非日常的な光景に、ティアリアは呆然と眺めるしかなかった。


「ぐっ……」

「っ! キリエッ!」


 だが、幸いというべきか、すぐ近くから誰かがうめく声が聞こえてきたことでハッと意識が現実に戻すことができた。


 聞こえてきた声の方を見てようやくキリエや自身の状況を再度思い出し、ティアリアは倒れているキリエに駆け寄った。


「うぐ……ひ、ひめさま……」


 どうやらキリエの意識は戻ったようだが、まともに動くことができないようで、倒れたまま体を起こすことすらしない。剣で切られたというわけではないのではっきりとした外傷は見当たらないが、人一人を吹き飛ばすほどの攻撃を受けたのだ。骨が折れていてもおかしくないし、内臓が傷ついていてもおかしくない。


「ど、どうすれば……きょ、教師のところまで連れていく?」


 もし内臓が傷ついているのであれば一刻を争う。それが分かっているからこそどうするべきか自分自身に問いかけるように呟くが、下手に動かしていいものなのか分からず答えは出ない。


 だがそこで、今のティアリア達が最も必要としている人材が森の奥から姿を見せた。


「王女殿下!」

「これはいったい……」


 現われたのはローザリアとエリオット。どちらも体中に傷を負っているが、それでも重大な怪我をしているというわけではなく、それぞれ自身の足で歩いている。


「ローザリア、エリオット。二人とも無事だったのですね」

「ええ。なんだか途中で魔物達の勢いがなくなったように思えましたが……いえ。それよりも少しだけお待ちを。今治癒の魔法をおかけいたしますわ」


 ローザリアも疲れているはずだが、二人の様子……特にキリエの状態を見るなり足早に二人に近寄り、キリエのそばにしゃがみ込んで魔法を使い始めた。


「どうかしら?」


 治癒属性の魔法を使ってキリエのことを治したローザリアがキリエに問いかけると、キリエはゆっくりと体を起こし、自身の状態を確認し始めた。


「……ありがとうございます。これでまだ戦う事が出来ます」

「無理はしないでちょうだい。治したといっても、わたくしの方も先ほどまでの戦いで魔力を使ったので、それほど残っていないの。だから完全には治さず、最低限の治癒だけしか行っていないわ。また激しく動いたら動けなくなるはずよ」

「それでも、武器を握れば姫様の盾になることくらいは出来ます」

「駄目よ! そんなことさせるわけにはいかないわ!」


 戦えると言いながら自身の武器を探し始めるキリエを止めるように、ティアリアはキリエの肩を掴んで座っているように押さえつける。

 たったそれだけの行動ではあったが、それでも完治していない体には痛みがあったのか、キリエは顔を顰めて小さく体を揺らした。


「ですが姫様……っ! ひ、姫様! あの敵は……奴はどこに!?」


 不意に自信を倒した敵のことを思い出したキリエは自身のことを押さえているティアリアの腕を掴んで慌てて問いかけた。


「それが……分からないの。私もついさっきまで意識が無くて……起きたら……」


 自信の見たものを説明しようとしたティアリアだったが、そこで言葉に詰まったように話すのをやめて俯いてしまった。


 話すのは簡単だ。なにが起きたのかは分からなくても、自身が見たものを話すだけなのだから。

 だがティアリアは、自身が見たものを――『黄金』のことを話していいものなのか迷ったのだ。


「起きたら? 何かあったのですか?」

「……『黄金』の壁が、目の前に……」

「お……黄金? それは、あの『黄金』で間違いありませんかっ……!?」

「この状況に混乱して見間違えたというわけでなければ、そのはずよ」


 結局話すことにしたティアリアだったが、口にしてからもまだ本当に言ってよかったのかと悩み続けている。

 しかし、そんなティアリアに対してキリエは驚きつつも喜びに満ちた顔をしている。当然の反応だろう。なにせティアリアが『黄金』を発現したとなったら、もう今のようにあからさまに命を狙われることはなくなるうえ、これまでとは違って絶対的な力を手に入れることができるのだから。


「あの、もしかしてさっきから空中に待ってる金色って……」

「先ほど『黄金』が消える際に空中に散ったものになりますね」


 だが、そんな話を聞くことが好ましくない人物もこの場には居た。ローザリアとエリオットだ。


「これは……わたくし達は聞かなかったことにした方がよさそうですわね」

「あ……ごめんなさい。そうしてもらえると助かるわ」

「わたくし達としても、申し訳ありませんが安易に深くかかわってはならない話題のようですもの」


 王家の騒動に巻き込まれた結果今回のような命の危険に晒されることになったのだ。ティアリアが『黄金』が使えるようになった、あるいはなるかもしれないという話になれば、どう考えたって大事になるし、その当事者となってしまえば厄介事に巻き込まれることになる。それは一学生としても、家のことを考えなければならない貴族としても避けたい事態だ。


 そのことを理解しているティアリアは、ローザリアの言葉を無礼や裏切りと断じることなく理解を示して頷きを返した。

 元よりティアリアも王家の問題……自身の問題にローザリア達を巻き込むつもりはないのだ。自身の派閥として活動してくれるのであれば巻き込むが、それはまだ決まっていることではないし、巻き込むにしても当主に話しを持って行ってからになる。

 少なくとも、今この場で勝手に話しを進める事ではない。


 その後はお互いの無事を称えながらもどこか距離感のある空気で話を続けていたのだが、しばらくして教師たちが姿を見せた。


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