黄金城壁
「悪いが、逃がすつもりはないんだ」
そういうなり俺は周囲に巨大な『黄金』の壁を形成し、男と俺を囲んで誰もこの場から逃げられず、この場に近づけないようにした。
これだけの規模でやると流石に目立つし近いうちに人が来るだろうけど……その前に終わらせれば大丈夫だろ。
「クソッ! 『黄金』なんてそんな連発していいもんじゃねえだろ! 魔力の消費がえぐいんじゃなかったのかよ!」
それどこ情報? 今の時代には『黄金』の使い手はいなかったはずだけど……ああ。王族とか貴族に伝わる文献とか? 口伝や伝承を言い伝えている人とかいるだろうし、なんだったらエルフなんかは当時の者がまだ生きているだろうから知ろうと思えば知ることは出来るか。
「あー、まあ普通よりは使うけど、そもそも元々の魔法自体がそんな消費しないからなぁ。十倍くらい魔力を使うけど、それでも他の属性魔法と同じくらいの消費しかないんじゃないか?」
割と一般的な属性である『炎』とか『放射』とかだったら十倍の消費量になったら長続きしないかもしれない。
けど、元々いろんな魔法属性の中でもっとも魔力消費量の少ない魔法って言われるくらいだしなぁ、『平面』属性って。それが十倍の消費量になったところで……ねえ?
防御力は千倍、魔力消費量は十倍。……うん。ひっどい性能してるな。
まあ、『黄金』は防御力が上がるっていうよりは全ての魔力を宿す存在に対して優位性を発揮する、って感じだから厳密に言うと防御力千倍ってわけじゃないんだけど……まあ強くなるのは間違いない。
「ふざけんな! なんだよそのクソみてえな話は! っかしいだろうが!」
「そんなこと言われてもなぁ……俺としてはこんな力よりももっと普通の魔法属性が欲しかったんだけど。……まあいいや」
個人的には自然現象を操る系の魔法属性が欲しかった『炎』とか『風』とか……
「そろそろ終わりにしようか」
「ガッ――!?」
最初とは違って『黄金』を併用した弾を射出する。
頭を狙ったし、普通なら避けられないはずなのに、それでも避けることができたのは初撃で見せてしまった技だからか、あるいはこれまでの経験か……どっちもか。
ただ、右肩から先が吹き飛んでいるのでまともに戦うことは出来ないだろうし、あの出血じゃそう遠くないうちに死ぬはずだ。
「『黄金』製の平面を射出することでなんでも貫くことができる槍の完成か。それを連発できるとなりゃあ、そりゃあふざけた話だって思うわなあ」
「いや、でもお前それ防いだじゃん」
「ハンッ! 俺様とそこらの雑魚を比べるんじゃねえよ!」
いやまあ、確かに強かったけどね? 体高十メートルって、正直バケモノだろ。『黄金』があるから負けないとは思ってたけど、我ながらよく勝てたと思ったよ。正直最後の方は泥仕合だったし。
というか、槍じゃなくて銃なんだけど……まあこの世界に銃なんてないし、貫くんだから槍出も間違いじゃないか。
「……はっ。さっさと殺さねえでいてくれてありがとうよ。――消し飛べ。バーカ」
なんて話していると、肩を押さえた状態の男が苦しそうにしながらもニヤリと笑ってこちらを見ていた。
こんな状況で笑っていられる理由は、すぐに分かった。
「あ……これはちょっとまずいか?」
男の心臓の付近から強烈な魔力の反応が感じられた。あの感じからすると、広範囲に被害を及ぼすような大魔法と同レベルの魔力があるんじゃないか?
……ハア。ちょっと油断しすぎたな。こんなお遊びみたいな戦いだったし、学生としての日々に気が抜けていたのは認めるけど……兄さんに知られたら気を抜きすぎだって怒られそうだな。
「殺したら止まると思うか?」
「こりゃあ、あいつを殺しても止まらねえな。もう既に大量の魔力が集まってやがる。下手に止めようとすりゃあ、その時点で魔法が暴走するぞ。まあお前なら平気じゃねえのか?」
「はんっ! 『黄金』だろうと関係あるかよ。ドラゴンでさえ吹き飛ばす一撃だ。仲良く一緒にあの世に行こうぜ!」
「それはちょっとお断りかなぁ」
ドラゴンを吹き飛ばす一撃かぁ……そうなると、最低でもドラゴンの放つブレス以上には威力があると見た方がいいか。ペンネの本気の一撃……には及ばないかもしれないけど、それに迫る威力だと考えると、流石に本腰を入れないとまずい。
「――〈世界の中心はここにあり。この地は何者にも侵されることのない聖域。星の根源。その輝きは星を満たす命の光。傷つける事ができるものなどどこにもいない。打ち砕けるものなどどこにもいない。故に、輝け我が堅牢! 黄金城壁〉!」
言葉を紡ぐ毎に足下から金色の粒子が舞い上がる。
その光は言葉を重ねるごとに輝きを増し、形を作り、男と俺を隔てるように巨大な壁を成形していく。
この壁を崩すことは誰にもできやしない。だってこれは、〝星そのもの〟なんだから。
『黄金』はただ単にすごい魔力というわけじゃない。魔法の威力を底上げしてくれるというものではなく、伝承にあるように神の力というわけでもない。
いや、ある意味では神の力と言えるのかもしれない。神様という存在の定義を、この星とするのであれば、まさしく神の力だ。
星に流れる全ての命、存在を形作る大元のエネルギー。星の命そのもの。それが『黄金』の正体だ。
だからこそ『黄金』は全ての存在に優位に働く。だって、全てはこの力から分かれた者でしかないんだから。オリジナルの一部でしかない存在が、オリジナルそのものに勝てるわけがない。
だからこの城壁は、星を砕く一撃でなければ砕くことは出来やしない。
「悪いな。あの世には一人で行ってくれ」
黄金色に輝く城壁の向こうで何かが盛大に爆発した音が聞こえたけど、壁のこちら側にはくぐもった音とちょっとした風しか来ない。
壁にはヒビどころか傷一つなく、今も尚その威容を誇っている。
「……あいっかわらずふざけた魔法だな。だがよお、こんな奴に〝城壁〟なんざ使う必要あったか?」
「まあ普通の『黄金』でも防げたかもしれないけど、多分三枚は割られたと思うんだよ。四枚目以降は分からないけど、ドラゴンを吹き飛ばすって言われるとさ。ちょっと心配になるだろ。だったら安全を確保するために使っておいた方が確実だろ。そんな疲れるものでもないし」
もしかしたら五枚でも駄目だったかもしれない、なんて考えて心配しながら対処するよりも、最初っから全力で防いだ方が面倒がなくていい。
ついさっき油断してこんな状きゅおうになったばっかりだし、せめて防御は油断しないで事に当たるべきだ。
「ハッ……こんなもんを作っておいて〝疲れない〟なんて……バケモノめ」
「お前ほどバケモノじゃないから問題ないな」
「見た目の話じゃねえよ」
まったく。こんな真人間を指してバケモノだなんてふざけた事を言うもんだ。
というか、そんなバケモノ相手に良い戦いをしたお前も十分バケモノだろ。
「うっ……」
「おっと。どうやらお姫様のお目覚めのようだな」
みたいだなぁー。もうちょっと寝てるかと思ったんだけど……まあ敵を倒し終わったしいいか。
「魔物用の眠り薬だったから少なめにしたんだけど、ちょっと少なすぎたか?」
「まあ、後は『黄金』の威圧感もあるだろうな。でけえ音もしたし、起きんのも当然だろ」
あー、それもあるか。『黄金』って便利だし威力はあるんだけど、なんか周囲の存在の意識を引き付ける効果があるんだよな。威圧感というか……ゲームで言うなら『ヘイト集め』的な効果。
便利だからいいんだけど、ちょっと困る時もあるんだよな、今みたいに。
「とりあえず、ここから逃げるぞ」
「城壁は消さねえのか?」
「出したばっかだからなぁ。魔法を終わらせても後一分くらいはそのままだよ」
そんなすぐに出してすぐに消すようなものじゃないからな。仕方ない。
城壁を残していくのはちょっと不安というか気になるけど、近くに俺がいなければ『黄金』の使い手=俺、なんてことにはならないから大丈夫だろ。
とりあえずこの辺は大丈夫だろうし……エリオットたちの様子でも身に行くかな?




