王様なんてお断り
「誰だ! 出てこい!」
「出てこいなんて言われて素直に出てくバカなんざいねえよなぁ」
ペンネはそう言って相手のことを笑ってるし、実際にそうなんだけど……
「まあ、出ていくけどな」
「行くのかよ」
「いや、だってここからできる事なんてないし。それに、先にお姫様の方を黙らせておかないとだろ?」
初撃で仕留められなかった以上、あのレベルの敵が相手だと俺では『黄金』を使う必要があるかもしれない。そうなると、ティアリアに見られるのはマズい。
だから見られないようにするために、ティアリアのことを眠らせる必要があるんだけど、そのためにはどうしても近くに行かないといけない。
ただ、ここで眠らせたとしても、普通に近づいて眠らせたんだったら俺が敵を倒したってのがバレることになるわけで……
「なんだそれ?」
「黙らせるにしても、顔がバレてたら意味ないだろ」
顔バレしないためにも、近くにあった大きめな葉っぱを顔に着けることで顔を隠す。
ついでに制服からバレないようにするために枝を折って体中にくっつけておく。これでなんとなくの輪郭はかくれるだろ。眠らせれば前後の記憶ははっきりしないはずだし、これくらい隠せてれば問題ない……はず。
「にしても、隠すもんをもっと考えろよ。でかい葉っぱで隠すって……お前はゴブリンかなんかか?」
「あいつらが隠してんのは股間だろ」
ゴブリンは言わずと知れた人間に敵対的な魔物だが、基本的に股間だけ隠して後はほぼ全裸だ。大半は腰布を巻いてるけど、たまに大きな葉っぱで隠してる奴もいる。ペンネはそのことを言っているんだろう。
「つまりお前の顔面はゴブリンのこか――」
「ぶっ飛ばすぞ!?」
決して美形とは言わないけど、人の顔の喩えにゴブリンを持ち出す奴いるか!? 流石に失礼すぎるだろ!
「やれるもんならやってみろ!」
なんてペンネと馬鹿みたいな話をしていると、俺の叫び声が聞こえたんだろう。こっちのことを睨んでいる敵が叫び返してきた。
「いや、お前に言ったわけじゃないんだけど……」
「良いから、出ていくんだったらさっさと出てってやれよ」
まあ、そうだな。いつまでもここでふざけてるわけにはいかないし、教師達が来ないとも限らない。着たら絶対に面倒なことになるし、その前に終わらせないとな。
「なにもんだ、てめえ」
そうして茂みから姿を見せて近づいて行ったわけだけど、とりあえず最初にやることは決まってる。ティアリアの処理だ。まあ、処理といっても眠らせるだけだけど。
「無視してんじゃねえよ!」
自分のことを無視してティアリアに近づいて行ったのがよほど気に入らないのか、敵の男は俺に向かって何かを投げてきたけどそんなものは平面魔法で壁を作れば終わりだ。それほど丈夫じゃないって言っても、流石にそんな小手調べの一撃くらいはしのげるさ。
「さて、お姫様。お休みの時間だ」
「待ってください! この『黄金』はいったいっ……あなたは何者なの!?」
突然現れた俺に、倒れながらも問いかけてくるティアリア。そんな状態でも気丈に振る舞うことができる姿は、なるほど。一国の王女と言えるものだろう。
ただ、ここから先はみられてると困るんでおねんねしましょうねー、っと
「な、にを……」
その言葉を最後に、ティアリアは深い眠りについた。
……なんて。この言い方だと死んだみたいだし不謹慎が過ぎるか。
「よし、寝たな」
「随分と乱暴だな」
「素直に薬を飲んでくれるわけでもないだろうし仕方ないだろ」
常に持ち歩いているのが魔物用の睡眠薬だから人間に使うにはちょっと効果が強すぎるかもしれないけど……まあ弱めに使ったし大丈夫だろ。最悪王宮の治癒魔法使いか薬師に見てもらえば後遺症もないはず。
「さってと……待たせたな」
「その王女の味方じゃねえのか?」
問いかけに答えることなく問答無用で眠らせたからか、男は俺のことを測りかねているようだ。
けど、〝味方かどうか〟かぁ……どうなんだろうな?
「んー、まあ味方と言えば味方か? といっても、協力してるってよりは面倒ごとになってほしくないから手を貸してるってだけだけどな」
正直なところ、俺が学園に在学中じゃなかったらティアリアが襲われたところで助けなんてしなかっただろう。だって俺に関係ないし。
でも、あいにくと今は俺が在学中で、あろうことか同じチームのメンバーなんだ。見逃すのはマズいだろ。
それに何より、目の前で死なせるのはなんか嫌だ。ティアリア自身のことはあまり好きではないが、それでも無関係というわけでもないのだ。そんな相手を見殺しにしたら、後味悪いだろ?
強いて理由を挙げるとしたら、まあそんなもんだ。
「……なら、てめえには面倒かけねえようにするっつったらこの場は退くのか?」
「いや、それはないな。ここで見捨てたら気分悪くなりそうだし、死んだら死んだで絶対に何かしらは起こるだろ? それにそもそも、〝俺〟に面倒を掛けないってことは、俺の身分を知らないとできないわけで、それって俺のことをお前らに教えることになるだろ? そんなのはごめんだ」
もし俺のことを教えるとなったら、それはそれで別の面倒ごとに発展するだろう。それよりは、ここでこの男を消してティアリアを守った方が幾分かマシだ。
「そうか――よ!」
男は言葉を言い終えると同時にこちらに攻撃を仕掛けてきた。……この攻撃だと、ただの平面じゃちょっと厳しいか。
受けきれないわけじゃないけど、無駄に枚数を重ねないと防げない気がする。
まあ、普通に『黄金』を使えばいいか。その為にティアリアを眠らせたんだし。
「クソがっ……! てめえも『黄金』を……いや、違えな。『黄金』はてめえの力か!」
「まあそうだな」
男は自身の攻撃を防いだ『黄金』を認めるとすぐに後退し、俺のことを睨みつけながら叫んだ。
分からないまま混乱してくれればよかったんだけど、まあこんなのすぐに分かるよな。
「なら、なぜ王にならない。てめえが表に出てくりゃあその時点でこんなくだらねえバカ騒ぎも起こらねえだろ」
「いやぁ、それはどうだろうな? 俺が王になっても騒ぎは起こるだろ。まあそれ以前に、そもそも俺は王様になんてなるつもりはないんだよ」
俺の目標はあのふざけた常識の田舎で生きて、死ぬことだ。あそこさえよければ国なんて正直どうでもいい。
そりゃあ多少は漫遊もするかもしれないけど、俺の行きつくところは結局あの危険でどうしようもない野蛮な故郷だ。あの場所は、危険でふざけたクソッタレな場所だけど……だからこそ暖かいんだ。
それに、国がどうなろうと……仮に滅んだとしても、あの領地は生きてくことが出来るだろうしな。
だから俺は王様になんてなりたくないし、絶対にならない。




