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『黄金』の到着

「え――?」


 結界が破壊されたことで呆けた声を漏らしたティアリアだったが、そうしていられたのもつかの間、男は結界を破壊してすぐに動き出し、ティアリアの腹部に拳を叩き込んでティアリアのことを弾き飛ばした。


「あ……うぐっ!」

「はあ。だりいな、ったく」


 ティアリアのことを殴り飛ばした姿勢のままだった男は、構えを解くとそう呟いた。


「ど、どうして……」


 弾き飛ばされ、地面に倒れながらも顔だけは敵のことを睨みつけているティアリアは、何とか声を絞り出して問いかけた。


 自信の結界は完璧だったはずだ。強度も場所もタイミングも、これ以上ないくらいに上出来なものだったはずだ。あんな狭い空間で勢いをつける事なんてできるはずがなく、そもそもまともに武器を構えることもできないんだから結界を壊すために力を込める事なんてできないはずだ。


 そう思っていたにもかかわらず、結界が破壊され、あまつさえ自分まで弾き飛ばされた。そのことが理解できなかった。


「あ? ああ。まあ発想はよかったな。だが、この程度で動けなくなるような奴が『王族殺し』なんて依頼を受けるわけねえだろ、って話だ」


 そう。ティアリアの誤算は、相手が〝王族を殺しに来た人物〟だったということだ。ティアリアは確かに優秀であるし、先ほどの結界も申し分ないものだった。

 だがそれは、所詮は学生にしてはよくやっている、という程度のものでしかなく、王族を殺すために万全の備えをしている実力者に比べればその能力ははるかに劣るものでしかなかった。


「そん、な……」


 だめ……私はまだ……


 絶望に顔を歪めながらもティアリアは諦めることをせず、必死になって自身を守る結界を張る。


「無駄だって何回言やあ分かんだよ」


 だが、そんな結界も当然のごとく破られてしまう。


 それでも、と再び結界を張ろうとするが、魔法が発動しない。――魔力切れだった。


 当然の話だ。むしろ、よくこれまで何度も張り直しをして耐えることができたものだと言えるだろう。


 ティアリアは何とかしなければと必死に頭を巡らせるが、碌な考えが浮かばない。魔力はなく、体力もなく、息を吸うだけで体が痛い。それでも這ってでも逃げなければならない。


 そのはずなのに、それでもティアリアが取った行動は逃げるでも剣を取るでもなく、胸元にお守りのようにしまってある不気味な指輪に無意識のうちに手を伸ばし、握りしめる事だった。


「……死にたくない」


 何の思惑もない、ただ純粋に生きたいという思いが口から零れるが、誰も助けには来ない。


「じゃあな!」


 そう、確かに助けは来ない。だが、それでも問題はない。なぜならばティアリアは、〝もう既に助けられていた〟のだから。


「これ、は……?」


 地面に倒れながら、呆然と正面を見るティアリア。彼女は直前まで暗殺者に殺されそうになっていたというのにもかかわらず、突如自分達を隔てるようにして出現した『黄金』に心を奪われていた。


 だがそれも仕方ないことだ。この『黄金』を前にすれば、『黄金』を求めていないものであったとしても目を奪われ、その動きを止めてしまうだろう。それだけの存在感がこの『黄金』からは溢れていた。


「お、『黄金』!? 馬鹿な! そんなことありえるわけが……!? クソッ!」


 突然出現した『黄金』の壁に驚き、驚愕に目を見開く男。王族殺しという依頼を受けている以上、男とて『黄金』にまつわる逸話は知っている。

 だが、だからこそおどろかざるを得ない。ある種の伝説が目の前に出現することになったのだから驚かないわけがない。


 だがそれでもすぐに武器を構えて破壊すべく攻撃を仕掛けることができたのは、男が暗殺者としてプロだったからだろう。常人ではその存在感に押されて怯み、止まるか逃げるかしかできなくなる。あるいは攻撃できたとしても普段ほどの力を十全に出すことは出来ない。


 しかし、『黄金』でできているとはいえ、出現したのはただの壁だ。だから、回り込んでさえしまえば意味をなさないものであるにもかかわらず、男はそうしない。できない。動き出すことは出来ても、その心は目の前の『黄金』に囚われたままだから。


 ティアリアを殺して依頼を果たすために『黄金』に抵抗することは考えられる。そこから逃げることも考えにあった。


 だが、避ける、という事だけはどうしても意識には浮かんでこなかった。


 そうして男は『黄金』を切りかかっていくが……ついに間に合ってしまった。



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