『平面』属性の(異常な)戦い方
(王女相手に言うねえ~。かっこつけちゃってまー)
「これだけ言っておけば素直に退くからな。ぼかして伝えた結果、私も残ります、なんて言われるのが一番だるいんだよ。それに、別にかっこつけたわけじゃねえよ。自己犠牲精神で残ったわけじゃないしな」
実際、この程度の魔物が群れたところで、俺一人なら問題なく生き残れるんだ。『黄金』を使えば全滅させることだってできる。
だからかっこつけとかじゃなく、俺としては純粋に事実として邪魔だと言ったし、全員が生き残るための最善だと判断して俺が残っただけだ。
「はあ……懐かしいなぁ」
周りを魔物に囲まれた中、一人だけ残っている状況。なんだったら今現在も攻撃を受けていて、それを避けている最中である。普通だったら相応の覚悟をするものなんだろうし、人生を儚むのかもしれない。
けど、俺にとってはまるで故郷に帰って来たかのような安らぎを覚える。
「こんな状況で懐かしいなんて言ってられるのはてめえくらいだろうさ」
「いや、だってこんな魔物に囲まれることなんて王都に来てからなかったしさ。つい禁域での日々を思い出すのは仕方ないだろ」
何だったら俺だけじゃなくてウルフレックの戦士たち全員が似たような感覚を覚えるんじゃないだろうか?
……いや、だとしても相当頭おかしいな、これ。まったく……いったいいつから俺はこんな脳筋になったんだ? 元々は平和を愛する一般人だったってのに。
「で、どうすんだ? これだけの数が相手だ。流石に『黄金』を使うか?」
「使わないよ、この程度の相手じゃ。ちょっと本気を出すけど、普通の障壁だけで行けるって」
そりゃあ『黄金』を使ったほうが楽だけど、普段使ってる『平面』だけでもできないことはない。
それを証明するべく、近くにいたそこそこ大きめの魔物の頭を踏み台にし、大きく跳躍する。
そして、地上を見下ろしながら片手を上にあげて手刀の形を作る。
直後、周囲の空中にいくつもの透明な板が出現し始めた。
「――〈千切り〉」
そして、そう呟きながら手を振り下ろすと、手の動きに合わせるように空中に浮いていた板が縦に振り下ろされた。
平面属性の魔法は、正直言ってそこまで強くない。それは俺が使ってもそうだ。『黄金』を使わない平面魔法なんて好きな時に取り出せる魔法の板でしかない。
でも、紙でも皮膚を切り、肉を裂くことができるように、もろく弱いものでも使い方次第で凶器になる。この平面魔法だってそう。結界属性に比べて使い勝手が悪いとしても、障壁属性に比べてもろいとしても、たかが色付きの板しか作れないんだとしても、それでも空中から勢い良く振り下ろせばギロチンの代わりくらいにはなる。
ただ、いくら無数の板を振り落としたといっても、その板と板の間に逃れてしまうものや、喰らっていても死んではいない者などはどうしたって出てくる。
だから、次がある。
「――〈合掌〉」
振り下ろした手刀を今度は正面に持っていき、逆の手と共に胸の前で勢いよく合わせる。
パンッと乾いた音が鳴ると同時に、振り下ろされた平面の魔法は一斉に動きだした。
そして、板と板の間の距離を狭めていき……刺さった地面も間にいる魔物も関係なく、一切合切潰してしまった。
これでおしまいだ。まだ残っている魔物はいるけど、大部分は仕留めた。魔物を興奮させている原因だったティアリアがこの場にいない以上、魔物は俺という脅威を前にして逃げ出すことになるだろう。
そんな考えはあっていたようで、俺がスタッと地面に着地をすると、魔物達はびくりと反応して我先にと逃げ出し、森の奥へと帰っていった。
「……あいつらも普通の冒険者どものランクで考えればSランク相当の騒ぎだろうに」
「単体のSランクと集団でのSランクは違うからな。単体だと弱い攻撃をいくら重ねても倒せないけど、集団だと戦闘が長引いたり周囲に逃げられたり考えないといけないから面倒だってだけで、弱い攻撃でも倒せるから楽っちゃあ楽なんだよ」
数は脅威ではある。けど、攻撃が通るんだったらやり様はある。
単体で強いやつってそもそも攻撃が通らないからどうしようもないんだよな。だから同じランクの強さとされていても、群れで強いと判断されている奴の方は言うほど強くはないのだ。まあ、厄介ではあるけど。
「そう言えんのも力がある奴だけだろうけどな」
それはそうだけど、そんなの力がないほうが悪い。いやなら必死になって頑張ろうよ、って話だ。実際俺はそうしたし。強くならなきゃ死んでたから強くなった。
「それよりも、そろそろお姫様と合流するか」
「つっても、これだけ時間食ったんだから、もうとっくに教師ん所にいってんだろ」
「それならそれでいいさ。でも、今回のこれ、多分政治争いが原因だろ? となれば、また別の妨害を用意してる可能性もあるわけで……」
政治争いでもないと王女様の身に着けるものに罠を仕込むなんて無理だろ。ただの犯罪者にそんなことができるわけがない。
王族殺しなんて狙ってくるような相手だ。確実に目的を達成するために、メインのプラン以外にもいくつも方法を用意していてもおかしくはない。
だからもしかしたら、まだ何か起こるかもしれない……っ!?
「マジで何かあるみたいだな」
木々の向こう、ティアリア達が消えていった方向から――だけではなく、森全体から人の叫びや戦闘の音が聞こえだした。
これ、どう考えてもまだ終わってないだろ。
「本当にガキどもが学ぶ場所か、ここ?」
ペンネが訝し気に問いかけてきたけど、それは俺も不思議に思うよ。ぬくぬく安全な学園生活、なんて考えてたのに、なんだってこんなに命の危険があるんだか。
「学び場であると同時に、政治の舞台でもあるから仕方ないんだろ。お前の言う〝人間〟が集まってる場所だぞ」
「クヒッ。そうだったな。欲深い愚か者ばっかりが集まるんだ。これが普通か」
「自分で言っておいてなんだけど、これが普通とか やめてほしいんだけどな」
とにかく、まずはティアリアの安全確保が優先か。他の生徒が百人死んだところで、ティアリアという王女一人の価値とは比べ物にならない。




