お姫様の下位互換属性
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「やっぱり被ってんなぁ」
森の中に入ってしばらく。道中で目標以外の魔物と遭遇し、戦闘することになったわけだが、思わずそう呟いてしまった。
「被ってるって何が?」
「俺達の能力だよ。俺が『平面』で、ティアリアが『結界』だろ? どっちも同じ方向性の能力だし、なんだったら俺は結界の劣化版だぞ?」
そう。お姫様であるティアリアの魔法属性は『結界』であり、俺の上位互換と呼ばれている属性だ。つまり、役割は被る上に俺よりも優れた効果があるんだから、必然的に俺のやることはなくなる。
ほら、今だって左右から挟み撃ちしてきた魔物を結界一つで受け止めている。
「劣化版だなどと、そのようなことを言う必要はありませんよ。確かに似た属性ですが、それでもできることは違うのだと他ならぬ貴女が証明したではありませんか」
「……ま、そうだな。それに、安全を考えるって意味じゃ守りが増えるのは悪い事じゃない」
というか、学園側としては多分それを狙っただろ。万が一にでもお姫様を死なせるわけにはいかないからな。守りを固くしたかったんだろうさ。まあ、俺が禁域で戦ってた『ウルフレック』ってのも理由だと思うけど。
「皆さん、お怪我はありませんこと?」
「僕は問題ありません、ローザリア様」
エリオットが答えたが、その答えにローゼリアは少し不満そうだ。
その理由は、自身の活躍する場面がないからだろう。
ローゼリアとしても怪我をしてほしいわけではないだろうが、怪我をしている者がいないと彼女の魔法は役に立たないのも事実だ。なにせ彼女の魔法属性は『治癒』なんだから。
身体能力の強化を伴っての戦闘であれば活躍できるが、属性を用いての活躍――自身のポジションでの働きは、傷病者がいないとできないものなのだ。
「何かありましたらすぐに治しますから、遠慮はせずとも構いませんわよ」
「その時はよろしくお願いいたします」
エリオットの言葉を受けて少しだけ満足そうにうなずいたローゼリアだが、俺としてはいるだけでも十分に役割を果たしていると思うんだけどな。
「『治癒』の属性が一人いるだけで戦闘も安定するからありがたいもんだよな」
怪我をしても治してくれる存在がいるとなると、それだけで選べる手段が増える。たとえば、自爆覚悟の特攻だって、死なないように気を付ければ実行することができるんだから。相打ち覚悟の攻撃だってできるし、毒性のある強化薬を使うことだってできる。
いるだけでそんないろんな選択肢が増えるんだから、本当に便利で役に立つ存在だ。
「わたくしとしてはもっと直接的に戦う力が良かったとも思っているのですが……こればかりは仕方ありませんわね」
「普通貴族のご令嬢はそんな戦いを好むもんでもないけどな」
そもそも貴族のご令嬢なんて戦場に出てこないだろ。なんだったら武器を握る事すら野蛮だと批難するかもな。
「あら。戦う力があってこその貴族ではありませんこと? 北部からの魔物はあなた方ウルフレックの方々にお任せしてしまっていますが、それ以外のところでは魔物がいない、などということはないのですから。民を導く貴族こそ戦う力がなければならないのですわ」
その考えは俺達もそう思うよ。もっとも、そんな『貴族としての考え』を持っている貴族がどれくらいいるのかって話だ。戦う力なんかじゃなく、政治で相手を追いやる力ばかり求めてる貴族が大半だろ。
武器を持って戦うなんて野蛮なことは下民にでもやらせておけばいい、とか思ってる奴もいるんじゃないか?
「と言いますか、貴族であろうと平民であろうとかまわず敵を倒しに向かうウルフレックの方に言われたくはないのですけれど?」
「そりゃあごもっとも。でも、うちの奴らはどう考えても普通じゃないだろ。魔物が攻めてきたら嬉々として武器を持って突っ込んでいくやつらだぞ? その頭やってる一族の俺が言うのもなんだけど、あいつらおかしいよ」
こことは違う世界だったが、真っ当に平和を愛して平和な世の中で育った俺としては、みんなや自身の大事なものを守るためとはいえ、貴族や平民なんて立場に関係なく命がけで魔物に突っ込んでいくうちの奴らは頭がおかしいと思う。
……まあ、立派だとは思うし、その在り方を否定するつもりはないけど。
「それだけ危険が日常のそばにあるという事なのでしょう? そんな日々を生き抜いてきた方々には頭が上がりませんわね」
「そこまで行ってもらえるのはありがたいけど……もし仮にうちの領地に来ることがあっても、他の奴らには絶対にそんなこと言うなよ? あいつらのことだから、調子に乗って敵に突っ込んでく未来しか見えねえから」
特に、ローゼリアみたいなお嬢様然とした奴から褒められれば、有頂天になってバカをやらかすバカ共が出てきてもおかしくない。




