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チーム活動の始まり

「次はわたくしですわね。ティアリア様とは幾度かお話をさせていただきましたし、ウルフレックさんとも先日お話をいたしましたので、この場にいる全員と顔見知りではありますが、改めてご挨拶を。ロドウェル侯爵家が次女、ローザリア・ロドウェルと申します。今後も良好な関係を築いていければ幸いです」


 ピンク髪のツインテールお嬢様、ローザリア。

 彼女のことは、それなりに好ましい人物だと思っている。それに、俺と違って礼儀作法もしっかりしているお嬢様だから、王女であるティアリアの相手を任せることもできる。


 こんな王女と同じという地獄みたいな環境で、一緒になった知り合いが彼女だったことは蜘蛛の糸のようだ。

 まあ、本当に蜘蛛の糸なら最後に切れるけど。そうではないことを祈っている。


「ほら、次はあなたですわよ」

「あー、えーっと……エリオット・ダスティンです。ロドウェル家の寄子であり、ロドウェル家に仕える騎士ではありますが、王女殿下と同じクラス、同じチームになれたことを光栄に思います」


 どこか遠慮がちにあいさつをしたのはエリオット。学園に入ってから俺がまともに話した人物であり、学園での最初の友達だ。


 ただ、このメンツであることを考えると、王女の安全を可能な限り守るための配置なんだろうなと思わずにはいられない。

 俺はもとより、エリオットも戦闘能力という意味では同年代以上のものがあるし、何より〝誰かを守る〟という戦いに慣れている。


 まあ、俺としてはありがたい限りだし、文句なんて言わないけどな。


 さて。それじゃあ次は俺の番か。どう挨拶したものかな。上っ面だけのでもいいんだけど……


「エルド・ウルフレック。辺境のクソ田舎出身なので作法に疎く、至らぬ点も多々あるとは思うが、まあ寛大な心で赦してくれるとありがたい」


 普段他人に向けるよりも些か乱暴に挨拶をすることにしたわけだが、そんな俺の挨拶を聞いてその場にいた四人全員が驚いたような目でこちらを見てきている。まあ、驚きって言っても一人は怒りが籠っているけど。


「お、おい? エルドどうかした?」

「どうかって、何がだ?」

「いや、だって王女様の前なのになんか機嫌悪そうだしさ……」


 エリオットが困惑しながら問いかけてきたけど、別に機嫌が悪いわけじゃない。今回俺がこんな乱暴な自己紹介をしたのは理由がある。


「それは私の責任ですね。以前エルドさんには少々行き違いがあってご不快にさせてしまったのです」


 ただ、ティアリアはその理由を勘違いしたようで、申し訳なさそうに眉を寄せている。そんな理由じゃないって言うのに。


「……いや、その件はもうなんとも思っていないさ。ただ、言葉遣いを気にしないと言っていたし、相互理解を、なんて言って親交を深めようと考えている様子だったからな。普段通りの俺として接しようかと思っただけだ」


 正直、いつまで経ってもあの時のことを引きずり続けるというのはあまりにも大人げないとは思っていたんだ。相手は世間知らずの子供なんだし、俺は成人して生きた経験があるんだから、いくら相手がふざけたことをぬかしたんだとしても、広い心でそれを許してやるべきだろう。


 その『気にしていないですよ』という意思を見せるために、歩み寄りの態度として言葉や態度を改めることを止めたのだ。


「あ、そうだったんだ」

「エルドさん……。まさかそれほど私の事を考えてくださるなんて……」


 ティアリアは俺の言葉に感動したように目を潤ませ、こちらを見つめてきている。

 けど、やめてくれ。そんな反応されると困るだろ。


「おい。その言い方だと王女殿下に懸想してるみたいに聞こえるから止めてくれ」

「ふふ……そうですね。ですが、かわりにティアリアと呼んでいただけませんか?」

「流石に王女殿下の名前を呼ぶわけにはいかないだろ。ほら、後ろみてみろよ。怖い護衛がこっちを睨んでるぞ」


 言葉を改めるのを止めたからといって、そこまで距離を近くするつもりはない。精々同じ―クラスの仲間、あるいはチームの仲間、くらいなものだ。


 丁度いいので話を逸らす材料としてキリエのことを指さしてみるが、キリエのことを見たティアリアは少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。


「私が友人を作ることがそれほど悪い事なのですか?」

「いえ、それは……ですがその者は……」

「以前のことは不問にするといったはずです。それに、何が悪いかといったら、考えなしだった私が悪いと言えるでしょう」


 ……へぇ。王族の癖に、自分が悪かった、なんて簡単に認めるんだな。本当に悪いと思っているのか、俺が歩み寄ったからそういう姿勢を見せているのかは分からないけど。


「前回、あの後私は何が悪かったのか考えました。私のもう一人の護衛に言われて初めて、私の言葉はあなたにとってくだらないものなのだと理解しました。今更ではありますが、あの時は申し訳ありませんでした」


 キリエからこちらに視線を戻してきたティアリアは、そう言ってしっかりと頭を下げてきた。

 未だ本当の意味で俺達の大変さを理解したわけじゃないだろう。アレは実際に体験しないと分からないからな。


 ただそれでも、自身の非を認めてこうしてあやまってくるってことは、プライドが高いお姫様ってわけじゃないらしい。


 最初の出会い方や会話の内容がアレだっただけで、思っていたよりも悪いやつではないのかもしれない。


「……お互いにこれまで過ごしてきた環境、送ってきた人生が違うんだ。意識のすれ違いがあっても仕方ないだろ。前回はお互いに不幸な行き違いがあったが、これからは同じチームの仲間としてやっていこう」


 まあそれでも〝チームの仲間〟以上に仲良くなるつもりはないけど。王女の勢力に加わるなんてもってのほかだ。そこに関しては勝手にやってろとしか言えない。


「……え、これってさ、もしかして僕達もおんなじふうにした方がいいってこと……?」

「そうしていただければ喜ばしいとは思いますが、無理にとは言うつもりはありません」

「あ。じゃあ僕はこのままで……」


 俺達の会話を聞いてエリオットが呆然と呟いたけど、その言葉に反応したティアリアの言葉を受けて、エリオットは申し訳なさそうに小さく呟いた。どうやらお姫様の相手をする時の態度は変えるつもりはないらしい。


「……殿下とウルフレックさんはとても仲がよろしいのですね」


 なんて一連の流れを黙って見ていたローザリアが言ってきたが、そんな仲がいいって程でもないだろ。


「良くはないですよ。いえ、悪いというつもりもありませんが、普通ですよ」


 もっと言うなら、今普通になった、って感じだな。


「ですが、そのような砕けた態度で話をするということはそれだけ親しいということではありませんか?」

「それは先ほども言いましたが、王女殿下が言葉を気にしないとおっしゃったので……」

「でしたら、わたくしも気にしませんので、普段通りの態度で接してくださって構いませんわ。わたくし達の仲ですもの。多少態度に不備があったところで、気にするほどのことではありませんわ」


 えー……特に悪く思っていないローザリアのことは普通に貴族のご令嬢として接しようと思ってたんだけど……まあ、本人がそういうならそれでいいか。俺としても言葉に気を遣わない方が楽だし。


「……なら、これからはそうさせてもらうよ」


 こうして俺達のチームでの活動が始まった。



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