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ピンク髪ツインテール系お嬢様

 ――◆◇◆◇――


「来ましたわね、エリオット。……あら。ウルフレックさんではありませんか」

「こうして直接お話をするのは初めてですね。ロドウェル嬢。本日はお茶会ということでしたので、エリオットに無理を言ってこの場に参じさせていただきました。突然の無礼をお許しください」

「構いませんわ。わたくしも、あなたとはお話をしてみたいと思っておりましたもの。どうぞお掛けになって」


 いかにもお嬢様らしい言葉で俺達を歓迎してくれたのは、ピンク色の髪をツインテールにした少女だった。うちのクラスには本物のお姫様ってやつがいるけど、これはこれである意味お姫様っぽいような気もするな。


 他には俺が顔を見たことがない少女が二人ほど。事前にエリオットから話されていた情報ではどっちも南部出身の貴族家の娘で、あー……誤解を恐れずに言えばロズウェル家の子分みたいなもんらしい。どうやら、クラスは違えど一緒に学園に入学したのだから仲良くしましょう、ってことでお茶会の相手に選ばれているようだ。


「それにしても、ロドウェル嬢はお美しいですね。これまで同じクラスの一員として過ごしてきましたが、こうして向かい合って話をする機会はなかったですが、まるでお話に出てくるお姫様のようです。……おっと、本物のお姫様がクラスメイトにいるのにこの発言は不敬ですかね?」

「あら、お上手ですこと。ありがとうございます。ですが、レミィリア様はその程度でご不快にはなられないでしょうけれど、他での発言は気を付けた方がよろしいかもしれませんわ」

「そうしましょう。変な誤解をされれば皆不幸になってしまいますから」


 なんて、普段は言わないような褒め言葉や冗談を口にしながらお茶会は始まった。

 おい、エリオット。その顔は何だよ。俺だってまともに話そうと思えば貴族らしく話すこともできるんだぞ? ……まあ、そんな長い時間保っていることは出来ないから普段からそうしておけなんて言われたらお断りだけど。


「――それでは南は一年中暖かいのですね」

「暖かいといっても流石に冬には雪が降ることもありますが、ウルフレックさんのような北よりの領地に比べれば十分暖かいと言えると思いますわ」

「羨ましい限りです。我が家の領地は魔物の被害もですが、気候も大きな敵の一つですから。夏なんかはそれなりに涼しくて過ごしやすいのですけどね」


 これは本当にそう思う。うちは西部に位置する貴族だけど、西って言っても王国の中心から真西というわけではなく北西……ギリ北北西といってもいいような微妙な位置にある。

 ぶっちゃけ北と言い切ってしまってもいいような環境ではあるが、王国の西部にあるのは事実なので、西部の貴族となる。だからまあ、普通に寒い。


「その点に関してはむしろわたくしの方が羨ましく思いますわ。我が家の領地は冬は暖かくて過ごしやすいですが、夏はとても暑くて……それこそ地獄のような暑さですの。……ああ、これからまた暑い時期が来ると思うと憂鬱になってきますわね」

「ははっ。お互いに良し悪しがあるという事でしょう。その点で言えば、この王都は丁度いい気候の日が多いようですので、学園に通っている限りは過ごしやすい日々となりそうですね」

「ええ。自領を離れる時に離れがたく思っていましたが、そこに関しては喜ばしく思っていますわ」


 なんて和やかに話は進んで行ったんだけど、ウルフレックとの関係――取り引きをしてくれていることに関してお礼の話を切り出すことができずにいる。

 言いたくないわけじゃないんだけど、いつ言おうか? こんないかにも〝お茶会〟なんて雰囲気の中でいきなり家のことで感謝しています、なんて告げたら空気壊れない?


「――お嬢様」


 そんなふうに思いながら話をしていると、話せないまま遂に終わりが来てしまった。


「あら、もうそんな時間ですの? 楽しい時間が過ぎるのは早いものですわね」

「そうですね。ですが、本日はこうしてお話をすることができて良かったです。同じクラスの一員としてこれからも話す機会があるでしょうが、仲良くしていただければ幸いです」

「当然ですわ。むしろ私の方こそ……ああそうでした。これだけは言っておかなくてはならないことがありますの」

「なんでしょうか?」


 なにを言い出すつもりなのか全くわからず、俺は先日の王女との会話を思い出して少しだけ警戒をした。

 まさか、このお嬢様もどこかの派閥に入っていて自分のところを応援しろ、なんていいだすんじゃ――


「突然の出会いとなって遅れてしまいましたが――この国を支え続けている一族であるウルフレック辺境伯、及びその領地民に敬意を。あなた方のおかげでわたくし達は日々を平穏に過ごすことができております。いずれ正式に新たな当主様へとご挨拶をいたしますが、先にこの場にてご挨拶をさせていただきます。『黄金の輝きがあらんことを』。……どうかこれからもよろしくお願いいたしますわ」


 ……はあ。馬鹿か俺は。


 真剣な眼差しで告げられてきた言葉に内心でため息を吐くと、彼女の言葉に応えるように俺は立ち上がり、同じように丁寧に言葉を返す。


「――エルド・ウルフレック。ウルフレック辺境伯家当主に代わりまして、お言葉を確かに頂戴いたしました。ロドウェル侯爵家、並びに南部に過ごす皆様へ、『黄金の実りがあらんことを』。……こちらこそよろしくお願いします」


 この国の貴族の間では、『黄金の輝き』という言葉を口にする。これは初代国王が黄金の魔力を使えた事と、それによって発展したという経緯があるからだが、南部においてはこの文句が少し違う形で使われている。それが『黄金の実り』である。


 南部は農業が産業の中心であり、食料の象徴である小麦が一面に実った風景を指して『黄金の実り』と言うことがあるんだとか。それが転じて南部で沢山食料が採れた時、あるいは採れることを願って言う言葉だそうだ。


「あら、ご存じだったのね」

「ええ。食料は我々にとって生命線ですから。それを支えてくださっている南部の方々は、勝手ながら同胞や戦友のように思っておりますので」

「ふふ。そう。なら、これからも今の関係が続いていくことを祈っているわ」


 そんなふうに言葉を交わし、他の生徒達やエリオットに挨拶をしてからその場を辞することにした。


 高位貴族のご令嬢とのお茶ということで少し警戒していたが、お姫様の時みたいに不愉快な気持ちにならなくてよかった。あれならまた参加してもいいかもしれない。その方がエリオットのためにもなるかもしれないしな。



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