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エリオットの主

 ――◆◇◆◇――


「――はあ……行きたくないなぁ」

「? どうかしたのか、エリオット」


 お姫様と〝お話し〟をしてから一週間ほどが経過したある日、授業が終わって帰る時間となったにもかかわらずエリオットは席から離れることなく、うつむいたまま大きくため息を吐いていた。


「ん? ……ああ、ごめん。声に出てたか。ちょっとローザリア様に呼ばれててさ」

「ローザリアって……あー、確かお前のところの寄り親のお嬢様か」

「うん。ローザリア・ロドウェル様ね」


 そう。そんな名前のお嬢様。確かこのクラスに通ってるけど……まあそれ自体は不思議でもなんでもない。なんたって南部最大の貴族だしな。


「でもなんだってそんなに沈んでるんだ? 寄り親の家とは仲が悪いわけじゃないんだろ?」


 むしろ仲はいいはずだ。なんたってロドウェル家とダスティン家の関係は、何百年経っても一度もその関係を変えることなく続いてきた仲なんだから。

 多少の喧嘩や意見のすれ違いはあったとしても、決定的に仲が悪くなるなんてことはありえないと思うんだけどな。


「ああうん。それはね。これでもロドウェル家の騎士やっているんだし、向こうからもそれなりに信頼されてると思う。ただ、ちょっと問題というかなんというか……ローザリア様はお茶会が好きでさ。それに呼ばれるんだよ」

「まあ貴族のご令嬢だし、おかしな事でもないだろ。……うちじゃお茶会なんてやった事ねえけど」


 母上は他のところから嫁いできた貴族のご令嬢だけど、うちの状態がアレだからそんなお茶会なんて開いたことはほとんどない。あるのは俺達に対する教育の時と、母上がお茶をしている時に俺達が突然参加する突発的なものくらいか?


 姉上は……まあ、あの人は貴族のご令嬢だけど、〝女〟ってよりも先に〝騎士〟って立場が来る人だから……。個人的には騎士っていうよりも戦士って感じの人だけどさ。


 そんな感じだから、お茶会なんてまともに参加したことはなかった。


「僕だって悪いことだとは思ってないよ。むしろ、それが貴族のご令嬢たちの務めであるんだから、やること自体は良いと思うよ。でも、その頻度がね……先週なんて週四で呼ばれたよ」

「週四って……何をそんなに話すことがあるんだよ」


 お茶会って、人呼んでお茶をしてお菓子食べて駄弁ってるだけだろ? これが前世の高校生くらいだったらだらだらとくだらない話をして笑ってることもできたけど、お嬢様としての立場を崩さないようにってなると下手な話はできないし、話題も選ばないといけないからそんな話すことなんてなくなると思うんだよな。


「ないよ。学校の事って言っても、同じクラスだから授業の内容に関しては話題にならないしな。だから困ってるんだよ。僕は基本的にお嬢様方の話を聞いて、状況次第で頷いたり誤魔化したりする程度だけど、時々話題提供を求められる時もあってね。何も話せなければそれはそれで部下としてマズいし……正直厄介だよ」


 というか、女たちが話す中で参加させられて話題を出せって……きつくないか?


「なんか、大変だな」

「ああ……今は入学したばっかりだから顔繋ぎのために忙しいだけで、そのうち落ち着くとは思う……というかそう思いたいんだけどね……って、ごめん。こんな話聞かせて」

「別にいいって。俺だって話聞いてもらう時あるし」

「そうか。それじゃあ……いや、そうだな」


 俺としては愚痴を聞くくらいはなんてことないからいいんだけど、なんて思っていると、そこでエリオットは何かに気が付いたように、若干焦点の合わない瞳で俺のことを見つめてきた。


「ねえ、ごめんついでで悪いんだけど、今回のお茶会一緒に来てくれない?」

「は? お茶会って、俺がか?」


 俺なんて田舎者を連れて行ったところで何もないだろうに……正気か? それとも、そんなことをしないといけないくらいに追い詰められているのか?


「うん。ローゼリアお嬢様もそれなりに興味持ってるみたいでせ。でもエルドとあんまり接点がないから話す機会もないだろう? だから来てくれればいい話題提供になるんじゃないかって……いや、やっぱいいや。こんな事いきなり頼むのもなんだし」


 そう話していたエリオットは、途中でハッとして目を見開き、申し訳なさそうな顔をして自身の言葉を撤回してきた。たぶん、あまりうまく頭が働いていない状態で浮かんできたことをそのまま口にしていたんだろう。


「……いや、別にいいけど。どうせ今日も用事なんてないし。強いて言うならこの後街の散策に行こうかと思ってたくらいで、ぶっちゃけ今日じゃないといけないってこともないからな」


 正直、これまでの生活のように毎日魔物を倒しに行かなくちゃいけない、なんてわけでもないんだし、今の俺は割と手持無沙汰だったりする。今後もこの感じが続くようなら冒険者にでもなって外に遊びに出ようかとも考えていたんだけど、とりあえず今は暇なのは間違いない。


「それに、関わりが無いって言っても一応はクラスメイトなんだ。ここらで親睦を深めるってのもありだろ」


 個人的に、南部の貴族であるロドウェル家とは話をしたいと思ってたことだしな。


「……いいの?」

「ああ。元々そのうち挨拶はしないといけないとは思ってたんだよ。南部の人たちとは食料の取引してるし、うちにとって南部の食料は重要でな。全部が全部ロドウェルとってわけじゃないけど、取引相手の一つではあるし、他の取引相手の元締め的な存在と同じクラスになった以上は面通しくらいしないとだろ。取引を止められるわけにはいかないからな」


 取り引きとしての関係ではあるけど、それによって送られてきた食料でウルフレックが助かっているのは事実だ。だから、そのことで一言挨拶をしておきたかったのは嘘じゃない。


「そっか。でも元締めとか面通しって言うと、なんかマフィアみたいな感じがするから止めてよ?」

「ははは……あ、でも言葉遣いとか貴族としてのマナーを気にする人だったら逆に失礼になるかも。この間それでちょっと怒られたんだよ」


 お姫様の時みたいになったらこまるからな。まああの時はわざとだったけど、それでも貴族的なマナーになれていないのは事実だから、どこかで何かミスをするかもしれない。


「その辺は大丈夫だよ。自身には厳しいけど、悪意がない限りは他者の失敗を許すだけの度量はある方だから」

「そうか。それじゃあ平気そうだな」

「うん。じゃあこれから案内するけど……ありがとう」

「気にすんなって」


 さて、そんなわけでローザリア・ロドウェルに会いにいくわけだけど……どんな人物なんだろうな。遠目から見た感じやこれまでの授業の様子を見た限りでは〝お嬢様〟って感じだけど……


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