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やっぱり『黄金』はバレちゃいけないらしい

 

「大きな声じゃ言えないけど、王家の対立は知ってるだろ?」

「対立って……玉座を狙って的なアレ?」


 正直なところ詳しくは知らない。知ってるのはそんな感じの噂を領地にいた時に兄さんから聞いたくらい。あのクソ田舎にいて聞こえてきたくらいなんだから、もう半ば公然の秘密って感じになってるんだろうな。


「それだよ。まあ多分今の言い方じゃ詳しいことは知らないみたいだろうけど、結構バチバチにやり合ってるみたいなんだよ。噂では暗殺者が大忙しって話だ」


 暗殺者ねえ……これまでそういう類いの人間に会ったことがないから、どの程度の強さ、厄介さなのかは知らないけど、まあ人殺しを生業としている存在ってだけで嫌悪感が湧いてくる。

 だってそうだろ? 俺達が必死こいて魔物から人間を守ってるのに、人間同士で殺し合ってるんだ。何のために俺達が命賭けてると思ってんだよ、なんて思うのも当然だろう?


「兄妹で暗殺合戦とか……バカみたいだよなぁ。そんなことしてる余裕があるんだったら、協力して国を守るために動けばいいのに」

「そんなの誰もが思ってるけど……理想論だよ。そううまくはいかないって」


 だろうな。分かりきってる正義があっても、自分のために行動するバカはいるし、なんだったら自分の行動こそが正義だって勘違いをしているバカもいる。そんなバカ達のために命張ってると思うと、なんだか馬鹿馬鹿しくなってくる。


「それでまあ、それ関係で貴族たちはどの陣営に着くか、ってのが重要なんだけど、ウルフレックくらい力のある家だったら向こうから誘いが来るかもしれないし、下手なこと言わないように気を付けておいたほうがいいよ」

「力あるって……そんなに力ある家か、うちって? 家格だけの田舎貴族だろ」


 実際そう見下してくる奴はいたらしいことは兄さんや両親から聞かされた。みんなが知っている状況から数年たったし多少の違いはあるだろうけど、それでもまるっきりその評価が変わるなんてことはないだろう。

 俺としても、ウルフレック家は貴族間の力関係で考えるとクソ雑魚だろうな、なんて思ってる。


「そりゃあ政治的な力で言ったら大したことないかもしれないけど、その発言力は一定の力はあるよ。なにせ長年国を守ってる忠臣の一族なわけだし。それに、力ってのは何も貴族としての力だけとは限らないさ」

「あー……武力か」

「内紛とか起こった時に、ウルフレックの力はかなり役に立つだろうからね」


 まあ、だろうな。そこらの騎士や兵士とうちの馬鹿共が戦ったら、多分十倍の戦力だったとしても勝つことができると思う。まあ、実際に騎士団の実力ってのを見たことがないからはっきりとは言えないけど、魔物の強さに関する評価と、そんな魔物達に対応する戦力についての話を聞いてるとそう思える。

 Bランクの魔物程度に騎士団一個中隊が必要ってバカじゃないの? うちでは二人いれば十分だよ。Aランクが騎士団総出ってどうなのさ。それだとちょっと弱すぎるでしょ。


 そんな感じだから戦力として見れば魅力的だろうな。……でも、うちがそんなバカ騒ぎに関わることはまずない。だって、うちの仕事じゃないから。

 今出さえ結構ギリギリで守ってるのに、余計なことに首を突っ込むわけないだろ、って話だ。


「それこそ、内紛なんてしてないでまともに国を治めればいいのにな……」

「王様候補が複数いる時点でどうしようもないだろ。これが『黄金』の持ち主がいたらその方で確定するんだろうけど……もう長い間いないみたいだからなぁ」

「……お、『黄金』かぁ」


 俺が秘密にしていることそのものである『黄金』が話題に出てきたことで一瞬ビクリとするが、俺が持っていると分かって話に出したわけではないということは分かっているので、何もないかのように流す。


「お。流石に『黄金』のことは知ってるみたいだね?」


 けど、残念なことにそのまま話が終わることはなかった。


 そりゃあ話の流れとしては続くのはおかしなことじゃないけど、できればこの話題はやめてほしかったなぁ。


「ま、まあ一応はな。王族に発現する珍しい魔力だろ?」

「簡単に言えば、そうだね。ただ重要なのが、その『黄金』の魔力は『神の魔力』なんて言われてることさ。建国王が神より力を授かり王となった、ってのがこの国の始まりだけど、それが転じて『黄金』の魔力の持ち主は神に祝福されている、なんて言われてるから当然ではあるけどね。『黄金』の魔力の持ち主は確定で王様になれるらしいよ」

「そ、そんな魔力の持ち主がいたら王位争いも楽でいいねー……」


 これ、もし俺が『黄金』を使えるってバレたら王位争いに引きずり込まれないか? 王女と結婚するとか? ……ありそうだなぁ。

 流石に王子は男だし結婚することはないけど……王子の子供と結婚することになるとか? やだよそんなの。王子の子供って何歳だよ。仮にもう産まれてたとしても、多分五歳以下だろ。……七歳差か。なし、とは言えないところがなんともめんどくさい。

 個人的には五歳との結婚とか嫌すぎるけど、貴族的には十分に考えられるのだから絶対にバレるわけにはいかない。


「と、ところでさ。もしそんな『黄金』の持ち主がおうぞくじゃなくて普通の貴族、もしくは一般人から出てきたらどうなると思う?」


 さっきのは俺の考えだけど、他の貴族からしたらどう考えるものなんだろうか?


「貴族はあるとしても……一般人か……。まあ、王族の血が入ってれば可能性はあるんだから、無いわけじゃないのかな? 市井に流れた王族もいただろうし、貴族に降嫁して更にその子孫が外に子どもを作ることもあるんだから。でもその場合でもまず間違いなく王様になれるだろうね。もしくは王配とか? 貴族から出たならまず間違いなくどっちかだし、その貴族の立ち位置によっては王族を押し退けての王様に、なんてこともあり得るね」

「つまり、面倒ごとは避けられない人生ってことか」


 でもまあ、やっぱりといえばやっぱりだけど、そうなるよなぁ……

 王様になればウルフレックの状況を改善させることができるかもしれないけど、面倒なのは間違いないよな。それに、恨まれることも間違いない。

 そんな面倒なことをするよりは、今の俺の立場でできる限りのことをして改善に取り組んだ方がいいだろう。


「ちょっと、王様になるのが面倒ごとって……聞いた相手次第じゃ怒られるじゃすまないよ」

「あ、そうだな。……でもさ、実際のところ、王様になりたいと思うか?」

「……いやぁ。僕は実家で槍の修練をして普通に親父の後を継いだ方がうれしいかな」

「だよなぁ。俺も故郷で気ままに過ごしてる方が楽しいや」


 結局田舎ものなんてこんなものなんだよな。王様になりたいなんて考えるのは、貴族社会の実態を知らない奴か、権力争いをしてる奴らくらいなもんだろ。



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