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有名な田舎貴族

 

「まあね。……それでそっちは?」

「あっと、悪い。名乗り遅れたけど、エルド・ウルフレックだ。北部のクソ田舎出身だな」


 冗談めかして言うと、エリオットは驚いたように目を丸くした。なんだなんだ、そんなに驚いて。もしかして田舎すぎて名前を知らなかったなんてこと、無いよな?


「へ? 本当に? ……何がクソ田舎出身だよ。この国でウルフレックを知らない奴なんていないって」

「って言っても田舎なのは事実だしなぁ」


 良かった。一応名前は知ってくれているようだ。でも、なんだかその知られ方が思っていたよりも大げさ感じがしたのは気のせいか?


「田舎だなんて卑下することないって。今年はアレだけど、例年だったらクラスのトップにいてもおかしくないくらいじゃないか」


 まあ、今年は王女様が通うらしいし、他にも大貴族が通うことになっているからな。


 ただ、うちの立ち位置に関してなんだけど、ちょっとめんどくさいんだよな。

 王族がトップなのは当然として、その下には準王族とも呼べる王家の分家である公爵家があるが、ここまではいいだろう。普通に順番通りだから。


 その下には侯爵家が続くんだが、うちは辺境伯という階級上は侯爵の下だけど実質的な権限は侯爵家に並ぶだけあって、その扱いは侯爵家と同格の者である。

 なので、家格だけで言ったら王族に次ぐといってもいいほど上位の貴族だ。

 だからまあ、偉さの順番で立ち位置が決まるんだったら、クラスで一番偉い存在だったかもしれない。


「家格だけはな。豊かさで言ったら王都の下級貴族の方が豊かじゃないか?」

「それは仕方ないよ。うちだってロドウェルの騎士って言っても、田舎だし。南部の都会に住んでるわけじゃないからね」

「ん? ダスティン家ってロドウェルの騎士って言うくらいだし、そばで暮らしてるんじゃないのか?」


 ロドウェル侯爵家自身も友として公言して憚らない家なんだし、南部での扱いはかなりいいものなんじゃないのか?


「そばっって言えばそばで暮らしてるけど、領都そのものにってわけじゃないんだ。領都から半日くらい馬を走らせた街に住んでるんだよ。そこで御屋形様の騎士団の訓練をする生活してるけど、ほぼ関係者しかいない場所だから都のものなんてめったに来ないし、旅人もそんなにいないから人通りや流通って意味じゃ田舎と変わらないと思うよ」

「へー、そうなのか。お互いに大変だな」


 騎士の一族だからか、日々鍛えないといけないらしい。まあ、そんな生活を続けてきたからこそ今でも信頼されているのかもしれないけど。


「うちよりもそっちの方が大変だろ。うちは訓練だけで済むけど、そっちは四大禁域のそばで命賭けて戦ってるのが日常なんだから。比べ物にならないって」

「慣れればあそこでも普通に歩き回れるくらいにはなるんだけどなぁ。唯一の名産として、魔物の肉はうまいし」


 後は薬草類も高価が高いものがあるから、金を稼ぐだけなら結構儲かるし、魔物素材は見た目さえ気にしなければ色々と使えるから結構暮らしやすい。宝石類なんかはないから煌びやかさはないし、平和もないし文明的な生活も……ないとは言わないけど薄い。狩った肉にナイフをぶっ刺してそのまま焼いて食べる、みたいな蛮族みたいな生活してるし。

 もちろん普通の料理も出てくるけど、それだって王都に比べたら洗練されてない。いや、ある意味洗練されてるのか? ウルフレック流に、だけど。


「そもそも慣れるところまで行く前に死んじゃうんじゃない?」

「まあ、新人は気を付けないとちょっと危ないね。でも言うほどすぐ死ぬわけじゃないよ。死なないためのノウハウはあるんだから」


 あんまり言いたくないけど、人は資源だ。甘い考えで突っ込ませて無駄に消費するわけにはいかない。なのでうちでは細心の注意を払って新人教育をしている。その為、新人が死ぬことは少ない。……絶対に死なない、とは言えないけど。


「へえ……そりゃあ何百年も過ごしてればそうなるか。エルドも禁域に入ったことあるの?」

「ああ、うん。あそこは十歳になったら全員一度は入るからね。で、あの場所の大変さを知って、暮らしていくか出ていくかの覚悟を決めさせるんだ」

「……すごいね。なんていうか、いろんな意味で」


 そうかな? まあ、領主が主導して住民を外に出そうとするのは変わってるかもね。


「そんなだから、今は王都みたいな平和なところに来れてホッとしてるよ」


 安全っていいよね。裏路地みたいな危険はあるみたいだけど、その程度じゃ特に危ないとは思わないし。


「まあ、王都にはそんな危険なんてないからね……ただ、気を付けた方がいいこともあるよ」

「気を付けた方がいい事? たとえば?」

「さっきの王女様の話さ。名前を間違えるのはもちろんだけど、その顔も知らないっていうのは貴族としてはちょっとマズいよ。もちろん他の王族のこともね。だからちゃんと覚えておいた方がいいよ」


 あー、それかぁ。確かに貴族的には名前を間違えるのはマズいだろうな。大抵の家はうちより格下だから間違えても何とかなるかもしれないけど、不愉快にさせることは間違いないだろうし。もし格上の家を間違えたら大変だ。そしてそれが王族だったとなれば、もっと大変だ。


「直接かかわったことがないんだから名前なんて分からなくて仕方ないと思うけどなぁ」


 覚えた方がいいっていうのは分かるし、名前だけは憶えてるけど、会ったこともないし写真もないんだから顔と名前が一致しないんだよ。


「それでも覚えるのが貴族ってものだよ。それに、これまで係わりがなかったって言っても、これからもないとは限らないわけだし。特に僕達みたいに同じクラスになんてなったら猶更ね」


 だよなぁ……はあ。後でちゃんと顔を見て覚えておかないとだな。俺が責められる分にはどうでもいいけど、それが実家まで責められるようになったら兄さんたちに申し訳ないし。


「それから……」


 まだあるのか。でも、なんだって声を潜めてるんだ?



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