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001 残滓

 俺の実家の針姫家は古い物が大好きだ。

 未だにブラウン管のテレビは置いているし、未だに五右衛門風呂に入っているし、未だに部屋着は和服だし、未だに写真を撮られると魂が抜かれると思っているし、未だに家の壁には旧暦のカレンダーが掛かっているし、未だに本家分家制度を採用しているし、未だに未だに妖怪退治を生業としているし、未だに占星術をアテにしている。懐古的にも程がある。およそ令和を生きる一族とは思えない。そろそろ文明開化をすべきである。

 そんな彼らは、当然の事ながら、出所不明の『伝統的な儀式』を数多く持つ。例えば、『葦子』――二千年前は『悪し子』と呼ばれていたこの儀式は、はっきり言ってしまえば、出来の悪い子は生き埋めにしてしまおうと言うものだ。『出来の悪い子』に明確な定義はない。当時の家長が出来の悪い子という烙印を押された子供は皆、出来の悪い子なのである。埋められた子の上には何故か葦が生えるので、時代が下るうちに『悪し子』は『葦子』と呼ばれるようになったのだが――それはどうでも良いとして。

 葦子という儀式は今も存在する。

 そして悲しい事に、今日――三月三一日。

 儀式は取り仕切られる。

 埋められるのはこの俺だ。

 俺はどうしようもなく出来が悪い。反論の余地が無いくらい出来が悪い。自分でもそう思う。だから、埋められるのは仕方がないと思う。

 埋め方はほんの少しだけ人道的だ。儀式の日、葦子は朝から好物を鱈腹食べさせて貰った後、二度も風呂に入る。そしてその日の為に誂えた振袖に身を包む――男も振袖を着る。所以は不明だ――最後に高級木材であるヒノキ一〇〇パーセントの木棺に入り、睡眠薬を解いた酒を飲む。その後の事は知らない。恐らく、木棺の蓋を閉めた後、それを裏山に埋るのだろう。知らない。知りたいとも思わない。知った所で恐怖が増すだけだから。

 前置きが長くなったが――俺はこの盃に注がれた酒を仰げば、それで短い人生が終了する。

 恐怖はある。

 だが、後悔はない。

 良き人生に乾杯。


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