村の言い伝え
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ある小さな村の外れに、古びた祠があった。
人々はその祠に足を踏み入れることを禁じていた。
「呪われた場所」として伝えられてきたそこには、誰もが口に出すのを恐れる秘密が隠されているという。
祠に近づくたび、冷たい風が肌を刺すように吹き、闇が不気味に揺れている。
村人たちは、そこで何が待ち受けているのかを知りたがらなかった。
だが、青年カズキは幼い頃からその祠に対する興味を隠せずにいた。
ある夜、カズキは意を決して祠に向かった。
満月が辺りを青白く照らし出し、彼の影が地面に長く伸びていた。
祠の扉は重く、開けるとき、古びた木材がきしむ音が静寂を破った。
中に入ると、空気が冷たく、まるで何世代にも渡って閉ざされていたかのような異様な匂いが漂っていた。
彼が奥に進むと、床に奇妙な紋様が描かれ、中央には古ぼけた鏡が置かれていた。
その鏡には人々が恐れる理由があった。
伝説によれば、この鏡に映る者は呪われると言われていたのだ。
だがカズキはその話を信じていなかった。
彼は鏡の前に立ち、静かに自分の姿を見つめた。
その瞬間、背後で風が巻き起こり、囁くような声が耳元で響いた。
「お前も呪いを受けに来たのか…?」その声は、無数の魂の怨念が一つに混ざり合ったような音だった。
カズキは全身が凍りつくような恐怖を感じたが、どうしても目を離すことができなかった。
鏡の中の自分の顔が歪み、徐々に笑顔へと変わり、最後には血の涙を流しながら狂気の笑みを浮かべていた。
カズキは恐怖のあまり目を逸らし、逃げ出そうとしたが、体が動かなくなっていた。
鏡の中から不気味な手が現れ、彼の手を掴んで離さなかった。
もがき続けるカズキの耳には、村人たちが封印したという過去の呪われた者たちの叫び声が響き続けていた。
それから数日後、村人たちは祠の前でカズキの靴を見つけたが、彼の姿はどこにもなかった。
それ以来、村人たちはさらにその祠を恐れるようになり、誰も近づかなくなった。
やがて、村では新たな噂が広がった。
満月の夜になると、祠の奥から誰かの助けを求める声が聞こえるというのだ──
まるで、カズキが祠の呪いに取り込まれてしまったかのように。
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