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スケベ戦線、異常しかナシ‼  作者: セクシー・サキュバス
ターゲット3――如月喫茶
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19 巨人との「遭遇」

 別館――木造二階建てのペンションみたいな横長の建物。

 窓が少ないせいか――そこの廊下は、日没がまだであるのに暗い。

 そんな、薄い闇の中、二つの濃い影が浮かび上がる。

 一人は――バットを肩に乗せて歩いている墓井であった。

 一人は――自由な両手をぶらぶらさせているツインテちゃんであった。

 二人は、墓井の部屋で準備をした後――裏口から別館に乗り込んだのであった。

「すいません、先生――こんなところまで、つきあわせちゃって」

「いや、いいよ。さっき、言っただろう――アタシもあいつに返すものがあるんだ」

「ところで、先生……その返すものとは……」

「そ、それはだな……」

 墓井は本日何度目かの――指で唇をなぞる動きをはじめる。もちろん、恋に恍惚(こうこつ)として見入る乙女のような面相(めんそう)もセットで。

「はい、なんでしょう」

「えっ、っと……その、なんて言うかだな……言うのはなににするかだな……」

 墓井の言葉が奇妙なところで――微妙に(にご)る。心なしか文法も(みょう)ちきりんになっているような――

「はい、なんでしょう」

「その……あの……この……どの……――――!」

 墓井が足を止める。片手を広げ――ツインテちゃんの進路を阻んだ。

「……! どうしたのですか……?」

「く……くる!」

 廊下の前方――曲がり角の右から大きな影が現れる。

 二メートルを余裕で超える全長――「ぽぽぽ……」と呟くような声――長い……長い髪。

 間違いなく――その女は如月だった。

 如月は墓井とツインテちゃんを確認したようで、その場で動きを止める。

「よぅ、如月。休日出勤とはお疲れじゃないか」

 墓井がツインテちゃんの前に出る。

「墓井先生……何故ここ……? 何故……その子……?」

「あぁ、アタシも休日出勤だ。お互いお疲れだな」

「……」

 グニュウンと首を曲げた――如月は墓井の顔を覗く。その動きはまるで――選定をしているようにも、査定をしているようにも、見える。

 髪の間から見える如月の目の赤い光に――墓井の後ろのツインテちゃんが、ヒッと退行する。震えはじめた体を縮めて――墓井と如月を見据える。

「無駄にアタシの生徒を怖がらせないでくれないか? オマエもお化け屋敷とか(やぶ)見世物(ミセモン)じゃないだろ?」

「私を……見世物にする……見世物にしたがる……娯楽施設……ない……」

「あった方が困る。人権あるアタシたちを見世物小屋にぶち込むことなんざ、論外中――論外。最早、娯楽の域を越えて誤娯楽(ごごらく)――いや、誤楽(ごらく)だ」

「誤楽なんて言葉……ない……存在しない……」

「それこそ(あやま)りじゃないか? あの漱石(そうせき)の奴も多用している文字だぞ」

「それは……娯楽の誤字……」

「ほら見ろ、やっぱ、誤娯楽じゃないか」

 如月は蛇や金蛇(かなちょろ)のようにうねりながら――墓井から顔を遠ざける。

「じゃあ、如月。アタシたちは行かせてもらう。早く帰って麻雀の続きもしたいからな」

「……ぽぽぽ」

 如月は道を譲るように――廊下の左側に寄った。

「ありがと」

「案外……簡単に通してくれますね……」

 ツインテちゃんが如月に聞こえないぐらいの小声で言う。

「……さぁな」

「へっ?」

 それから少し歩いて――丁度、如月を通り過ぎた際――

「……ぽぽぽ」

 ――墓井が手に持つバットを如月に向けて振った。

「⁉」

 バットは如月の腰にあたったように――見える。

「ちょっ、墓井先生……!」

 ツインテちゃんの心配そうな態度を傍目に、墓井は如月にぶつけたバットに注目しているようだった。

「なんだ……先制攻撃だと思ったんだけどな……」

「尾張罪檎……ところ……行かせない……ぽぽぽ……」

 バットをあてられた如月は、思いの外、ぴんぴんしていた……。

 それもそのはず――墓井の()()()()()()()()()()()()()()()()――

「先生……バットが……」

 ツインテちゃんは()()()気づいたようで――墓井のバットの先を指差す。キッと如月を見つめている様子は――恐怖で震え(おのの)く自分と戦っているようだった。

「あぁ……やられっちまった」

 なんと墓井のバットの先がアイスのように――マグマのようにドロドロっと溶けていた。

 投げるように――バットを捨てて――墓井は如月に向かう。

 何時の間にか如月の右手には銃のような道具が握られていた――その尻にはホースがつけられていて――如月の後方――背負われているタンクへと伸びている。

「ぽぽぽ……ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……」

 辺りの暗さ――そして、如月の高身長――その二つの事柄が原因で墓井とツインテちゃんは、寸前まで――ホースとタンク――その存在に気がつかなかったみたいだ。

 金属特有の光沢がある――冷たそうな、その銃口が墓井へ向けられた。そこから、ポタッポタッと黒色の液体が垂れている。

「おい、路西。こいつの遊び相手はアタシがやる。おまえは尾張のところへ行ってろ……」

「で、でも……」

「この状況で、『でも』はない。早く行ってくれ!」

「は……はい!」

 墓井の剣幕に押されツインテちゃんは踵を返して走り出した。

「もう皆、『でも』とか言いやがって――デモ活動をしてる暇があったら啓蒙(けいもう)活動をしてくれっつーの――まぁ、それは尾張(あいつ)の仕事か……」

 残された墓井と如月――お互い譲るつもりはないらしく、睨みあっている。

「なんか必死そうだな。まぁ、こうなるのも必至なんだろうけど」

「墓井先生……何故、尾張罪檎……助ける……?」

「あん?」

「あいつ……墓井先生……倒した、挙句……学校……荒そうとしてるのに……」

「助けるもなにも――尾張はアタシのところの生徒だ。アタシの許可なく、勝手に指導されちゃあ、正直――困る」

「あなた……どうせ……自分……全裸になるの……怖いだけ」

「そうかもなッ!」

 墓井の足が如月の脇腹に入る――如月はびくともしない。

「ふっ……硬いな……。なんか防護服でも着てんのかぁ?」

「ぽぽぽ……」

 如月の銃から黒い液体が発射された。見事、墓井の腹部に命中し――墓井のタンクトップが溶けていく。

「厄介だな、それ」反射的なのか自律的なのかはわからないが、墓井は後ろに跳んで――如月と距離を取った。その衣服が溶けたせいで、お腹と右下乳が丸見えになっている。

「なんだっけか。確か媒介をコーヒーとしている能力だったかな――ふん、喫茶って名前は伊達じゃないな」

 ――如月の超能力それは……媒介『コーヒー』、系統『物質破壊系』、『コーヒーをかけたところをドロドロに溶かす能力』だった。如月が超能力を使うことは滅多にないので――学校の中で知っている人も滅多に()ない。

「うん……伊達家では……ない。私……如月家……」

「あぁ、でも、オマエは随分と伊達な女だと思うぞ――そのド派手で個性的な格好とか」

「馬鹿にしてるの……?」

 コーヒーが再度発射される。三回目だからか――「よっ」と身軽に墓井はそれを避けた。コーヒーはそのまま、墓井の後方の壁にかかり、溶かしはじめる――

……このまま、真正面から戦っていてもこれじゃあ勝てねぇな。これは墓井の呟きだ。

「降伏……するなら……今の内」

「降伏? こっちの台詞だよ――オマエも今の内に降伏しといた方が幸福だぞ」

 カシャッ――改めて銃が墓井に突きつけられる。

「……降伏しない……なら……容赦しない……」

「それもこっちの台詞だ」

 墓井は如月に背を向けて――逃げ出した。

 その後ろからコーヒーが飛んでくる。

「……さぁ、どうしようか次は――…………そういや……」

 墓井の手がズボンの両ポケットに入る――ガサゴソと音を鳴らして、ポケットに入っている()()()を確認している。

「よしっ――これはいけるかもしれない……」

 墓井と如月の戦争は――墓井の撤退戦に差しかかったのだった。

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