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スケベ戦線、異常しかナシ‼  作者: セクシー・サキュバス
ターゲット3――如月喫茶
17/37

17 扇子で隠されし「目」

 制服に着替えたぼくは、如月に導かれ、校舎脇にある『別館』という建物に入って、『特別補習室』という看板が掲げられている部屋にやってきた。

 だいたい四畳半ぐらいの大きさの小部屋で――フローリングの床――窓のない壁――そして――そして……そして……いつまで経っても『そして』の先が出てこない。なぜならそれは――『そして』は存在しなかったからだ。

 なにせ、『小部屋』と『フローリング』と『窓がない壁』――この部屋に関しては、それだけしか言うことがないのである。机も椅子もなにもない――伽藍堂(がらんどう)な部屋、いや、伽藍堂そのものなのだから。

 そこにただ一人、突っ立っていたのが――「あらぁん、はじめましてん」――第二学年の主任、神島偉國だった。

 ぼくと同じぐらいの背をしていて、そのバストもぼくと同じぐらいの大きさ――しかし、それ以外の部分はぼく以上だった……! キュっとしまった綺麗なウェストライン――ズボンの上からでもわかる、むっちりとしたお尻――

 彼女は『スタイルでぼくに勝てる女性は滅多にいないだろう』と豪語した自分の傲慢や驕慢(きょうまん)が恥ずかしくなるぐらいのスタイルをしていたのだ。今まで、ぼくが見てきた中で一番、グラマーかもしれない……。

 彼女を前にして――ぼくがいかに井の中の(かわす)だったのか、ぼくがいかに森の中の木しか見ていなかったのかを痛感させられた。どうせ感じるなら、痛感ではなく快感――痛みではなく(こころよ)さの方がよかったのだが。

「休日に御免なさいねん――」

 片手に持っている扇子で、神島は自分を扇いでいる。そんなに熱くもないのだが……。癖なのかもしれない。

「いえいえ、先生方もお疲れ様です」

 ぽぽぽ……と、ぼくの声に反応するように如月の声が後ろから発せられる。

 如月は部屋の扉に寄りかかっているみたいだった。今思ったのだが――なんなのだろうか、その『ぽぽぽ……』とは……。単に理由のない口癖だろうか――なんとなく、笑っているようにも聞こえるのだが。とりあえず……保留しておこう。まずは、用事を済まさなくては。

「では、あの、転校の手続きというのは?」

「あぁん、()()()()……()()()()()……」神島が意味ありげに扇子を閉じる。扇子は棒のような形になる。

「はい……」ぼくは扇子の動きを注視していた。意識的に見ていたわけじゃない――ただ、無意識に注目していただけだ。

「提出書類が足りてなかったのよん」

「え、嘘ですよね?」

 確か転校云々(うんぬん)の書類は、転校前日にぼくが徹夜で徹底的に全部、完了させたはずなのだが。

「御免なさいねん、他にも色々書いてもらう書類があったのだけれどもん、こちらのミスで、あなたに送れなかったのよん」

「あぁ……そういうことですか」そういうことかよ。

「じゃあん、この書類にん……あれん⁉」

 神島が自分のポケットに手を突っ込みながら素っ頓狂に叫んだ。

「な、ないわん……職員室に忘れてきちゃったみたいん」

 ガクッ! ぼくは思わず、ずっこけそうになった。いくらなんでも、お茶目すぎへん、それ? 神島にはグラマー属性の他に天然属性もあるのかもしれない。

「というわけでん……。じゃあん、職員室に取りに行ってくるからん、少し待ててねん」

 全く……しょうがないなぁ。焦り顔でぼくの横を通る神島――ぼくは横目でそれを見ていた。

 ――観察していたと言った方が正しいかもしれない。

 神島が――ぼくとすれ違った刹那――唐突に持っている扇子をぼくへと向けた。

 ――いや、ただ向けただけじゃない、ぼくの喉に――ねじ込むように刺したのだ。

 扇子はただ扇ぐだけが用途じゃない――弓矢の的、投げ道具、呪いの道具など色々あるが――この状況であてはまる用途は――『武器』であろう。

 扇子の中でも特に――鉄扇(てっせん)――鉄製の扇子。日本では鎌倉時代から護身用の武器として使われてきた。

 たかが扇子とは思うだろうが――通常、扇子は閉じると約二十センチの棒になる――そう、二十センチである。二十センチもあったら打撃武器としては普通に使える範囲内であるし――それが鉄製の硬いものであるのなら尚更である。それで――目とか、喉とか、みぞおちなどの急所を突けば、大抵の人間は一発でクリーンヒットであろう。

 いま――この状況のように。

「まぁ、ぼくは大抵の人間ではなかったようですが」

 ぼくは扇子が喉にあたる寸前に――避けていた。

と言っても、素早く後方に下がっただけなのだけど。

 咄嗟に反応ができたのは、ぼくが神島と如月を警戒して――こっそり構えていたからだ。

 ――ハニートラップに(はま)るほど、ぼくは馬鹿じゃない。

 如月から連れて行かれた時から――神島とこの部屋で会った時から――ぼくはずっと、ずっとこの一連の学校の手続き云々の話は罠だと疑っていた。

 その根拠は……まぁ……普通に怪しいじゃん。この部屋とか、なにもない伽藍堂だし……普通、先生がプリント忘れてくるわけはないし……。とは言え、如月と会った時点では本当に罠かどうか半信半疑だったわけで――ついてきてしまったのだが。

『武装せる予言者は勝利を収めることができるのであり、反対に、備えなき者は滅びるしかなくなるのだ』――マキャベリもいいこと言うねぇ――気に入った。『君主論』ぐらいは古本屋で買って、友達に配ってやるよ。

 さてと――ぼくは、改めて神島に目を向ける。

 ――神島は再び扇子を構えている。ぼくの後ろでは同様に――如月がなんらかの構えを取っていることだろう。

 ――ここからどうやって、この二人を倒すか。

 肉体戦では複数対単数だと圧倒的に単数の方が不利だ。しかし――超能戦ではそうとは限らない。

ぼくの勝利条件はただ一つ――相手に触れることだ。相手の体に触れて『大淫蕩無間地獄(イントゥ・ザ・ラスト)』を発動すれば相手は無力化する。

 今回の相手は、神島にしても――如月にしても――(まと)が大きい。それに、如月はわからないが、神島は扇子を使った肉弾戦だ。扇子の戦い方――鉄扇術(てっせんじゅつ)は護身用の武術だからか相手に触れる技が多い――つまり、神島は高確率でぼくに触れてしまうのだ。そこで『大淫蕩無間地獄』を使用すれば、その時点で神島はやられてしまう。後は如月のでかい図体(ずうたい)に触れりゃあ――もうぼくの勝ちだ。

 ――まぁ、これは相手の超能力を抜きにした、信憑性も信頼性も欠けている分析なのだが……。

「なんとかなりますよね……」ぼくの神島に警戒しつつ、振り返って如月の出方を確認しようとした。出方次第では先に如月をやっつけようと――思った。

「……」

 ――思った。

「…………」

 ――――思った。

「………………えっ……」

 ――――――思ったのだが。

「…………………………こ、これは……⁉」

 ――――――――思ったのだが……できなかった。

 なにしろ、()()()()()()()()()()()()()からだ。

 いや、それは嘘だ。口と眼球と(まぶた)は動いている――つまり、口と眼球と瞼以外が()()()()()()()()()()()というのが真だ。

 これはどういうことだ――どういうことも、こういうこともない……これは超能力に決まっている。だとしたら――()()()のだ……?

「ふっふっふっふっふん‼」

 ぼくの前にいる神島は、いやらしく、いかがわしく、笑った。

「あっ……」

 その時――ぼくの()が神島の()を捉える。

「あっ……あっ……」

 ぼくが見た神島の目は、ほんのりと赤く光っていた。

 ――本当にほんのり――よくよく見ないと気がつくことができないほどの光。

 それは間違いがない――()()が超能力だ。

 じゃあ、これは神島の……?

「あなたの阿呆面は面白かったわん」背を伸ばしながら――神島がじりじりと迫ってきた。胸を突きだすような姿勢になっていて、ただでさえ大きいものが、さらに大きく見えてしまう。こんな状況でも、おっぱいのことを考えてしまうのだから、ぼくもスゲェ奴だな……。

「媒介『眼球』ん、系統『肉体操作系』ん、『目をあわせた相手の動きを止める能力』ん――がワタシの超能力よん」

 じゃあ、あの時――扇子を避けて、ぼくが神島に目を向けた時からもう、ぼくは神島の超能力に嵌っていたってことか⁉

 ――だとしたら……ぼくは馬鹿だ! ……大馬鹿だ!

 神島の扇子、如月の動きに神経を尖らせていたぼくは――言うならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだったのだ!

 その二つだけに全てを集中させてしまい――その二つだけを全てだと思い込んでしまい――ぼくは、有相無相(うそうむそう)異類異形(いるいいぎょう)などの――その他、全てを見逃していたのだ!

 これじゃあ、墓井との戦争で犯してしまった戦犯(ミス)と全く同じじゃないか……。

 バットと扇子……。

 ……足と超能力。

 脚下暗顧(きゃっかあんこ)

 再思無省(さいしむせい)

 我の振り見て我が振り直さず。

 こりゃ、軍法会議(ぐんぽかいぎ)沙汰(ざた)だ。

「アイムソーリーオワリサイゴん。ワタシん、噓ついてたわん。あなたの転校手続きには一切合切抜けはないわん。つまりん、全て完了してるってことん」

「やっぱりですか……」

 やはり、ぼくをおびき寄せるための嘘だったってことか……。

「さぁん、オワリサイゴん。あなたはもう詰んでいるわん。あなたに残された道は二つだけよん」

 神島は扇子を持っていない方の手――左手でピースサインを作った。

 一つ――。中指が下げられる。

「ワタシに降伏してん、二度とこの学校の方針に逆らわないことを誓うかん」

 二つ――。人差し指が下げられる。

「このままん、反抗を続けてん――ずっとこのままかん――」

 二つの指が下げられ――グーの形になった手が、ぼくの胸ぐらを掴んで――ぼくの口元ぐらいまで上げる。

「デッドオアライブ――あなたはん、どっちを選ぶん?」

「どっちも――お断りします」

「うん、セイザットアゲイン?」

 ぼくの口の中、舌の先の部分――丁度、中央に走る縦線、舌正中溝(ぜつせいちゅうこう)に硬く、冷たいものが押しつけられる。扇子だ。神島の右手が扇子をぼくの口腔(こうこう)の中に入れやがったのだ。

 吐き気が(もよお)さない絶妙の位置に押しつけられたのが幸いだった……!

 入れられること自体は(つら)いけど。

「セイザットアゲイン――もう一回言いなさいん?」

「お……ふぉとふぁりしまふ……」

「うぅん?」

「おふぉとふぁりしまふ(お断りします)!」口になにかが入っている中、ぼくはできるだけ丁寧に断った。

「あらぁん?」神島がぼくの口から扇子を抜く。

「どんな状況であっても、ぼくは絶対に暴力には屈しません」

 やっとこさ、しっかりとした声でそう言った。

「それが美辞麗句(びじれいく)によるものであっても――それが強談威迫(ごうだんいはく)によるものであっても――ぼくは絶対に、暴力を使って人を支配することを、許しちゃいけないと思うのですよ」――それだからこそ――「こんな(むご)い手を使って、無理矢理、言うことを聞かせようとする、あなたの言うことなんか絶対聴きませんし、その声も耳に入れたくありません」

 ぼくは、何時もの決め台詞(ぜりふ)を――ぼくよりボンキュッボンな女――神島偉國に断言した。

「あらぁん、あららぁん? それは残念ん!」神島は、さほど怒っていなさそうな様子で――ぼくの頬を扇子で殴った。

「うっ……」強烈で勁烈(けいれつ)な痛みが、ぼくの顔面に浸透する。

「言葉を聞くつもりがない――会話をするつもりがない――だったら、残されたコミュニケーション方法は――戦争しかないわよねん‼」

 神島は扇子のぼくを殴った部分――ぼくの口の中に入れられた部分――を舐めると――それで、もう一度――頬を殴った。

「くっ……!」どんな趣味しているのだ、こいつ⁉

「さぁん、サノバビッチ。あなたの威勢――そして威厳はどのくらい持つかなぁん?」

 (すで)にはじまっている、神島とぼくの戦争。

 それの前半戦が――ぼくにとって圧倒的に不利な状態で終わろうとしていた。

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