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あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!  作者: 家具付
私の父は育ての親なんです!!
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9 色気などは追加されない

私は真剣に悩んでいた。男女が遊びに出かける時ってどんな事をするんだろうか。

私は前の人生で、男女で遊びに出かける機会などとんとなく、この人生では休みと言われるもののない生活だったので、何をどうするのが正解なのか、全く分からなかった。

確かに、出かけようという話はした。無論それを受けた。

でも何をするんだ……? 何をどうして時間を潰すんだ……? 普通の男女ってどこに出かけるんだ……?

悩んでも答えなんて出てこない。そして経験豊かな女性たちにこんな事を言ってみろ、あっという間に話のネタにされて尾ひれ背びれが付きまくり、どういう事を言われるようになるのか未知数である。

そんなわけで、私は約束の三日後、呻きそうになりながらハッサンさんを待っていた。

そもそも砂漠では相手の家に迎えに来るのが普通なのだろうか。

そこからしてもう怪しいのだが、ハッサンさんの方は多少なりとも私より男女の交流に関して知っているはずなので、彼を信じてみたいと思う。

身なりは清潔には整えた。しかしお洒落になるものなど旅暮らしには所持できるわけもなく、旅というものは必要最低限をずっと抱えて、盗賊に襲われたらとにかく逃げる事を重視するものなので、私はおしゃれ事情にも詳しくない。

王の城があるこの町に来たのも、実は一か月前なのだ。そして親父が一日目で食と住居を見つけて働き初め、そして町で遊ぶ暇もなく、王宮の区域に引っ越す事が決まったのだ。

これでどう最近のおしゃれ事情を知れなんていうのだ。

普通の見た目は出来るけれども、おしゃれな可愛い女の子というものにはなれないのだ。

三日間の間に服でも仕入れて来いって? おっしゃる通りで。

だが親父の面倒を見ながら、近所にあいさつ回りをしたり、近隣の人間関係を覚えるので精一杯だったのだ。

近隣の事情を知らなければ、いざという時に困る事は容易に想像がつくので、怠れない事である。

近所のあいさつ回りのために、ちょっといいお菓子を仕入れて、それを配る事も忘れなかった私は、しかし自分の服に関しては手に入れられなかったというわけだ。要領が悪いという人もいるに違いない。


「エーダ、唸っていても何も始まらないと思うよ。君は悪い感情を持たれない程度に、見た目を整えればいいんだと思うよ。王様の紹介だからね、ちょっと強気に出ても大丈夫」


「強気って親父、なんで」


「だってそうだろう? 王様の紹介なのだから、あちらさまからお断りは出来ないからね。ちょっとこっちが強めに出てもすぐにはお断りだの別れたりだのにはならない。それに君が疲れ果てるほど相手に気を使って事を進めても、お互いにいい事なんて何一つないよ。夫婦は片方が我慢する生活なんてしてはいけないんだ」


「親父は夫婦生活の経験があったりするわけ?」


「ろくでもない夫婦だっただろうねえ、当時を振り返れば。でも相手ももう鬼籍だし、相手の悪口を言いたくないから、あまり深く聞いてほしくないかな」


親父はそう言い、弦楽器を軽くつま弾いている。ゆったりとした音楽は、親父が暇になると奏でるどこか異国の調べだ。少なくとも、砂漠の調べでない事は、曲調からはっきりとわかる。

私は手持ちぶさたになって、もう何回目かわからないほど鏡を見て、髪の毛を直した。

この人生での私の髪の毛は、以前と違って珍しくもない薄い茶色の髪の毛で、ちょっと波打っている。肌の色も、濃くも薄くもない、砂漠であり触れた色で、瞳の色は無難な黒だ。

前のエーダとは血が一滴もつながっていない事からも、私があの頃との共通点を見出す事はない。

そんな風に時間が過ぎてきたところで、とんとん、と家の扉が叩かれて、私は応対に出た。


「こんにちは。ハッサンさんでしたか」


「こんにちは。約束通りに、迎えに来たのだが、問題はないだろうか」


「ありませんよ。……親父、行ってくるね!」


「わかったわかった。ハッサンさん、娘をよろしくお願いします。楽しんでおいで、エーダ」


やってきたのは約束通りのハッサンさんで、やや緊張した雰囲気が伝わってきていた。

この人でも緊張するのかと、新しい発見をした気分になる。

私が家の中の親父に声をかけると、親父はこちらに顔を向ける事もしないでそう言い、私達は家を後にしたのだった。







「あなたはどれくらいこの町で暮らしているのだろうか」


「一か月にならないくらい」


「来たばかりという事になるのか。それならば……生活に必要な所を紹介していく方が、遊ぶよりもあなたにとってはうれしいような気がするのだが」


「あ、案内してくれるんですか! やったあ! 今まで暮らしていたのが、この町の西区だったんで、王宮のある南区の生活必要品を手に入れる所の知識がなかったんです!」


歩きながらそんな話題になって、素直に答えると、彼は私にとってうれしい事を言ってくれた。

そりゃあ、毎日王宮に暮らす人たちの所に行商人は来る。

だが彼等に用意できないものもあるし、自分でじっくり決めたいものもある。

そう言うわけで、彼の申し出は私にとってとてもありがたい物になったのだ。


「案内してくださいね、ハッサンさん」


「あなたが満足できるような案内が、できればいいのだが」


「そういうあなたはここに長いんですか?」


「……十年だ」


「わあ、長い。もしかしてここが第二の故郷だったりするんですか?」


「いいや、故郷はここよりはるかに東、夕空の町と呼ばれるほどに、夕暮れになると美しいと称される町だ。だがもう、家族の誰もそこでは暮らしていない」


「そうなんですか? 仕事を探して上京する、みたいな事はありがちだと思うんですけど、全員」


「十年前に、一つの大問題があの町で起こった結果、関係者は町にいられなくなったというだけだ」


何か訳ありの様子だった。でもまだそれを聞いていい間柄じゃない気がした私は、彼の隣で、別の事を聞いてみる事にした。


「私の家族って、親父だけなんですけれど、ハッサンさんのご家族って何人なんですか?」


「両家の祖父母に両親、弟妹と言った所か。他の町に暮らす親戚はそれなりにいるから、一族がそろった時はあまりにも人数が多くてもてなしが大変だ、と母や祖母たちが文句を言う」


「皆さん元気なんですか? あ、失礼でしたか」


「……ああ、皆とても元気だ。祖父母は後、二十年は生きると豪語しているほどに」


「お元気なんですね、なんだかハッサンさんのご家族って楽しそう」


私は家族というものにあまり縁がないので、たくさんいて楽しそうだと思って言うと、彼は頷いた。


「全員お喋りなためか、俺は口をはさめない」


本当に、自分は口では勝てないという調子だったので、私はつい笑ってしまった。

彼が家族と幸せに暮らしている事が伝わって来て、泣き出しそうだったのをこらえた結果だった。









食料品を扱う所、生活雑貨を扱う所、衣類、医者のいらない簡単な薬を購入できる所。

ハッサンさんの案内してくれたのは、痒い所に手が届くと言っていいくらいに、知りたかった所ばかりで、その選択になかなか考えてくれたのだな、と改めて思った。

そして飲食店の一角で、二人で軽い物を食べた後、私はどうしても寄ってみたい所があったので、聞いてみた。


「ハッサンさん、私実は、紹介してほしい所があるんです」


「これ以上に? 何か女性だから必要な場所だろうか。化粧品は……妹を連れてくればよかったかもしれない」


「いえいえ、お化粧品ではなくて、刃物なんです」


「刃物?」


「はい。私、短剣を探しているんです」


「……」


一瞬怪訝な顔をしたのだな、とかすかな表情の変化で伝わってきた物の、私はさらに続ける。


「旅暮らしが長くて、短剣が日常生活に必須の物になってしまって。腰にぶら下げていないとどうにも落ち着かないんです。でも今まで使っていた物は、研ぎの人に出したら、もう砥げる所がないから、新しいのを買えと、西区で言われて。そろそろ切れ味も悪くなってきた寿命の関係で、新しいの探さないとな、と思っていたんです」


事実だった。旅をしていると、たくさんの刃物なんて所持できないので、なんでもできる刃物を一本という選択になりがちなのだ。

そして私が今まで使っていたものは、もう五年物で、いつでもいい切れ味を保つために何度も研いでいたから、すっかり刃の部分が無くなってしまった物なのだ。

これですよ、と腰から下げていた物を渡して見せると、彼はすっかり刀身が半分以下になっている短剣を見て、納得してくれた様子だった。


「予算は?」


「やっぱり安すぎると素材が酷い事が起きがちなので、平均くらい。……でも平均ってこのあたりだとどれくらいなんでしょうね」


「……ならば、近衛兵達が信頼している武器屋の方がいいだろう。そこは一般客もそれなりに入る所だ」


「なるほど、そう言った所なら、ある程度の信頼は出来そうですね」


そう言って、私は彼の後についていき、その武器屋に入ったのだった。

武器屋は大通りにあって、なかなか繁盛している様子が、にぎやかな人の出入りからもうかがえた。

そして店先に出されている物をちらっと見たのだが、最上級品という感じではないけれども、質はまあまあよさそうだった。

期待できそうである。

そんなわけでハッサンさんと中に入ると、店の人がこっちを見てぎょっとした。


「ハッサンさん。あなたまた大剣折りました? 何度目です?」


「今日は私が客ではない、こちらの女性が質のいい短剣を探しているんだ」


「どうも、こんにちは」


店の人が呆れた調子で言うのは、なかなかすごい事で、普通に大剣なんて折れる物じゃないので、一体どんな暴れ方をしたらそうなるのだ、と言いたくなる物だった。

しかし彼等は、私が客だと聞いて、ちょっと意外そうな顔になった。


「何に使うんですか?」


「雑事全般にです。いくつか見せてもらえたりしますか?」


「もちろん。雑務と言うと、あまり飾りのある物は良くないでしょう。……そうだ、こちらの桶の中の物から選ぶのはどうです? 飾り棚の物は、見た目を重視したものも多いので」


「ありがとうございます!」


示された先に会ったのは大きな桶で、そこに大小さまざまな短剣が入れられていた。

長剣よりも短剣は軽く見られがちなので、こう言う扱いも納得だ。

私はその桶の前に座り込み、見込みの在りそうな物を次々手に取って、鞘から抜いて、重さの均衡などを調べ始めた。


「何を?」


「柄を握った時の具合の確認。これが重いと動きが悪いし、軽いと手からすっぽ抜けちゃうんで」


「そんなにも違いがあるのか……?」


「ある。……これはだめだな、刃が一直線じゃない。こっちは……素材が甘いな。これは……」


私はそれから、じっくりと桶の中の短剣と向き合って、色々調べていたのだけれども、はっとしたのは、武器屋の人が声をかけてきたからだ。


「お嬢さん、あんたすごい目ききなんですね。お嬢さんの年齢の女の子で、そこまで詳しい人も滅多にいませんよ。だから特別に、奥にしまっていたものをいくつか出してきたんです、この桶の中身にいい物がなかったら、どうです、見てみませんか」


「……短剣を使う人生が長かったので……」


武器屋の人に言われるってかなりだ。知らなかった、私は短剣に対しての目利きがそれなりだったのか。

そんな事を思って立ち上がると、いつの間にか私の隣に膝をついて話を聞いていたらしいハッサンさんも立ち上がった。


「この武器屋が奥から出してくるものは、滅多に見られない物だ。気に入るものがなくても見た方が得だろう」


立ち上がったハッサンさんが小さな声で教えてくれたので、値段の事も有るし、と思いつつ、私は奥から出されてきたものを見る事になったのだった。






「眼福でした!!」


「値段は跳ね上がっていて、あなたの気に入るものが見つからなくて申し訳ない」


「いえいえ、今日見つからないだけなんで、今度また来た時に新しく入ったものの中に、運命の一本があったりしますよ!」


「……またを約束していいのだろうか」


「え、もちろん! だってあなたがいた方がきっとぼったくられませんよ」


「そこなのか」


「それに。私は今日楽しかったですよ、男の人と何会話して過ごせばいいのかって悩んでいましたけど、ハッサンさんとっても気楽で」


「俺が気楽……?」


解せぬ、理解の範疇の外だと言わんばかりの反応に、私は頷いた。


「気楽で気軽な相手じゃないと、長続きなんてしませんって。私はあなたが気に入りました。でもこれがあなたの素ではなさそうなので、あなたが私に素を見せてくれるいつかが楽しみですね!」


結局私達はいい短剣を今日は見つけられなかった。色々言い物はあったのだが、重さの具合と値段と素材がちょうどいい物に出会えなかったのだ。

そのため、結構長い時間武器屋にいたのに、何も買わずに終わったので、武器屋の人からしたらあいつら……と思われる客だったに違いない。

それでも、私はハッサンさんと会話しながら選ぶ短剣は楽しかったし、その前の生活のための道案内もすごく面白かった。

そして何より、奥から出してもらった短剣は、王様くらいの身分じゃなければ見せてもらえなさそうな逸品ぞろいで、眼福間違いなしの物達だったのである。

そのため本日は、どう総合しても、楽しかったという感覚にしかならなかったわけだ。

その楽しかった気分のままに言うと、ハッサンさんは一瞬黙りこくった後に、問いかけてきた。


「それならば、あなたも素を見せてほしい。あなたもかなり作っているだろう」


「あっはっは!! そりゃあ年上のこれからどうなるのかわからない人相手なら、多少は丁寧に話しますよ!! 私の素ってかなり雑で幻滅されかねないものなんですから!」


「それを言うなら私も似たような物だ。……またあなたを誘ってもいいのだろうか」


「もちろん! そうだ、今度までに、何回あったら素を見せるか考えておいてくださいね!」


私が思い切り笑顔を向けて言うと、ハッサンさんは何かを耐える顔をした後に頷いてくれたのだった。

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