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あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!  作者: 家具付
私の父は育ての親なんです!!
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7 こちらでも相変わらずなのか

お喋りの好きな宮廷の関係者の女性の話をまとめると、何という事だろうか、この変化した未来でもハッサン……私の夫だった人は、顔が怖いという事で数多の女性達から距離を置かれていたのだ。

まさかという気分でいるのは仕方がないと思う。生まれ変わる前の砂漠で、彼は目元さえ隠せば砂漠の色男と言われた事も有る位の、見目の良い人だったはずだからだ。


「あの、私あんまり美醜の一般常識が分からないんですけど……ハッサンさんはいい男ではないっていうのが一般的見解だったりします?」


「あんた男の美醜が分からないって苦労した人生だったんだねぇ……」


何とも言えない事実として、私は男の人の美醜の判断がいまいちなのだ。清潔で悪臭がしなければそれだけで、好感を持つのである。

まあ、汚くて臭い人に対していい思いを抱く人の方がいないだろうから、そんな事で、と言われるかもしれない。

これも私がこの世界で育ってきた環境の問題で、親父は顔なんて判別できないがひょろすけ、その知り合いはごつくて荒っぽい裏社会系の下っ端か、やたら金持ちの美醜関係なさそうな人、というわけで、更に私には女友達というべき相手がこの世界では一人もいないので、誰かと格好いい人の話をしたりしない事もあって、男性の美醜の感覚が間違いなくずれているのだ。

生まれ変わる前の美醜の感覚でも、整っているとかはわかっても、恋愛対象として見られるかどうかはわからない人の方が多かったっけ……


「そりゃあ、顔の形が歪んでいないとか、そう言うのは整っているとかはわかるんですけど、この砂漠でいい男っていうものの代表格が誰なのかっていうのもわからなくて……」


「まあ、いい男といい女の判断材料は、町によっても違うし、国によっても大違いだっていうけれどね、まあこの砂漠で、今一番格好いい男って言ったら、王様の弟君のケビン様だよ」


「ケビン様?」


私は意外な言葉を聞いて目を丸くした。そして、ああ、あいつのお兄さんは過去を変えたから死ななくて済んだんだな、と思った。

ケビンは砂漠の王族だった、割と私と年齢の近い冒険者だった。そして、王位についたお兄さんも数多いた王様と同じように、神の怒りに耐え切れずに、その雷で丸焼きになって死んだという。

そんな悲劇の一つを、ケビンも背負っていたのだ。

そのケビンは、今、お兄さんが通常の順序通りに王様になったから、王の弟という立場になっていたのか。

これはきっと顔も合わせないし、お互いに知らぬ存ぜぬの間柄になりそうだ。

前の人生では、冒険者ギルドの受付の係の私と、冒険者として走り回っていたケビンは、それなりに会話をする間柄だったけれどね。

そんな未来もないのだろう。間違いなく。


「ケビン様ってどんな方なんですか?」


「優雅な人だよ、細身でしなやかで、にっこり笑うと歯も白くてね、いい香りの男性だって話だよ。私達には匂いが分かるほど近くに来たりしない、雲の上の人だけれどね」


私の知っている砂漠のいい男は、武力に長けていて、大事なものを守り切れるだけの頑丈さを持っている事があげられた。

でもそれは、それを誰もが分かるように示した夫だった人を、いい男だと思うようになって変わった美醜感覚だったのかもしれない。

十年と少しで、美醜は簡単にひっくり返る事くらい知っているんだから。


「それで、その、ハッサンさんはその格好いいに当てはまらないという事で合ってますか」


私の確認に、女性は頷く。


「気遣いも出来るし、扱いも丁寧だし、態度はものすごくいいんだけどね、何しろ顔と目つきと雰囲気が問題なんだ。結婚相手を紹介する仲介をしてくれる親戚達に勧められた女の子達は、ちょっと会ってみてそれだけでもう、無理ってなる位、見た目がだめ」


「性格についての悪い話はあったりしますか」


「敵には容赦をしないって話だね、でもそれは砂漠を守る誰もが同じだろう?」


なるほど。私がさかのぼる前の世界では、恐ろしい性格だと言われていた旦那は、この世界では性格に難のある人とは思われていないのだろう。

あの頃の私は、当時でも旦那が恐ろしい男だと思った事はなかったから、そこに関しては問題があると考えなくてよさそうだ。


「……そっか」


「なんだい、あんたさっきからずっとハッサン殿の話を聞きたがるね、まさかあんた……ハッサン殿の事、ちょっといいかなって思っているのかい」


「頼もしそうだなぁ、と」


「あんたかなり勇気のある女の子なんだね……って事はハッサン殿に春が来るってわけかい!!」


突如女性は目を輝かせた後に、こうしちゃいられないと言わんばかりに、食いついてきた。


「あのハッサン殿に春が来るってなったら、親戚のじいちゃん婆ちゃんが大喜びしちまうよ! すぐに知らせなきゃね!」


「あのー、おじいさんおばあさんが大喜びするっていうのは……」


「あ、ハッサン殿はうちの遠い遠い親戚なんだよ、父方の。で、じいちゃんばあちゃんは、悪ガキ時代のハッサン殿の事をよく知っているんだ」


「悪ガキと言われる時代があったんですね……」


「そりゃ、男の子にはちょっとくらいは誰でもあるだろう? 悪ガキと言われる時代が。そしてハッサン殿はその悪ガキ時代に、じいちゃんばあちゃんの手伝いをよくしていたから、年寄りには人気があるんだ。結婚相手としてみなけりゃ、あんな性格のいい男はいないってじいちゃん婆ちゃんは言うんだ。そんな物かねと思うんだけどね!」


「あははは……」


なんだかよくわからないけれども、このままいくと私がハッサンをちょっと恋愛対象として見ているといううわさが広がりそうである。

さすがに昨日の今日でそのうわさが流れるのはどうかと思ったので、今にも走り出しそうな彼女にこう言った。


「まだどういう事になるかわからないんで、誰かに話さないでください」


「そうかいそうかい、怖いって言わない女の子だってだけで、かなり朗報になるだろうね!」


そう言っている間に、結晶水石に水が満ちた事が伝わってきたので、私はそれを拾い上げて、壺に入れて、彼女にお礼を言ってそこを後にした。


「……やっぱり王様っていうものが、国のいい男っていうものの基準になるのだろうか……」


王様は流行とかそう言った物を動かす力があるし、王様の見た目を美しいと判断する考え方は、どこにでも転がっている話だ。そう、守られるだけの財力がある事を示す、細い体が格好いい男だって言われる国があったように。

壺を両手で抱えて少し歩き、そして私は意外なものを見る事になった。

その意外なものとは、私が暮らし始めた家の扉の前で、腕を組み考え込んでいるハッサンだ。

そこで何をしているんだろう。悩んでいるのが伝わってくるほど眉間にしわが寄っていて、確かに耐性のない女の子だったら怖がりそうな目つきになっているのが伝わってくる。

でも私には、懐かしい表情の一つだ。

大事なものを守るために、あの人はこう言う顔をする時があった。相手の事を考えて悩む時に、あの人はこの顔をしていた。

そして私はその顔で、見下ろされる事がちょくちょくあった人生だった。

だから、ちっとも怖くないし懐かしい。

そう、声をかけてしまうくらいには、愛しくなる表情だったわけだ。


「ハッサンさん」


「エーダ殿……」


「親父に何かのご用事ですか? 親父、今寝ていると思うのですぐ起こしますか?」


「いいや、あなたに話があって尋ねてきたのだが……あなたは今、私と話す時間があるだろうか」


「夕飯の支度までまだ時間があるので、問題ありませんよ。親父は今日はハレムに呼ばれないんですね」


「ハレムでは、希代の天才に誰が師事を受けるかで、争いが起きている。今女官長がくじ引きで、指示を受ける女性を決めている真っ最中だろう」


「あら、お詳しい」


「王がハレムに訪れて、あの楽師と同じだけ女性が演奏出来たら、通いたくなるとこぼしたからだ。ハレムの女性達は誰しも、王に通ってもらいたくてたまらない。あれだけの見目麗しいお方だからな」


「あっはっは」


聞いていて想像が出来てしまって、私は噴出した。それ、楼閣とかの女の人達とおんなじ反応だ。やっぱり意中の男性を射止めるために、音楽を極めたいと思う女性たちは、親父を利用してのし上がりたいのだろう。

でも親父と同じだけは、かなり時間のかかる修行になるだろう。一朝一夕で、親父の技量が手に入るわけがない。

女の人達がきゃあきゃあと言いながら、くじを引くさまを想像して、ついおかしくなって笑った私に、ハッサンさんはわずかに目を丸くしている。

あまり表情筋の変わらない人なのは、こっちでも変わらないってわけか。

そう思いながら私は、扉を開けて彼を招き入れた。


「どうぞ。たった今水を汲んだばかりなので、冷たい水でもてなせますよ」


「いいのだろうか」


「おかしな事言うんですね、私と話したくて来たのに、いざ私が招き入れると二の足を踏むんですか」


「……そういう対応をされた事が、恥ずかしながら過去一度もないのだ」


「私も誰か男性を紹介された事は過去一度もないので、どういう対応が正しいのかはまるで分ってません!」


胸を張って言い切ると、彼は何か納得した調子で、招き入れる私の後に続いて室内に入ったのだった。

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