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15 面影の災い


私の頭の中はかなり混乱していた。

まず前の人生では存在もしていなかった、元母親に息子がいるという事に。

そしてムージがエドガーだとか、リリー姫の孫だと言われている事に。

いや、物理で違うんじゃないのかと移動距離を計算して導き出した事に。

もしも彼らの発言が事実なら、何でそんな事になっているんだとか、そしてこの赤毛の男性は並べてみるとわかるんだが、明らかに女性と親子関係を感じさせる顔立ちだとか、そんな事が頭をぐるりと回ったものの、私はだからなんなのだ、と彼らを見つめた。

リリー姫であろう女性は、喪服の色あせていない真新しい黒に身を包み、いかにも悲しげな事があったと伺わせる。

でも、男性は喪服を着ていないから、一体何がなんだかわからない。孫が亡くなったリリー姫が喪服なら、父親は喪に服してんじゃないのか。どうなんだ。

そもそも青の国に、喪服の規定ってあったっけ。

たとえば、夫や妻の喪に服する時は何色を着て、何ヶ月そういった色を着続けるかとか。

意外かもしれないが、砂漠では結構そういった規定に似たものがあるのだ。

それは、家族や親戚との縁や、つながりの濃い価値観のためだろう。

喪服を着ている人に、ひどい事を言ってはいけないなんていうのも暗黙の了解だ。

そんな砂漠の事情には詳しくても、私は青の国の常識はわからない。

と言うのも、人生やり直す前は、身内が母親しかいないっていうか知らない状態で、さらにその母親は行方不明。喪服を着る可能性のある相手とは縁が全くなかったのだ。

実際にそういった場面にならなくちゃ、庶民は喪服の用意をしないから、私があの頃知らなかったのも道理といえるだろう。

それにお世話になっていた賃貸の大家さんである、おかみさんの関係で喪服の支度をするなんて場面も、あの頃はなかった。

ギルド関係では、死亡届が出されるたびに、受付嬢が喪服を着るなんてことはあり得なかったのだし。

そういった事をあれこれ考えて、彼らの主張が真実ならば、一体彼らとムージの関係はどういったもので、何で喪服を着ているリリー姫と、そうではない息子らしき人がいるのか、と疑問でいっぱいになっていた。

そんな大混乱な頭のせいで黙りこくった私の方を向いて、リリー姫はまじまじと私を上から下まで見つめて。


「そんな、まさか」


と、小さく言った。声はあり得ないものを見たように震えていて、そしてただならぬ憎しみが宿っている。

薄い灰色のヴェールをかぶって、明らかに正式な喪服の状態でありそうな彼女が私を何か確信した顔で見てから、ヴェール越しでもわかるほどすさまじい目つきで睨み、次の瞬間の事だった。

この時私は、ムージを両腕で抱き抱えて、これ以上この子が炎を出して怪我人その他を出さないように、あやしていた。

つまり両手はふさがっていた。

さらに、私はそれまで噴水の縁に座っていたものだから、後ろに下がったら噴水に背中からひっくり返る未来しかなかった。

そう、よける余裕がどこにもない状態で、リリー姫は懐から武器か何かのように、どう見ても特権階級しか持っていないだろう、豪華で細工のきれいな、そして金属で出来ていそうな扇を引き抜き、問答無用とか、いっさいの躊躇がないとか、そういった言葉がよく似合いそうな動きで、私の顔を思いっきり打ったのだ。

衝撃で視界が反転したほどの容赦のなさだった。

避けられなかった。受け身をとる事もムージがいて、両手がふさがっていてできなかった。

だから、私は、よろめいて、あぶないしまずいってわかっていたのに、背後の噴水に背中から落ちたのだ。

盛大に水しぶきがあがる。見ている人達は物見高い人が多く、突如普通の女にしか見えない私に話しかけてきた、あからさまな位に身分違いの男女の暴挙に、ざわめいていた。


「びゃああああああ!!」


水の中にひっくり返った私は、意地でもムージだけは守ろうと、変な体勢をとったんだろう。噴水の中であちこちを打ち付けて、かなり痛かった。

でもムージはびしょぬれになっただけで済んだみたいで、ただびっくりしたのか、わんわんと泣いている。

ああ良かった、ムージは無事だ。


「この、悪魔が!! 墓場からよみがえってもなお、私の幸せを奪うのね!!!」


ぐちょぬれになりながら、ひどい目にあった、何が何なんだと思いつつ起きあがると、リリー姫が変わらぬ睨みつける目つきで、私を見て大声を上げる。

墓場からよみがえるってなんなんだ。悪魔ってだいぶ失礼じゃないか。

さすがに何かの人違いか何かで、何もしていない私に対して、ずいぶんひどいんじゃないか。

そう思って言い返そうとした時の事だった。


「警邏!! この悪魔を捕らえてちょうだい! 孫の誘拐犯で、地獄からよみがえってきた化け物よ!!」


リリー姫が騒ぎを聞きつけて走ってきた、町を巡回していた警邏に、そういい放ったのだ。誰の事を言ってるんだと思っていると、彼女が指を指しているのはどうやら完全に私で。


「この女は、あの悪女カレンです!! 見間違えたりするものですか!!」


指さして叫んだ彼女の声を聞き、私は親父が前に、私を見ていった言葉を思い出した。

親父はあの時ああ言った。


「君は私の妻にそっくりだ」







そして、親父の妻は、たった一人。




ぬれぎぬを着せられたかわいそうな女性、カレンだ。

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