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あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!  作者: 家具付
短剣は導く

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10 見抜かれるもの

「お前がここに、知り合いを連れてくるのではなくて、当事者になるとはねえ。時間が経つのは早いものだよ。あの小生意気な目をした悪ガキが、子供一人作って、こうして名前を考えるためにやってくるんだから」


明くる日が旦那の非番という事で、私もお休みをとって、名無しの子供をつれて、ハッサンの知り合いだという命名師の所にやってきた。

命名師と言う職業は、占い師にとてもよく似ている設えの職場を、持っているのだろう。

何となく占い師を連想させる物にあふれた小さな小屋に、その人は座っていた。

頭から薄い灰色の羅に似た布をかぶっていて、全体的な印象しか分からないけれども、声の感じから受けた印象としては、それなりの年齢の女性なのだろう。

そして室内は、星を読むための道具、厄を払うと言われている香草の束、おまじないの紙が広げられていたり、そして何よりもたくさんの古びた本が詰みあがっている。

知らないで入ったら、占い師の家だと勘違いしてしまいそうな場所だった。

そこで一人座り、じゃらじゃらと細い竹の束をいじっていた老婦人が、ハッサンの顔を見てから、私と子供を見て、開口一番にそう言ったのだ。

漆黒の瞳が、ハッサンの方を面白がるように向いている。


「俺の子供ではない」


ハッサンが静かに否定する。確かに彼の子供ではない。


「……あんたも見ないうちに、ずいぶん様変わりしている。前まで生け贄の相が出ていたってのに、今じゃ王者の相が顔ににじんでいる」


しげしげとハッサンを見ていた彼女が、思いもしなかった事を言う。

以前からの知り合いだというのだから、そういった違いが目に見えて明らかだったんだろうか。

私に分かるのは、瞳の色の違いくらいなんだが。


「そう言う話をしにきたのではない。……陛下から面倒を見るようにと、直々に命じられた子供に、より良い名前を付けてほしいと思ってきた」


「なぁるほど。陛下のご命令か。……あんた、名付けの才能はからきしだったからねえ。ほとんどの事はどうにか出来るあんたにも、笑える弱点があるわけだ」


「子供に下手な名前など与えられないだろう。笑い物にされる名前など哀れだ」


薄暗がりの中で、ハッサンの瞳が不意に強く光る。底光りする高温の金色が、命名師の老婦人に向けられる。


「……今のあんたをからかうと、心臓が止まっちまいそうだね。さて、その子を見せてごらん」


「はい」


私は、今まで見た事もない不思議な空間だろう場所で、じっと大人しくしている子供を、彼女に近付けた。

老婦人は、目を丸く開いてじっとしている子供を見て、何かを見透かそうとしている。


「……この子、砂漠の生まれじゃないね」


「そう見えますか」


老婦人が静かにそんな事を呟いたから、私が反応してしまった。

彼女は私を見た後に、ハッサンの方をみる。


「あんた、気付いていて嫁に言わなかったね? あんたは誰がどこの生まれなのかを当てるのが、馬鹿みたいにうまい癖に」


少し非難している様な口振りだった。


「確証のない事をべらべらとは言えるか」


「……まあ事実だね。だがあんたの直感は合っているだろうよ。この子は砂漠から遙か遠い……そうだ、青青とした植物の生い茂る国の生まれだ」


この子が砂漠の生まれじゃない。それを聞いて、ある意味で私は納得した。

神殿で、この子の家族を捜してもらっていた時、彼等はこう太鼓判を押していたのだ。


この広大な砂漠に、縁者がいる限り、私達はこの子供の親戚縁者を見つけ出せないはずがない。


……と。つまり砂漠以外に親戚縁者がいるならば、見つけ出せない可能性もあるという事なのだ。

ただそれは考えもしなかった事だった。

わざわざ、砂漠まで、子供を捨てにくると言う手間をすると思えなかったからだ。

それも、王宮に近い居住区に、朝方門が開かれるのを待ってから入り込んで。そんな手間のかかる事をするくらいなら、肉食の魔物や獣がはびこる森とかに、子供を放置した方が目的を達成しやすいだろう。

捨てるならもっと簡単な方法が、山のようにあるわけだ。

それとも子供を生かしたくて? いやいや、この子が置き去りにされていた状況をふまえると、そうとも言えない。この子は何一つ持たされず、おむつだけで、うちの戸口の前に放って置かれていたんだから。

色々考えたくなる事はあった。

命名師の老婦人の言葉に、いっそう私は訳が分からなくなったのだけどっも、彼女は気を取り直したように息を吐き出し、子供をまた見つめて、言った。


「この子には、醜悪な運命を跳ね返すような、強い名前が必要だろうよ。今すぐは思いつかない。そうさね……三日後にまた来るように。ハッサン、あんたの子供だ。誰の子供よりも優先して考えてやろう」


彼女はそう言い、ぶつぶつと何かを唱えながら、古びた本をありったけひっくり返し初めて、それ以降全く私達を見る事をしなくなった。


「戻るぞ」


「いいの?」


「彼女が三日後というならば、三日後にはこの子供にとっての最良の名前が決まっている」


「わかった」


そう言って、私達は帰路に就いたのだった。

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