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あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!  作者: 家具付
それをひきずった

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9 それを言ってくれるなら

「……なるほど、そう言うわけか」


私はぽつぽつと、どうしてこんな風に未来が変わったのかを、出来るだけわかりやすいようにハッサンに話した。

もうハッサンさんと、他人行事に呼ばなくていいのだ。

でも一番多い呼びかけが、あなたになりそうな気配もする。

あの怒涛の一夜が明けて、私達は今親父がいるであろう自宅に向かっているのだ。


「まさか娘が秒速で結婚したとか、親父ひっくり返りそうだけど」


「お前の父親は話が分かる方か」


「分かる方。というか親父の方が、私があなたとそう言う仲になる事を喜びそうな気配さえする」


「……俺で。大した人だ」


ハッサンは何を考えているだろう。あいにく同じ人間ではないから全く分からない。

分からなくとも、この隣に居るだけで安心する、居心地の良さその他は、他の誰でも感じた事のない物であった。


「親父は、私に幸せになってほしいって、よく言う。まあ聞いた感じ、親父の人生と同じ道をたどったら、似たような事を思うか、自分の人生ってものを呪って恨んで生きていそう」


「何をどうしたらそうなる」


「奥さんが無実の罪で処刑されたらそうなる」


「……それは恐ろしい」


ハッサンはそう言って、自分の腕に引っ付いている私を見下ろす。

いつも通りの感情の読めない瞳で、それでいて瞳の中には変わらず、超高温の黄金が流れているような輝きが宿っている。

顔を見るたびに、この人はハッサンさんで旦那ではないと思わなくてはいけなかった私にとっては、心底、安心する瞳だ。

他の誰かにとっては怖い顔とか、近くに居たくないとか言われる人でも、私にとっては一番いい相手なのだ。


「……俺はますますお前に頭が上がらなくなった」


歩きながらハッサンが言う。

私はなんでそんなこと言うのか、わからなくて口を開く。


「どうして? あなたに頭が上がらないのは私でしょ、私の都合だけでこんなあっという間に結婚したんだから」


「お前がいなければ俺は、家族を失ったままだった」


「ああ……言ったでしょ、私の罪滅ぼしだって」


「お前は何も罪を犯していないだろう」


「犯したよ。私はあなたの家族を殺して生まれてきたような物だって言ったじゃない」


「この頑固者が」


ハッサンはこれだから、と言いたげな口調でそう言った後にこう続けた。


「お前の前の両親は確かに、俺にとっては仇になる相手だろう。親の罪までお前がかぶろうとしてどうする。私は無関係だとどうして言えない」


「……あなたにとって家族っていうものがものすごく大事だって、知ってるから」


「ならばお前もそのくくりの中にすでにいたのだとどうして気付かなかった」


「……うわあ」


私は思いもしなかった事だったから、何も言えなくなった。


「お前を見てどうして、憎く思う。お前はあの時俺にとって最も優先するべき愛しい妻だった。死んだ人間は蘇らない。そして俺はあの頃確かに、全ての事に納得して生きていた」


「……家族が皆殺しにされた事にも? 一人だけ大変な地獄を味わっている事も? ほとんどの人から怖がられている事も?」


「俺は自分の選択を悔やんだ事はあの頃、一度としてなかった。子供の頃は置いておいてな。やると決めた事だ」


ああ、この人の事をもっと信じておくべきだったのだな、と私はまた思い知らされた。

この人は自分の選んだ事に対しての責任ってものをとれる人で、背負っていたものに関しても、受け入れていて納得していて、かたき討ちとかそんな次元の事を思ったりしなかったのだろう。

それはこの人がとても強いからで、普通ならばかたき討ちとかいろいろ、考えただろうに。

何でこの人こんなに強いんだろう、と思って、少し腕の力を強めた時だ。

ハッサンが、当たり前の事を当たり前だという調子で、こんな風に言ったのだ。


「その納得し続けた結末に、お前を嫁にした事がある。あの頃俺は三国一の妻を手に入れたと思っていたのだぞ。お前は俺に言いたい事を言う。俺はお前に言いたい事を言う。お前はそれを貫いていればよかったのだ」


「だって、だって。あなたにとって家族がどれだけ大事なものか、わからない人生じゃなかった」


「まあ、俺は今の人生に感謝している。死んでいたはずの家族が全員生きていて、お前ともまた出会ったのだからな。お前にその選択肢を並べた竈神に、何か感謝を捧げなければならん」


「あなたは今の方がいい?」


「当たり前だろう。夢物語が全てかなったような人生だぞ」


「……じゃあ、私、あの時の事、もう後悔しないようにする。あなたを前よりも幸せに出来ているなら、それでいい事にする」


「そうしろ。あの頃選んだ選択肢を悩み続けて、苦しまれても俺はお前を救う言葉を知らん」


「あはははっ!」


真顔でそんな事を大真面目に言うものだから、私はなんだか笑いたくなって、いっそうハッサンにすり寄って、からからと笑い声をあげてしまったのだった。


そしていよいよ自宅の前で、ここに来るまでに何人もの通りすがりの人達を絶句させてきた状態の私達は、扉の前で顔を見合せた後に、一度腕を離して、扉を叩いた。


「ただいま親父。ちょっと知らせたい事があるんだけど」


扉の前でそう言うと、ばたばたという音を伴って、親父が扉をがばっと開いた。


「エーダ!! ああよかった!! 王宮の方というか、王様からも後宮の美女達からも話を聞いたんだ!! 王様がとんでもないやらかしをやった事を聞いた後に、後宮に逃げたって聞いたからすぐにそっちに行って……! そこで後宮の美女達が、皆エーダは自分の部屋に隠したっていうものだから、王様怒っちゃって……昨日の夜はとんでもない状態だったんだよ。君は結局後宮の中で見つからなかったから、王様かんかんで……でも女官長にお説教されてふてくされてて……君が無事で本当に良かった……」


包帯で顔半分を覆った親父が、おいおいと泣き出しそうな気配で言う。かたかたと壺の中の暗闇も何か言っている。


「え、あ、そう?! エーダ結婚したの!? 確かに女官長達から、王様のハレムに入らないためにエーダ結婚させるって聞いたけど!! 相手は誰なの!? 君を幸せにできるいい男じゃなかったら親父、認めないからな!」


「……実は親父……隠していた事があって……」


私は真顔でこう言った。


「実は大昔に結婚を誓った相手が、ハッサンさんだったんだ……」


親父は嘘を見抜く力が異様に高い。その親父に言い訳をする時に、下手な嘘は言えないというわけで、導き出したのがこの言い訳である。

事実遥か昔というか、前の人生で結婚して誓ったのはハッサンだし、微妙な言い回しでもなんとか誤魔化せるであろう。


「え、エーダ小さい頃にそんな初恋を経験してたのかい!? 私に連れられて、ろくに町に滞在してなかったから、別れの挨拶も何も言えないままだったんだな……」


何か親父の頭の中で作り上げられて出来上がっている様子である。このまま押し通そう。


「……あなたに知らせる事無く、性急に事を進めた事に対しての謝罪をしなければならないのだが」


そこでハッサンが静かに言う。親父はそこで初めて声のした方を向き、こう言った。


「……ハッサンさんの声なんだが……双子の別人とかではないだろう? いい言葉が見つからないんだが、違う人間のように感じられるんだが」


「猫被ってた」


私の言葉に親父が叫んだ。


「猫って次元じゃないと思うんだが!? 声も雰囲気もなんかこの前会った時と大違いなんだが!?」


「でもハッサンその人だから」


「そっかー……奥さん守るために目覚めたって奴か……私もそうなれればよかったんだが……。で。ハッサンさん、何か言う前にうちに入ってくださいな」


親父は何かを見抜いたらしいが、それが何かという確信は持てなかったらしい。

だがいい加減出入り口の前で騒ぐのもなんだと、私達を家の中に入れてくれた。




「で、女官長達から大体は聞いた。王様がご乱心でエーダの事をハレムに閉じ込めるって言ったってね。そこは王様からも証言が取れているよ。その場にいた文官達からもね。文官達はいかにしてその王様の決定を覆すかで、徹夜で話し合う事にしていると言っていた」


「事実なんだ、親父。なんだかわけのわからない事を言った後に、ハレムに入れて鍵かけて閉じ込めるって言われた。で、絶対に嫌だったから逃げてハレムの皆さんのお力を借りて、女官長がなら結婚して王様の手出しができないようにすればいい、って提案してくれたんだ」


私は親父の事実確認に対して、私でも理解できる部分を話した。

それからハッサンの方に目をやり、あなたもなんか言えと合図する。


「私の方は、すでにエーダとの結婚を考えていたので、陛下に奪われるくらいならばと婚礼を進めてしまった。……本来ならばもっと準備を進めて段階を踏んでと考えていたのだが」


「で、話し合いの結果、何とお互い大昔に結婚を誓い合った相手だって判明して、じゃあ何にも支障をきたさないというわけで、合意のもと結婚を進めたってわけ」


何も二人の間には問題がないのである、という調子で私達が言うと、親父が手を叩いて喜んだ。


「そっか、そっか……娘の幸せは私の幸せの一つだよ。君が納得できる相手と結婚できるならそれ以上の事はない。ハッサンさん、娘を大事にしてくれよ。うちの娘は強いけれど、だからって放っておいていいわけじゃないからね」


「放っておいたら死なれてしまうかもしれん」


「うわ、うちの娘の事よく分かってる。よかった……そういう気にしてくれる旦那様を手に入れてくれて……」


うんうんと頷いた親父は、かたかたかたと鳴っている壺を撫でて、こう言った。


「……なるほど。まあそれでも、私はこの二人の結婚を祝う側だよ暗闇」


そんなやり取りをしていた時である。扉が叩かれて、親父が何を感じ取ったのか、立ち上がり、私達を部屋の奥にやって、応対を始めた。


「こんにちは。近衛の方々がどうなさったのですか」


「こちらにあなたの娘のエーダ殿が帰ってきていないだろうか。陛下がお呼びなので」


「ハレムに入れる入れないであれば、父親の私の方からも、無理だと伝えたはずでしょう」


「しかし陛下はどうしても、エーダ殿に話したい事があると……」


「話したい事があっても。娘はもう結婚してしまいました! 反逆だのなんだのとおっしゃるのであれば、まずハレムの規定を破ろうとしたご自分を反省していただきたい!」


近衛の人達は私が結婚したという話を聞き、ざわりとどよめいた。


「おい、相手誰だ」


「あの子結婚したとか誰も知らないだろ!」


「おい、ハッサンなんで今日は非番なんだ」


「あいつ振られたのか!?」


「くっそあいつの大勝ち!?」


……どうやら私とハッサンのあれこれは、賭け事にされていたらしい。

それを聞いた親父が真顔でいう。


「娘は昨日、女官長立ち合いの元ハッサン殿と結婚いたしました! 私も認めておりますので形式的には何ら問題がございません!!」


「誰だハッサンと結婚するって方に金貨二十五枚かけた奴!!」


「あいつだろ!? くそあいつの大勝ち決定かよ!!」


「俺もそっちにかけてりゃよかった……!!」


なんだか近衛兵の皆様が大騒ぎしているのだが、親父はふんぞり返ってさっさと近衛の人達を追い出してしまおうとする。

そんな時だ。


「ですがアーダ殿。エーダ殿を連れてくるのが私達の仕事ですので」


困り果てたという声で言った一人の言葉を聞き、親父は室内を向いて言う。


「わかりました。もちろん私も同伴し、エーダを連れて行きましょう。王宮に入るには何事も準備が必要でしょう。あなた方は鐘が鳴る前に私達が来ると陛下にお伝えください」


「わかりました……」


近衛兵の人達は親父が一歩も譲らないという事を悟ったのか、色々話し合いながら去っていった。

それを確認し、親父が室内の方を向く。


「というわけだから、エーダ、準備して。ハッサンさんも出来る? もしもの時にエーダを守れる人間は多い方がいいからね」


「無論の事です」


「すぐ支度する」


そう言うわけで、私達は大急ぎで身支度を整えて、王宮の方に向かったのだった。

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