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あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!  作者: 家具付
それをひきずった

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7 その団結力には勝てるはずもない

月の部屋という所まで連れて行かれる最中、何も考えなかったわけじゃない。

それどころか、どうすればそこから逃げ出せるのかを、私はずっと考えていた。

月の部屋という所に、窓はあるだろうか。窓があればどうにかなる事も有りがちだ。

事実私は窓という所を利用して、そこから逃げ出すとか、外に出るとか、そんな事もしてきた人生なのだ。

そこがどれだけ高くても、逃げ出せる自信があった。こんなものに自信どうこうっていうのが、おかしいかもしれないのだが。

然しその前に。


「離してよ! 王様のハレムになんて入りたくない!! 私はハレムに入るために連れてこられた女の子達じゃないんだ!! 離せ!!」


私は人目もはばからずに大声で喚いた。兵士達もハレムに入りたくないと喚いて怒鳴って、じたばたと暴れる私に、何か思う所はある様子だった。

そして何よりも、私がハレムに入りたくないと、たくさんの人たちに知ってもらう事が大事だった。

王様は世間体とかそう言う物が大事になる職業である。

そしてハレムという所に、王様の子供を産むために連れて来られる女性というのものは、だいたいが奴隷として連れてこられた女の子達。それも処女でなければそう言った目的で入る事はない。

だから、すでに楽師アーダの娘の私が、ハレムに入れられるのは異例の事態の一つと言っていいのだ。

そして何事も、異例の事態というものを嫌う人が一定数いるわけで、その異例の事態になりたくないと当事者が必死に主張しているのを大勢の人に知ってもらうのは、私にとって有利に働く可能性が高い。


「離してよ! 私は王様のハレムなんて絶対に嫌! 家に帰らせてよ!」


「そんな事を言っても、陛下の命令なのだから」


「私達は陛下の命令には背けない」


「そんな事言ったって、言ったって! あんた達も知っているじゃない!! 私が紹介された男の人が、王様みたいなすごい身分の人じゃないって!!」


怪獣のように喚き散らしている私に、兵士達はいい加減うるさくなってきた様子だ。

そしてそれだけ嫌がっている女の子を、ハレムの月の部屋に連れて行く自分達の事も、ちょっと嫌になってきたふうだ。

そして通りすがりの人達が


「あの子は楽師殿の娘だろう、どうしてハレムに?」


「陛下のご乱心か?」


「あの子は聞いた話だと、近衛兵のハッサン殿を紹介されて、しょっちゅう二人で出かけているという話じゃないか」


「可哀想に……陛下もどうして、そんな女の子を今更?」


という事を言っていて、その声が多いものだから、兵士達の手が緩んだ。

いまだ。

私は兵士達の手を振り切って、ばっと駆け出した。身の軽さと足の速さは、親父に鍛えられまくった人生を歩んでいるので、早々追い付かれやしないのだ。


「あ、こら!!」


「どこに逃げようというのだ!!」


「絶対に嫌なものは嫌!! ハレムの月の部屋に入れるならもっと可愛くて素敵でお淑やかで丁寧な物言いをする、本物のお姫様連れて来い!!」


絶叫しながら走る私。なんだなんだといろんな人達が私の方を見て、追いかけているのに追いつけない兵士達を見て、怪訝な顔をしている。

その中を私はとにかく走り、そうだ、ハレムだ! ハレムの女の人達を味方につけよう! と天啓のように思いついた。

彼女達は王様の寵愛が欲しいわけで、月の部屋の女性は何か特別っぽいので、そこに入れられる女の子に対してはいい感情を抱かないだろう。

ここで情報操作だ。

私の頭は猛回転して、ハレムの女の人達にどう訴えるかを考えだす。

……このネタで行こう!! 必死に喚けば私が嫌だっていう事実だけは理解してもらえるし、何か力になってもらえる可能性が高い!!

そう思って私は、ハレムを目指し、そしてお昼寝が終った女性達が、各々おしゃべりに興じたり、自分磨きに専念しているその場に飛び込み、大声で叫んだのだ。


「皆様助けて!! 本当に助けてください!! 陛下のご乱心です!!」


私がハレムのそこに駆け込み、走り過ぎて息を切らせながら、助けて!! 陛下のご乱心!! と叫ぶと、そこにいた誰もが一体何を言い出すのだという顔をしている。


「どうしたの?」


話しかけてきたのは綺麗な女の人で、私はその人に縋って、大声で訴えた。


「陛下のご乱心です!! 何故かわからないんですが、私のようなものを、ハレムの月の部屋という所に鍵をかけて閉じ込めるとおっしゃっているんです!! お願いです、誰か助けてください!!」


皆興味津々で私の言葉を聞いていたのだが、月の部屋という単語を聞くや否や、雰囲気ががらりと変わった。


「月の部屋?」


「他国の王族の姫君を妻にする時だけ使う場所じゃない」


「こんな、楽師の娘をどうして?」


「陛下もどうなさったの?」


「だいたいその子、私達の目の前で、近衛のハッサンを紹介されていたじゃない」


ちらほらとそんな声が上がり、そして彼女達のざわめきを制したのは、ちょうどそこにいた女官長だった。

彼女は厳しい顔をして、女の人に縋って必死に助けを求めている私を見て、上から下まで見て、こう言った。


「今のお話は本当ですか?」


「本当です!! 私兵士の方々に引きずられて、連れて行かれる途中で、必死に振り切って逃げてきたんです!!」


「ハレムにあなたのような身分の女性を入れる事は、あってはならない事です。私からも陛下に申し上げましょう。……あなたは本当に、陛下の寵を受けるつもりはないのですね?」


「ないです!! 絶対に嫌です!!!! 私は平凡な生活がしたいんです!! こんなにも綺麗で教養があって、何もかも私とは大違いの方々こそ、陛下の寵を受けるべきだと思ってます!!」


私はとにかく、ここで、ハレムの女性達と自分では、比べる事もおこがましいほど、女性たちの方が上であると主張した。

事実である。私は顔こそまあまあみられる綺麗さかもしれないが、自分を磨き上げて高めている女性と比べたら月とすっぽん、あまりにも底辺である。

それをきちんと理解しております、だから助けて、と女官長の方を見つめて半泣きのような状態で訴えると、彼女は数秒黙った後にこう言った。


「あなた、すぐに結婚なさい」


「は……?」


予想していなかった言葉を女官長がいい、私が目をむくと、そうだそうだとハレムの女性達は同意した。


「そうよ!! それがいいわ!!」


「時間なら皆で稼いであげるわ!!」


「あなたちゃんと身の丈をわかっているもの! そんなちゃんとした女の子の味方位お安い御用だわ!」


「それに月の部屋に入れられる子がいるなんて、大問題だもの!」


女性達がそれで、いかに時間を稼ぐかを話し合い始め、派閥関係なしに意見が飛び交う。

あんなに火花を散らして争っていた女性たちなのに、この団結力って何、と呆気にとられた私に、女官長がこの提案の説明をしてくれる。


「ハレムに入れられる女性は、処女でなければなりません。そして一度も結婚した事のない女性でなければなりません。何より、ハレムの秩序を乱す事は、たとえ陛下であっても私達は許しません。あなたはハレムの秩序を乱す事を絶対にしたくない、と訴えて来る、ものの分かっている女の子ですので、この提案をしております。……ハレムの皆で、陛下があなたのもとを訪ねるまでの時間を稼ぎます。その間にあなた、速やかに結婚してしまいなさい。……ハレムのすべての女性が祝福する結婚を、いくら陛下でも覆す事は出来ません」


「でも相手が」


「あなた、ハッサンがいるではありませんか。あの男に、陛下が変な事を言ってくる、助けてほしい、だから結婚してとあなたが訴えれば、ハッサンは嫌とは言わないでしょう。あの男はハレムの秩序の事もわかっている男です」


「……」


それではハッサンさんを利用しているじゃないか。不誠実じゃないか。

私は、あの人だけを思っているのに。

そんな事をぐるぐると考えている間にも、女性達が使用人の女性に声をかけ始めている。


「ハッサンの居場所を確認して」


「あなた、衣装を交換して、かつらをかぶって走り回って」


「私達は自分の部屋にエーダさんを隠しているというふりをします」


「大勢が、エーダさんを隠していると言えば、それを全部確かめる時間で、かなり時間を稼げます」


「絶対にエーダさんがハッサンと結婚するまで、時間を稼ぐわよ皆様!!」


「ええ!!」


使用人の女性達も乗り気になり、私の衣装に似たものに着替えて、私の髪の色に似た茶色のかつらをかぶる人、髪型を真似する人、と何人もの私っぽい見た目の女性が出来上がっていく。

ここに逃げられて本当に良かった、と私は涙が出そうになり、そして、私は使用人の女性の一人が、衣装を貸してくれるというのですぐに、使用人の衣装に着替えた。

私の着ていた物は、他の女性と交換だ。


「行くわよ皆さん。打ち合わせ通りあなたはこっち、わたしはあっち、あなたはそっち」


「これだけエーダさん風の子がいて、果たして兵士達は全員違うって気付くかしらね」


「無理よ、エーダさんの顔を正確に覚えていられるわけないもの」


そう言いながら、使用人の、ハレムから出られる身分の女性達が外に出ていく。

そしてハッサンさんがどこにいるのかを確認している間、私は女官長がハレムで使っている部屋の中に匿ってもらったのだった。

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