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「あーあ、ざんねんだなあ……」

「どうしたの隆二、そんなにしょぼくれた顔して」

「今朝の天気予報見たらさあ、タイフーンマユコ、途中で消えちまったんだよ」

「まあ!まだそんなこといってるの!まったく!」

 真由子がバッグを振り上げると隆二は「ひえー」と言ってわざとらしく逃げる素振りをした。圭介がそれを見て笑う。

「そういえば、今日北村がさ、校長室に呼び出された話、知ってるか?」

「あー、体育の授業中に空き教室に忍びこんで生徒の荷物からゲームを盗んだとかだっけ?ばかだよねー、ねー奈津」

真由子に呼びかけられて、僕は「ああ、そうだね」とテキトーな返事をした。しかし、真由子が何を話していたのか全く分からない。困ったことにボーッとしていて何も聞いていなかったのだ。

「どうしたの?」

「いや、どうもしないけど」

「最近の奈津、変よ。何を話しても上の空で。ねえ、もうあの子と関わるの、やめときなさいよ」

「真由子」

圭介が止めようとするのを振り切り、真由子はつづけた。

「あの子って?」

「仲村汐海さん」

「なんで」

そう言って僕は、自分の素っ気ない返し方がなんとなく汐海っぽいなと思ってしまい、少し可笑しくなった。

「あの子、いい噂聞かないよ」

「噂?」

「入学して初めのうちはかわいい子がいるって評判だったのよ、でも……」

そういえば、入学した当初、他クラスに芸能人顔負けのすごくかわいい子がいるという噂を耳にしたことがある。どうして今まで忘れていたのだろう。

「その、援交……しているとか、学校サボってガラの悪い人たちとつるんでるとか」

「そんなの、僕は聞いたことないけど」

「知らないの奈津だけよ、みんなも、先生たちも知ってる。学校には来てないのに、夜中に制服でいるのを見かけたって友達が何人もいるんだから、嘘じゃないわ。それにあの子ほとんど学校こなかったのに、最近急に来るようになってみんな生意気だって……」

「そりゃあ、真由子の勘違いだよ」

僕は少しムカついて、そう冷たく言い放った。

「なにそれ、あたしは奈津のために言っているのに!もう奈津なんて知らない!」

真由子はそう言い捨てると、ずんずんと早足で先に帰っていった。

「奈津」

「圭介、ごめん、雰囲気悪くして」

「いや、いいよ。僕は周りの噂なんか気にすることはないと思うよ」

「ありがとな」

 圭介は、良くも悪くも敵を作らない性格をしている。考えもなしに誰かを否定する言葉なんて、滅多に使わない。

圭介のどっちつかずの態度もこういう時には心強かった。

僕にとって、人の噂ほど当てにならないものはなかった。義伯母さんたちと一緒に暮らす中で、噂を吹聴される側の迷惑を、痛いほど身に染みてわかっていたからだ。

「でさでさ、もう、したの?」

「したって?」

「だからさ、仲村汐海とヤッたのかって」

「な、何を言い出すかと思えば……」

僕は苦笑しながらそう言った。

「だってさだってさ、あの子めっっっちゃ可愛いじゃん!付き合ってるってことはさ、つまりはあの子と……」

「馬鹿なこというなって、付き合ってなんかないよ。僕が勝手に付きまとってるだけだ」

僕があきれたようにそういうと、圭介も「なあんだ」と言わんばかりにつまらなそうな顔をした。

「そういえば奈津、知ってるか」

「なにを?」

 隆二がなれなれしく肩を組んで耳元でささやく。

「ここだけの話、女の子の二の腕とおっぱいって同じやわらかさらしいぜ」

「え、そうなの」

「うん、そうらしい。ちゃんとネットで確認したからな」

「そうなんだ」

 

僕は、自分の左手をじっと見つめた。

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