思い出
僕は一歩、また一歩と、道を踏みしめながら進んだ。放課後に汐海と二人で、何度も歩いた道。今はもう、秋の紅葉もなく、寂しげな枝葉だけになってしまったけれど、目をつぶれば、いつだってあの頃の光景が瞼の裏に描き出される。彼女の綺麗な声、笑顔、仕草、思い出すだけで胸が暖かく、そして、とても切なくなる。彼女をからかって、彼女の顔が赤くなって、彼女に冷たくされて僕が落ち込むと、彼女が笑って……僕は、今でも、二度と帰ってはこないあの日々を夢見ている。
「ねえ、君は、僕の隣で、何を考え、何を思っていたのかな」
僕は空を見上げて、ふと呟いてみた。涼しい風が、僕をほんのりさびしい気持ちにさせる。
去年のこの日、ちょうど今の時間くらいだったかな
その日も、今日みたいに肌寒くて
僕は、君に会えることが楽しみで仕方なかった
好きだよ
そういうと君の手が、一時止まったのをおぼえている
つらいおもいさせてごめんね
二度とはもどらない思い出だけれど
君と楽しく過ごせていたあの頃を思い出すと、今でも胸が暖かくなる
名前を呼んでくれてありがとう
笑顔をみせてくれて、ありがとう
出会ってくれて……ありがとう
汐海……君と過ごせたのは本当に短い間だったけれど、色々なことがあったね。君は、僕を嫌いになったのかもしれない、たとえこの命を終えても、僕は君のいる天国へはいけないだろう。でも、僕は、たとえどんなに苦しくても、すべてを背負って生きる道を選ぶよ。いつまでも僕は、二度と会えぬ君のことをずっと、ずっと……。
「――ゴ メ ン ナ サ イ」
突如、背後から聞き覚えのある女性の声がした。
――背中が、熱くなってゆく。
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサ……」
誰かが、僕の背中から何かを引き抜く感覚がする。
――カランと金属音が聞こえた。
道路の真ん中に仰向けに倒れこむと、悲壮な表情をした、四、五十代の女性と目が合った。その姿には見覚えがあった……隆二の、母親だ。隆二の母親は、倒れている僕を見下ろすと、そのまま怯えたように振り返って、走り去っていった。
――もう夕方だというのに、空一面に張った白銀の雲は、美しく輝いていた。




