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説得

裁判が終わると、私と圭介は、奈津との面会がゆるされた。刑務官に促され、正方形の狭い部屋に入っていく。その部屋はアクリル板で真っ二つに分けられていて、アクリル板の向こう側では、私たちの幼なじみである、高橋奈津が待っていた。拘置所ではほとんど食事を摂っていないようで、分厚いアクリル板の向こう側にいる奈津は、数か月前とは見違えるほどにやつれていた。そのあまりの変貌ぶりに、まるで別人と会っている気がして、私と圭介は、なんと声をかければいいのかわからなかった。

「ねえどうして、どうしてあんなことしたの」

 聞いてはいけないと思った。でも、聞かずにはいられなかった。

「ごめん」

 すると、奈津はうつむいたまま、低く、小さな声でそう言った。

「私、知ってるんだから。仲村さんを殺したのは、奈津じゃないってこと。本当の犯人は、隆二だってこと」

隆二の名前を出したことに圭介は動揺を示したが、私はもう気持ちを抑えられなかった。

「なんで、なんで奈津がやらなきゃいけなかったの。あんなことしたって、仲村さんはもうもどってこないじゃない」

 奈津は何も話さなかったが、少し、奥歯を噛みしめたように見えた。

「ねえ、今からでもみんなにはなそ?仲村さんを殺したのは僕じゃないって。ね?みんな、心配してるんだよ?奈津が帰ってくるの、待ってるんだよ?このままじゃ奈津、みんなに嫌われたままになっちゃうよ……」

 私が涙声ながらそう言うと、奈津は、申し訳なさそうに小さく首を振った。

「隆二が憎いなら!隆二の罪を告白すればいいじゃない!あなたがただの悪人で終わることなんてないじゃない!」

奈津は、うつむいたまま何も言わなかった。

「嫌なの!私、奈津が誤解されたままなんて嫌なのよぉ!」

私は、目の前のアクリル板を叩いてむせび泣くように言った。

「誤解じゃないさ、汐海は……僕が殺した。僕がこの手で殺したんだよ」

「うそ……うそよ……奈津がそんなことするはずない」

「僕が、汐海に惚れなければ、好きだといわなければ、汐海は傷つかなくてすんだんだ。今だって、生きていられたんだ。汐海を死に追いやった僕が、なんで生きていられる。汐海のいないこの世界で、僕はどうやって生きていけばいい」

 そう話す奈津の表情は、とても悲しく、そして、何より落ち着いていた。彼は、一時の感情に任せているわけでも、自暴自棄になっているわけでもない。本当に、死ぬことを受け入れているんだ。

それから面会時間が終わるまで、私たちが何を話しても、奈津の意思は揺らがなかった。

 私は、拘置所を出ると、たまらず圭介に泣きついた。

「ねえ圭介、奈津が、奈津が……!」

私は嗚咽をこらえながら一生懸命、何かを言おうとした。

「なんとかなるわよね、きっと助かるわよね」

圭介は、うつむいたまま首を横に振った。

「奈津に会って分ったろ……?奈津の最後の望みなんだ。叶えてやろう」

「嫌よ、奈津が死ぬなんてあたしは絶対に嫌!」

「もういい……もういいんだ。あいつにはもう、僕たちの声は届かない」

「いいわけないじゃない!圭介、なんとかしてよ、ねえ!」

 私が圭介に掴みかかると、圭介は真っ直ぐに私を見て言った。

「それが、奈津の望みなんだ。僕たちにはもう、何もできない」

圭介の全てを諦めたようなその眼差しに、私は何も言えなくなってしまった。

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