最後のひとり
切れかかった街灯がチカチカと点滅を繰り返している。私は、病院に向かって、夜道を走っていた。
「……とめなきゃ、奈津をとめなきゃ!」
仲村さんを、レイプしたのは隆二だ。そして、奈津はその復讐に、仲村さんをレイプした人間を殺してまわっている。殺された他の少年たちとつるんでいたのは、奈津じゃなくて、隆二だった。だから、奈津はその少年たちを殺した。そして、今、隆二を殺そうとしている。
すると、前方にうっすらと人影が見えた。それは、ふらふらとよろめきながら、こちらに向かっている。
「……なつ?」
その人影は、紛れもなく奈津だった。放心状態の奈津が、よろめきながら私の存在にすら気づかず、こちらに向かってくる。
その手に持ったナイフを見た瞬間、私は、何があったのかを、そして、もう、すべて手遅れであることを悟った。
「……そんな……うそよ」
私は、溢れる涙を塞き止めることなどできず、その場でへたり込み、ただ、おえおえと声を上げて、泣き崩れることしかできなかった。
「動くな!」
突然、大きな声がしたかと思うと、何人もの警官がドタドタと足音を立てて、私を追い越していった。道の両端から、けたたましいサイレンの音と共に、多くの警官がなだれこんでくる。私は、尾行されていたのだ。
奈津は、圧しかかる警官たちに無抵抗なまま組み伏せられていた。力なく警官に組み伏せられる奈津の瞳は、ぼんやりとしていて、もう、何も見てはいないようだった。
赤い光に照らされながら、奈津が引きずられていく。そのさびしい背中に、私は子供のようにひたすら声を上げて泣きじゃくっていた。もう二度と、あの頃のようにみんなで笑うことも、一緒に帰ることもできない。そう思うと、涙が止まらなかった。
パトカーに連れ込まれる瞬間、奈津の口が、かすかに動いた気がした。私は、ゆっくりとその口の動きを真似してみる。すると、ひとつの言葉が浮かび上がってきた。
――あと、ひとり。




