確かな意思
「そうか……取り逃がしたか」
「はい、残念ながら」
「仕方ないさ……そもそも高橋が出没する確証があったわけじゃない。入院中の齋藤が自分を頼るだろうという憶測を我々に進言してきたが、あくまで憶測に過ぎなかった。人数は割けなかったさ」
「齋藤は……なぜ我々に情報を漏らしたのでしょうか。一番の親友という話じゃないですか」
「親友だからさ。だから、高橋にこれ以上罪を犯してほしくはないんだ。そしてきちんと償わせようとしている……殊勝な少年だよ」
「彼もまた……堕ちていく友人を見て苦しんでいるのでしょうな。心を病み、入院を余儀なくされるほどに……」
「家族が犯罪者になると、時に心を病む者が現れる。中でも、母親などはそうなる傾向が強いが……」
「齋藤にとって、高橋は家族も同然だったということですね」
神谷はさびしそうにそう漏らした。
「それにしても高橋はすごいですね。普通の高校生だというのに訓練された警官に取り押さえられても回避し、追跡すら巻いている」
「だれも、あいつを理解できないからさ。ただの犯罪者を追うことの方がずっとわかりやすい。犯人の目的が逃亡なら、その最善策を予測して動けばいい。だが、高橋はおそらく、逃亡することが目的じゃあない」
「逃亡することのほかに、何か目的があるっていうんですか」
「高橋の行動には、自分を守ろうとする素振りが見られない。橋から飛び降りたのも、警官の肉を食いちぎってガラスに突っ込んだのも、まるで、自分の身体がどんなに傷ついたってかまわない、という風にな。保身を考える容疑者を追う警察にとっちゃ、不可解で理解できないものばかりだ」
「……狂ってますね」
神谷は深刻な面持ちで言った。
「狂ってる、か……そうかもしれないな」
しかしそれは……高橋には狂うほどの何かがあったということだ。
「高橋を追っている間、一瞬だが、ヤツと目が合った。俺も、もう二十年以上刑事をしているが、あの眼は捕まるのを恐れて逃げ回っている人間の眼じゃない……ヤツの眼には確かな意志がある」
「どういうことですか……?」
「……高橋はまた、誰かを殺すかもしれない」




