違和感
鶴見川からは、いまだに高橋の死体は引き上げられていなかった。遺体の捜索は捜索班と鑑識に任せ、我々は、高橋が生きている可能性があると仮定し、捜査を継続している。
現在、菊池の祖母から事情聴取を取ってはいるが、高橋を探す手がかりとなる情報は、何も掴めそうにはなかった。
「ワタルちゃんは、本当に良い子なのよ!小学生の時なんか、将来僕が大きくなったらおばあちゃんにおいしいものたくさん食べさせてあげるねって……そんなあの子が人殺しなんてするわけないじゃないの!!逆恨みに決まっているわ!そうだわ、きっとワタルちゃんはあいつが犯人だって皆に知らせようとしたのよ……ワタルちゃんは良いことをしようとしたのよ、褒めてあげなきゃ……そうだ、今日はあの子の好きなナポリタンをつくりましょう、あの子の喜ぶ顔が目に浮かぶわ……ウフフフフ」
――死体の状態は、凄惨そのものであった。胸より上はそれこそグチャグチャになるまで肉片が飛び散っていて、頭がい骨が半分剥き出しになっていた。腹部より下が形を成していなければコレが人であったということにすら疑問を抱くほどだ。眼球は瞼ごとえぐり出され、唇も耳も鼻も削ぎ落とされ、顔面から胸にかけ何十もの刺し傷があった。頬肉は裂け、顎はかろうじて肉と皮に支えられていた。これを行った者は、いったいどれほどの怨恨があったのだろうか。
事情聴取が終わると、書類を抱えた神谷が深刻な表情で歩み寄ってきた。
「長谷部さんの予想通り、菊池ワタルの携帯電話は見つかりませんでした。菊池ワタルは、本人が四歳の頃に両親が離婚しており、その後、母方の祖母と二人で生活していたようです。また、部屋からは薬物と思わしき錠剤や、タバコの吸い殻、ビールの空き缶などが見つかっています。そして、菊池には万引き、窃盗、暴行と計4件の逮捕歴があります」
「どれも、今回の事件の手掛かりにはなりそうもないな……」
「そして殺された菊池ワタルの遺体の毛髪からは先に殺害された三人と同様に、薬物の常用接種も確認されています」
「危険ドラッグ……か」
「ええ、黒幕が反社会的勢力である可能性はないでしょうか」
「それはないな。組織にしてはやり方が稚拙すぎる。証拠の隠滅すら間に合ってはいない。犯人は、高橋で間違いないだろう」
そう……間違いないはずだ。高橋が犯人であると、確信していた。にも関わらず、そう考えれば考えるほど、私の中の違和感は大きくなっていった。




