再会
「おーい!」
僕は、彼女の一〇メートルほど手前から声をかけた。自分を呼ぶ声に気がつくと、彼女は振り返ろうとしたが、その時にはもう、僕は彼女の隣まで追いついていた。
「また会ったね」
僕が明るい口調で話しかけると、彼女はかすかにうなずいて、視線を合わせないまま、ゆっくりと歩きつづけた。
「昨日はありがとう、おかげで助かったよ」
彼女は小さく会釈をする。
僕は首元の校章入りピンバッチが、自分のものと同じであることを確認すると、(昨日のように気まずい雰囲気にしたくなかったので)できるかぎり軽い調子でたずねた。
「同じ高校だったんだ、あの時言ってくれればよかったのに。何組?僕は、E組だよ」
「……B」
少し間をおいて、彼女はその小さな、やわらかい声で答えた。
昨日は部活着を羽織っていたから、僕が同じ学校だと気づかなかったのだろうか。それにしても不思議な話で、こんなにも可愛い子が同じ学年にいるなら、女子はともかく、男子の間では少なからず噂になっているはずだ。けれど、そんな話は一切耳にした覚えがなかった。
「Bなんだ!じゃあさじゃあさ、吉田亮太知ってる?あのお調子者!」
彼女はかすかに首を横に振る。
他の学年ですら有名なあの名三枚目役を知らないなんて……まあ、高校生にもなれば、一部の女子は知らなくても不思議ではないのかもしれない。
「部活はしてる?僕は、サッカー部なんだ」
「してない」
「じゃ、じゃあ好きな番組は?」
気まずい空気にならないように、僕は質問を続けた。
「ない、あんまりテレビみないし」
「そか、そうだよね。みんながみんな、毎日テレビみてるわけじゃないもんな……」
「じゃあ、わたしの家こっちだから」
僕の、あぁ~という心の声は届かず、彼女はスタスタと歩いていってしまった。背筋がスッと伸びたその後姿は、どことなく品を感じさせる。きっと両親に厳しく育てられたのだろう。
僕は小さく鼻で溜め息をつくと、振り返ってトボトボと足を進めた。しかし、歩きはじめてすぐ、僕はあることに気がついて足を止めた。
「あー、ストラップ、返し忘れた……」
振り返ったときにはもう、彼女の姿は見えなくなっていた。
でも、少しラッキーだとも思ったんだ。なんでかって?また、あの子に話しかける理由ができたじゃないか!