生存
水面に激突する瞬間、全身の骨が砕け散るような衝撃が走った。
荒波は容赦なく僕の自由を奪い、僕の身体を深々と呑み込んでいった。この橋での自殺者の数は、毎年両の手では数えきれないほどだった。僕はそれを知っていたけれど、かまわず飛び込んだ。どこか、もう死んでもいいと思っていたんだ。
激流に呑まれながら、もがくこともせず考えていた。視界がゆっくり動いている。死ぬことは怖くなかった。生きている方がつらかった。やっと、終わるのかと、ただそう思うだけだった。それに、このまま眠ってしまえば、そんなに苦しまずに死ねるだろう。たった十八年の人生だったけれど、たくさんの思い出があった。僕は、今まで出会った一人一人の顔を思い浮かべた。みんな、笑っていた。父さん、母さん、エルと笑って過ごした日々。真由子と隆二と、いたずらして、三人揃って隆二のお母さんに怒られた思い出。圭介や美玖たちと出会って、毎日が楽しくって、そして…………汐海に出会った。
僕は汐海に出会い、恋をした。あんな気持ち、はじめてだった。はじめて、心の底から人を愛した。でも、僕は不器用で、彼女にそれをうまく伝えることができなかった。あの子は、心の中でずっと……ずっと助けを呼んでいた。ひとりぼっちでも、どんなに苦しくても、いつも平気なふりして笑顔をみせて、本当はずっと心の中で泣いていたんだ。
それなのに……僕は……彼女を守れなかった。
――不意に、胸が煮えたぎる溶岩のように熱くなった。
そうだ……僕は、汐海を守れなかった!汐海は、彼女はずっと助けを呼んでいたのに、僕は、それを知っていたはずなのに……どうして僕は、彼女に手を差し伸べてやらなかったんだ!僕が……彼女を切り捨てた……その僕が、逃げていいはずがないだろう!どんなに後悔しても、泣き叫んで、懺悔しても、僕は決して、僕を赦さない……五体をバラバラに引き裂かれ、首一つになろうとも、復讐を果たすその時までは、死に逃げることすら赦しはしない!
僕は水流を利用して、一気に川底まで潜り込んだ。波の力というのは水面が最も強く、水深が深くなるほど弱くなる。底まで辿り着くと泥や砂利を足掛かりに壁面まで這うようにして進んだ。水の冷たさが幸いして、僕は頭に無駄な酸素を使わずにすんだ。
水面に上がると大きく息を吐く。水上に突き出た堤防に隠されて、僕の姿は上からは見えないはずだ。僕は無我夢中になって泳ぎつづけた。
――意識がはっきりした時には、僕の指先は堤防の端を捉えていた。ただ指先が引っ掛かっているだけだというのに、もう、何があっても流される気がしなかった。




