偶像
僕は、夜道を歩いていた。下水の流れる音が鳴り響くほど、静かな通りだった。僕は歩きながら、昔を思いだす。みんなは、今、僕のことをどう思っているだろうか。昔から、周囲は僕に対して偶像を抱いているように感じていた。
僕は誠実でもなければ、善人なわけでもない。大切な人さえ笑顔なら、元気でいてくれるなら、見ず知らずの誰かのことを思ったことなんてなかった。ただ、汐海に元気でいてほしかった、汐海さえ、笑顔でいてくれればよかった。
両親を失ってから、僕に怒ることは許されていなかった。訴えかける相手がいなかったんだ。そうしているうちに、いつ間にか、怒る方法を忘れてしまっていた。だから僕は笑った。それが、自分を守る唯一の方法だった。
僕の心は、いつも、人への憎しみであふれていた。両親を殺した男を怨んだ。その家族を呪った。そんな自分が嫌いだった。
でも、僕は汐海に出会った。彼女の清らかさは、僕には眩しすぎた。彼女を想うほど、心の汚れが洗い流されるようだった。いつの間にか、僕は彼女のことを好きになっていた。いとおしくて、何に代えても守りたかった。
でも、僕が彼女に近づけば近づくほど、彼女は不幸になっていった。そして最後には……
僕がこの手で彼女を殺した。




