一時の悪夢
「おまえだろ、奈津を嵌めやがったのは!」
川に架かった高架の下で隆二が勢いよく天馬の喉首に掴みかかる。コンクリートの壁に天馬の後頭部がぶつかる鈍い音がした。
「ち、ちがうよう、オレは何も知らない、たしかに奈津や仲村に嫌がらせはしたけど、ほんとに、ほんとにそれだけなんだ」
天馬は息苦しそうに怯えた目で隆二に訴えた。その鼻からは、血が滴っている。
「まだ口を割らねえか!」
隆二は、さらにきつく首を締め上げた。
「ほんとに知らないんだ。ゆるして、おねがい!ゲホッゲホッ、そうだ、ほ、ほらこれ、お金、あげるから……」
そういうと天馬はポケットからむき出しのまま、クシャクシャになった二千円を取り出した。
「てめえ……!」
そういって隆二は天馬の顔面を突き飛ばすように強く打った。天馬は這いつくばったまま、震えた手でさらにお金をその手に取りだした。
「た、足りないならもっとあげるよ、い、いくらがいい?ママにもお願いしてもっと持ってくるから……もう……ゆるしてよ……」
隆二がもう一度手を振り上げると、「隆二」と圭介が手で遮った。
「天馬、ほんとに知らないならそれでいい……だけど忘れるな。今回の事件、もし犯人が奈津ではないのなら、奈津は真犯人を決して赦さないだろう。どこまで逃げても追い詰められて……きっと殺される」
圭介の剣幕に、美玖も私も、隆二でさえ息をのんだ。
昨日までは、これは一時の悪夢で、いつかまた昔のようにみんなで笑いあえる日が来ると思っていた。でもこのとき、そんな考えすら覆い隠してしまうほど大きな不安が、私の胸の中に淀めいていた。
もう、隆二がおどけて、私が怒って、奈津が笑って、圭介がたしなめて……楽しかったあの頃には戻れない。
なんだか、そんな気がした。




