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十月一八日、木曜日

十月一八日、木曜日。

この日は、秋にしては肌寒くて、放課後になるともう外は暗くなりかけていた。

「こうやって一緒に帰るの懐かしいね」

「そうだな、中学生のとき以来か、でも急に一緒に遊ぼうなんてどうしたんだよ」

「たまにはね」

そういって金井は歯をむきだしにして、無骨な笑顔で笑った。骨ばった体つきと、不健康そうな青白い肌は昔と変わっていない。

「そういえば、かずこさん元気にしてる?」

「うん、げんきだよー」

かずこさんとは、金井の六つ年上の姉のことだ。金井は高校生にしては珍しく独り暮らしをしていて、僕と同じく両親がいないためかずこさんから仕送りを受けて生活していた(どうして両親がいないのかは聞いたことがないが、かずこさんが短大を卒業するまではおじさんの家で暮らしていたらしい)。金井のアパートは高校に近いということもありしばしば同級生の溜まり場になっているらしく、僕も高校生になったばかりの頃は、金井の家に何度かお邪魔したことがある。

僕たちは、青石川沿いの歩道を並んで歩いていた。青石川といっても普段高校からの下校時に通っている道よりも、ここはずっと下流の方で、柵はなく、大きく広がった川と川を挟む緩やかな斜面を雑草が生い茂っているだけだ。昼間は清流のさざめきの聞こえるのどかな景色ではあるけれど、夜には明かりひとつなく、とても不気味な場所へと姿を変える。

空を見上げるともうすっかり暗くなっているというのに、どんよりと空を覆う雲のおかげで、星ひとつ見えなかった。ただビュウビュウと吹き抜ける風の音と、風を受けてサラサラと雑草がこすれ合う音ばかりがあたりを包んでいた。

風の音を聞いていると、ふと、誰かの声のようなものが聞こえた気がした。僕は思わず振り返って金井にたずねる。

「ん……?いま、何か聞こえなかった?」

「いや、なにも聞こえなかったけど、気のせいじゃない?」

「ふーん、そっかなあ」

「そうだ、久々に一緒に帰るんだし、ゲーセンでも行こうよ」

「お、いいね。だけど、天気予報見たろ。今夜タイフーンマユコがくるから、あまり長い時間はあそべないよ」

「タイフーンマユコ?」

「あ、いや、なんでもない」

僕は軽く首を振ると、今ごろはしゃいでいるであろう隆二の様子をなんとなく思い浮かべて口元で笑った。

僕たちは、中学生の頃によく一緒に行ったゲーセンに入ると、ついつい懐かしくなって、少し遊んで帰るつもりが、思わずのめり込んでしまった。金井のゲームの腕前はというと、これがもうすさまじいのなんの!特にリズム系のゲームで彼の右に出るものは、町中探しても見当たらないほどであった。しかも、久々に会ってみれば今度は、ダンスゲームまで完璧にこなすようになっていて、アイドルさながらの振り付けで、見事にギャラリーを燃え上がらせている。

僕らはひとしきり遊ぶと、外へ出て、缶ジュースを片手に談笑をはじめた。遊んでいる間中、金井は携帯をしきりに気にしていた。いつもとは違う様子にも感じられたけれど、しばらく会っていなかったので彼女でもできたのだろうと、僕はあまり気にかけなかった。午後六時ともなると、外はもうほとんど真っ暗になっていて、涼しい秋風が僕たちの汗を拭ってくれる。

「やば、もうこんな時間だ。僕、そろそろ帰るよ。今日、傘忘れちゃったんだ」

 真っ暗になった夜空を見上げて、僕は言った。

「も、もうちょっとゆっくりしていきなよ」

――プルルルル

その時、金井の携帯から着信音が鳴った。

金井はこちらの様子を伺いながらも、携帯が気にかかってどうしようもないようだ。

「出ていいよ」

「あ、うん、いや……」

金井の様子は明らかに不自然であった。何かをやましいことを隠しているような、そんな感じだった。昔、いじめっ子の命令で金井が僕の靴を隠していたことは知っていたが、その時の様子と重なって見えた。金井は、気も弱く、臆病者だが、何より心が弱かった。人の痛みを知りながらも、自分のためなら平気で他人を犠牲にする、そういう汚いところがあった。本人に力がなかったので、たまたまそういう汚い部分が表に出なかっただけだ。しかし、その心の弱さが逆に、付き合い安いところでもあった。

「金井……今日のおまえ、なんかおかしいよ」

「え、そ、そんなことないよ」

金井は目を泳がせ、額からは脂汗がドッと吹き出している。動揺していることは一目瞭然であった。

「そ、そうだ……久々に遊んだんだし、このあと一緒にご飯でもどう?」

金井がこちらの機嫌を伺うようにたずねた。僕は別に不快そうに振る舞ってはいなかったはずだが、そう見えたのだろうか。金井はまださっきの着信音が気になっているようで、チラチラと携帯を気にしていた。

「いや、今日は帰るよ。聴きたいラジオ番組があるから」

その時、金井の携帯がまた音を鳴らした。

――プルルルル

「でなよ」

僕が言うと、金井は携帯の画面を眺めた。その手は、小さく震えていた。特に暑いわけでもないのに、金井の汗はナメクジが這ったような跡を残して、頬を滑り落ちる。

「おまえ、なにか隠してるだろ……?」

 金井は目を泳がせながらも否定しようとしたが、僕の表情が今にも掴みかかりそうなほど強張っていることに気づくと、蛇に睨まれた蛙のように視線をそらせずにいた。

「いったいどうしたんだよ。困ってることがあるなら相談にのるから、たのむ、おしえてくれ」

なんだかとても嫌な予感がして、僕はガシッと金井の両肩をつかんで離さず、まっすぐに金井を見た。すると、金井は目を伏せて、話しづらそうにボソボソと重い口を動かした。


「これから……、仲村汐海を……レイプするって」

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