ふたりの夢
あれから、僕たちは時間をつくっては、二人であかねヶ丘へ来て、いろいろな話をしたり、一緒にお弁当を食べて過ごしていた。
「なあ、来週妹さん修学旅行だろ?」
「うん」
「ならさ、その、できたらでいいんだけど……」
「なーに」
汐海がまったく、というように口角を上げて聞き返す。
「これ、手に入ったんだ」
そういって僕はポケットからチケットを取り出して見せた。
「これ、遊園地のチケットじゃない!こんな高いもの、どうしたの?」
汐海は不安そうな顔で僕を見る。
「ちがうよ。これは、僕が自分でバイトして買ったんだ」
汐海はそう聞くと、目を丸くしていた。
「内緒だぜ」
僕は、何か言おうとする汐海の唇の前に人差し指を立てて、そう言った。
「その、一緒に行かない?」
「でも、そんな高いもの……」
「この前、汐海言ったろ?うちの親が働いて稼いだお金で買ったものはもらえないって。でも、これは僕が自分で稼いで、汐海と行きたくて買ったんだ。何も問題はないだろ」
汐海はぎごちなくも、う、うんと納得したようにうなずいた。
「一緒に行こう」
「うん!」
汐海の表情がぱあっと明るくなる。僕も思わず顔がほころんだ。
こうやって楽しそうな汐海を見ていることが、僕は大好きだった。
「そうだ、来年の夏には、海にも行こうよ」
「海はちょっと……」
汐海は気まずそうに眉をしかめる。
「もしかして、泳げないの……?」
うつむく汐海の耳がみるみる朱く染まってゆく。
それがあんまり可笑しくて、僕はいたずらっぽく声を上げて笑った。
「カナヅチなんだー、名前が汐海なのに……ふふ」
「やめてよ、もう!」
汐海は恥ずかしそうに怒る素振りをした。でも僕にはそれがたまらなく可愛いだけで、怖くもなんともなかった。
「くしゅん」
汐海が小さくくしゃみをした。だんだんと冬が近づいて、最近、少し肌寒い日が多くなってきた。
「寒いか……?」
「ううん、大丈夫だよ」
「だいじょばないだろ、ほら、手もこんなに冷たい」
そういって、僕は汐海の手をやさしく握った。すると、汐海は一瞬恥ずかしそうにして、次に、そっと握り返してくれた。
そのまま、僕たちは手を繋いで帰り道を歩いた。一人で歩くにはさびしい田んぼ道も、二人でいれば心が安らぐ。
「ねえ、なつくん」
「なに?」
「絶対、一緒に行こうね、遊園地」
「ああ、行こう」
約束だよ、ね?と汐海は首をかしげて僕の顔を覗き込んでくる。
男の気を惹く方法を本能的に理解しているとでもいうのか、彼女の仕草の一つ一つが、胸がしめつけられるほどいとおしかった。僕は思わず抱きしめたくなってしまう衝動をおさえ、彼女の頭にポンと手を置くと、彼女のほっぺがちょっとだけ赤くなった。
「汐海は将来、何になりたい?ほら、今すぐじゃなくても、いつか、なれるかもしれないだろ」
僕が聞くと、汐海は照れたように口元を緩めながら答えた。
「えっとね、動物看護士になって、奈津くんのお手伝いがしたい」
「いいね!僕が獣医で、汐海が看護師、最高だよ!」
すると、汐海がニヤニヤしながら言った。
「そしたら、わたしが奈津くんを看てあげるね」
「ちょっ、僕が動物かよ!」
汐海は、声を上げて笑った。
嘘でもよかった。叶わないと知っていても、こうしていられるだけで、僕たちは、幸せだったんだ。




