嘘
僕は、いつもどおり駅で汐海を待っていた。毎日のことなのに、今日はなんだか、そわそわして落ち着かなかった。すると、一人の女の子が階段を下りてくるのが目に入った。
「しおみ」
僕が声をかけると、汐海は聞こえなかったのか、うつむいたままスタスタと通り過ぎてしまった。あれ……?いつもなら、にこっと笑い返してくれるはずなのに……。
「汐海、どうしたの?」
汐海は僕の言葉を無視して、黙々と歩きつづける。
「あのさ、僕、汐海に見せたいものがあるんだよね。今度、時間あるかな?」
今までも、汐海が急に冷たくなることは時々あったので、僕は慣れたように話しはじめた。黙っていても、いつも汐海は僕の話をちゃんと聞いている。
すると、途端に汐海は立ち止まって振り向かずに言った。
「もう、ついてこないで」
予想もしていなかった言葉に僕はびっくりして、理由をたずねようとしたけれど、そんな間もなく汐海はつづけた。
「奈津くんの家がお金ないなんて嘘でしょ!この町で一番立派な家に住んでるくせに!私が貧乏だから、見下してたんだ!」
一瞬、汐海が何を言っているのかわからなかった。何で汐海が怒っているのかがわからなかった。そしてすぐに、僕が汐海のクラスに行ったことを知られたのだと気づいた。
「そうじゃない、僕は君が……」
「うそ!どうして嘘つくの!」
汐海の目からハラリと涙がこぼれ落ちる。
「汐海、ちが……」
「ちがわない!クラスには来ないでって言ったのに、約束したのに!同情なんかされたくない!!」
そういって汐海は小走りになって橋を渡っていく。このまま行かせてはいけないと思った。行かせたくないと思った。僕は、汐海を追いかけて、そして、橋の中腹で僕は彼女の小さな手をつかんだ。振り返って僕を睨みつける彼女は、泣きながら、震えていた。
「もう放っておいて!いったでしょ!もしクラスにきたら嫌いになるって!」
「嫌いでもいい!」
僕は精一杯声を張り上げた。
「君を守れるのなら、いくらだって嫌われてやる!」
「でも、わたしといたら奈津くんまで傷つくんだよ!気づいてるでしょ、奈津くんまで、悪口いわれてるの」
「そんなことはどうだっていい、君がいなきゃダメなんだよ。僕にはもう、君がいない世界なんて考えられない」
泣き崩れそうな汐海を、僕は抱き寄せて言った。
「悪かった、もう二度と嘘はつかない。そばにいてほしい」
「……うん」
橋から町を眺めると、そこには、汐海の大好きな夕焼け色に染まった青石川と黄金の田んぼの風景がいっぱいに広がっていた。
そばにいてほしかった。ただ、それだけでよかった。その笑顔がみられるのなら、他には何もいらなかった。同情なんかじゃない、僕に、君が必要だったんだ。




