親友
「よっ、奈津」
隆二はE組の教室に入ると右手を上げてあいさつをした。圭介も隆二の後ろにつづいて入ってくる。三人ともクラスは別々だが、昼の休み時間はこうして誰かのクラスで集まることが多かった。
「奈津のクラス、次の授業、体育か」
体操服の入った巾着を持って教室を出ていく生徒を見て、隆二が言った。
「そうだよ、圭介と美玖のクラスと合同でね」
圭介がうんと頭を縦に振る。
「たしか、今週から体育ってバドミントンだよな。バド部のエースの圭介相手に女の子の前でタジタジにされる奈津の姿が目に浮かぶぜ」
隆二が意地悪そうに言うと、圭介が得意げにうなずいた。
「ふっふっふ、それはどうかな。僕は、今日この日のために美玖と一緒に秘策を準備してきたからね……」
「うそ、ほんとに?!」
それを聞いて、圭介は本気であせり、声が裏返った。圭介の頭の中には美玖の前でかっこいいところをみせるビジョンしかなかったのだろう。そんな圭介を見て、隆二と僕は声を上げて笑う。
「どうせくだらないことに決まってんだろ。焦りすぎだ」
隆二はトンと圭介の頭を手の端で打った。圭介は、「そうだよね」とほっと胸をなでおろす。長身の隆二と小さい圭介がこうして並んでいるところをみると、まるで兄弟みたいだ。ちなみに僕の秘策とは本当にくだらないもので、ちょうど美玖が男女混合ダブルスののペアに僕を誘ってきたのでそれを快諾しただけだった。美玖にゾッコンな圭介が相手なら、それで十分勝てるだろう。
その時、後ろのドアの前で他クラスの女子が数人でかたまり、僕を見ていることに気づいた。
「ねえ、あの人よ、噂の……」
「うそー!ショックー!そんな人だとは思わなかったわあ」
ヒソヒソと話声がする。目を合わせなくとも僕のことを話していることはわかった。
ここ最近、こういったことが多くなっていた。とはいっても、そもそも話の内容もわからないので、僕も特に気にするような素振りは見せなかった。どうせ天馬あたりが、くだらない噂でも吹聴しているのだろう。
「気にすることねえぞ」
隆二はそう言って、僕の肩にポンと手をおいた。
「そうだとも。そもそも自分と関係のない人間の悪口で盛り上がろうなんて人は、自分の心に余裕がないのさ。そうやって他人を貶めて、少しでも自分より悪い点を見つけることで安心したいだけなんだよ」
圭介が落ち着いた声でそう話す。彼は、いつも冷静だった。
「ああ、それに奈津にはおれたちがついてるだろ。おれたちが揃えば、この学校に敵なんかいねえからな!」
「ははっ、たのもしいね」
僕はいい友達を持った。
それがうれしくて、誇らしくて、大声でみんなに自慢したかった。
家に帰ると、僕はいつものように家事をこなした。はじめの頃は辛く感じたルールも、しばらくつづけていると皮肉なことに板についてきていた。義伯母さんの小言も、天馬の嫌がらせも、汐海のことで頭がいっぱいの僕には何の苦にもならなかった。しかし、そんな僕にも、義伯母さんに一つ、頼みごとがあった。
「おばさん、お願いがあるんですけど……」
「今度はなんや」
「うちに、友達をよびたいんです。僕の部屋だけでかまわないから」
「なにが僕の部屋や、おまえの部屋なんかない、うちが貸してるだけや」
「僕が借りている部屋に、友達を招待してもいいですか?」
「べつに、ダメとは言わんよ?でもおまえはうちに居候している身やろ?金もださんで、ええご身分とちゃうんか?だいいち……」
この後、義伯母さんの嫌味が延々とつづいた。義伯母さんは僕を否定する理由を見つけてはそれをぶつけてきた。でもこれは単にストレス発散に僕を攻撃する口実が欲しいだけで、招いたことが知られたとしても小言がいくらか増えるだけだろう。僕はそのうちこっそりと汐海を招こうと思った。




