プロローグ
「ここは、素敵な場所ですね。なにより、景色が素晴らしい」
男性は微笑みながら言った。
「はい。わたしの一番大切な場所です」
少女は男に向かって優しく答えた。
「これは失礼しました。私たちは、この山には初めて登ったもので、勝手にあなたの大切な場所に立ち入ってしまいました」
男性は謙虚に頭を下げた。
「いいんです。わたしも、人に教えてもらった場所ですから」
少女はにこやかに言った。
「あなたは、いかないのですか。次の便は、いつになるかわかりませんよ」
男性の傍らにいる女性は心配そうに尋ねた。
「はい。わたしはここに残ります」
少女は確かな決意を見せた。
「だれかを、待っているのですね」
男性は少女の瞳に思いを馳せながら問いかけた。
「とても、大切な人を」
少女の声が少し震えた。
「もう彼は、先にいってしまったかもしれませんよ」
男性は悲しみを抱えて言った。
「ここにいれば、会える気がするんです」
少女の言葉に希望が宿った。
「いつまで待っているつもりですか」
男性はやさしく問いかけた。
「……いつまでも」
少女の返答は、寂しげながらも確かなものだった。
「そうですか。あの子は、強くなりましたか」
男性は少女の想いを尊重しながら尋ねた。
「はい、わたしを守ってくれました」
少女は微笑んで答えた。
「それはよかった。あなたがいれば、私たちも安心して旅に出ることができそうです」
男性は感謝の気持ちを込めて言った。
「私たちは、もう行きますね……あの子を、よろしくお願いします」
男性の傍らにいる女性は最後の言葉を告げた。