【異世界神】騒動
『これは邪教だ!ボーホーだ!今から我等、大戦果研究会に改宗しなさい!』
『ええ、この建物は、私たち大戦果研究会が、もらってあげます。そして、貴女は特別に幹部にしてあげるわ』
『ナムミョーホウレンゲーキョー、ナムミョーホウレンゲーキョー・・・』
・・・・
「と話す方々が来て困っています」
・・・私はアリスです。精霊教の巫女をしています。女神教の言い方でしたら、聖女になります。
最近、変な人達が勧誘に来て困っています。
もしかして、異世界の神かもしれないと、ここに相談に参ったのです。
ここには、異世界人がいると聞いたからです。
「ナムミョーホウレンゲーキョーは、どの文献にも載っていません。・・・もしかして、異世界の神かもしれません。だから、異世界出身のササキ商会の商会長にご相談に参ったのです」
「なるほどね。ナムミョーホウレンゲーキョーと唱えたのね。多分、日本の宗教だと思います。しかし・・今は、忙しくて、相談は後になります・・」
「そんな・・・少しでいいので、お時間を取らせません」
・・・私は、アズサ・ササキ、クラスごと日本からこの世界に召喚された。魔王軍と戦ってもらいたいと言われたけど、私だけ断って、お城から逃げて、この国にたどりついた。
召喚されたと言っても何の能力もない。
ソロバンを知っていたいので、ドワーフさんにお願いして、作ってもらって、やっと、商売が軌道に乗ったの。
今は商会長まで出世したが、商会員は、孤児のロザリーちゃんだけなのよね。
「アリスさんと仰るのね。・・・12歳、若いわね。ロザリーちゃんと同じ年齢だわ」
ロザリーちゃんはまだ、出社していない。
3日前に、商品の伝票の確認を忘れたので、叱ってしまった。
だから、気にして、来ないのかもしれない。後で、下宿先に行って、慰めなければいけないわ。
その矢先、精霊教の聖女、アリスさんから、相談を受けた。
最近、変な宗教がやって来て、勧誘するのだと言う。
「分からないわ。私のいた世界では、熱心に宗教を信仰する人は限られていたからね。詳しくは分からないわ。それに、今、従業員を探しているから」
「そうですか・・・失礼しました・・・」
その時。ドワーフのワシムさんが飛び込んできたの。ソロバンを作ってくれた恩人よ。
「大変だ。アズサさん!ロザリーちゃんが、変な宗教に入って、勧誘しているぞ!四の辻だ!」
「え、何?」
「きっと、それです。異世界から来た神を信仰しているのだと思います」
私はワシムさんとアリスちゃんとともに、街頭の辻に行った。
「滅びるのです!大戦果研究会を信仰しなければ地獄に墜ちるのです!さあ、この大戦果新聞を買って下さい!」
「ロザリーちゃん!」
「ヒィ、アズサさん。私は、昨日までのロザリーではないのです。ホッケのギョウジャなのです!」
「一体、何があったの?」
「友が出来たのです!私はタロウ名誉大会頭と一緒に、世界平和の道を進むのです!」
「商会やめるの?ミスは誰にでもあるわ。この前は叱りすぎたわ。ごめんね。考え直して、生活はどうするの?」
「大丈夫なのです。ショテンゼンシンが私を守ってくれるのです!お金が三倍になって返って来るのです!」
ガシ!
私はロザリーちゃんを抱きしめた。
「私はこの世界に来て、ひとりぼっちよ。だけど、ロザリーちゃんが私についてきてくれて、助かったわ。
だから、この宗教に入ってもいいから、だから、商会をやめないで」
「ウグ、私は特別な存在になるのです!」
「貴女は私にとって、特別よ!もう、家族よ。だから、いなくならないで!」
「ウグ、グスン、ウワ~~~~~~~ン」
パチパチパチパチ!
道行く人たちが足を止め。ささやき始めた。
「ええ、話や」
「若いね」
「青春だぜ」
恥ずかしいけど、ここで、ロザリーちゃんを失うわけにはいかない。
しばらく、抱きしめて、お互いに泣いた。
「グスン、グスン、ロザリーちゃん!」
「ウワ~~~~ン、ごめんなさい。アズサさん!」
☆ササキ商会店舗
「これ飲みながらで良いから、落ち着いて、ロザリーちゃんを勧誘した宗教の話を聞かせて」
「はいなのです」
・・・3日前、納入先の確認を忘れて、アズサさんに怒られたのです。伝票を見ていたら、猫ちゃんが店先を歩いていたので・・・
「それは、もういいわ。ミスは誰にでもあるわ。猫ちゃんを見たら、私に一言、声を掛けてから、周りを確認して追いかけるのよ」
・・・グスン、グスン、有難うなのです。
泣きながら、帰っていたら、女の人に声を掛けられたのです。
「どんな人?!」
・・・とびきりの笑顔なのです。とにかく、明るくて、
『泣き顔の君に、マンカイ!コマンネチ!』
『ヒィ・・クス、クス、クス』
股を広げて、下品な芸をするのです。だけど、笑ってしまいました。
「あの、皆様、マンカイって何ですか?」
「「「アリスさんは知らない方がいい!」」」
「話を進めるのです」
・・・拠点に連れて行かれたのです。
そしたら、老若男女、大勢いて、
『新規者、大戦果!仲間になろう!』
『正しい宗教を信仰しよう!』
『君は、間違った教えを信じているな。このままだと地獄に墜ちるぞ』
『へえ、そうなのですか!大変なのです!アズサさんに教えなきゃ!』
『さあ、祈るのです。ナンミョーホーレンゲーキョー、ナンミョーホーレンゲーキョー・・・』
『『『ナンミョーホーレンゲーキョー、ナンミョーホーレンゲーキョーナンミョーホーレンゲーキョー、ナンミョーホーレンゲーキョーナンミョーホーレンゲーキョー、ナンミョーホーレンゲーキョー』』』
『名誉大会頭!タロウ様の健康と長寿をお祈りいたします~~~~』
・・・そして、私は入信を決意したのです。
『いい?機関誌を皆に勧めるのよ。ロザリーちゃん。貴女、美味しいレストランを知っていたら、独り占めをする?』
『しないのです。アズサさんに教えるのです!』
『これは、ノルマじゃない。私と相談して決めた目標よ。約束、今月は強化月間だから、三部契約してきなさい』
『はい!』
・・・私は友達がいないのです。だから、辻に立って、新聞を皆に勧めていたのです。
「なるほど、アリスさんの件もあるから、調べて見ます。ナムミョーホーレンゲーキョーって、南無妙法蓮華経かな。
私の世界の経文ね。
異世界人かもしれない」
そして、私、アズサ・ササキは、彼らの布教の方法を調べた。
「これは・・・・」
一つの仮説が思い浮かんだ。
まずは、アリスさんね。
☆精霊教の庵
アリスさんは、精霊魔法の癒やし手として、近隣の農民のために、安く治療を行っていた。
精霊教も分派が別れて、大小あるが、
アリスさんは、村の泉を依り代にしている。言っては悪いが、零細の教団、アリスさん一人しかいない。
「ナムミョーホウレンゲーキョーでなければ到達しない境地があります。アリスさん。改宗・・・」
「まあ、騒がしいわね」
今日も勧誘に来たが、庵には、アリスちゃんの他に、高位の女神教の聖女様がいらっしゃっる。お茶会をしていた。
事情を話して、領都の女神教支部から、来てもらったのだ。聖騎士の護衛付きだ。
「いい庵ね。聖泉も、神気を感じるわ。精霊様は女神様の御身が別れて生まれたとする説もありますわね」
「マリアンヌ様、女神様は天界に行かれた精霊女王との説もございますわ」
「まあ、アリス様、でしたら、我等は姉妹ですわね」
「「フフフフフフフ」」
大戦果研究会の勧誘員たちは、固まっている。
女神教、人族最大派閥、ここにケンカを売ったら、それこそ次の日には、大戦果研究会の会館は燃えるであろう。
「帰ります。私たちのタロウ大名誉会頭は、アカデミーから、名誉図書館利用永年権を受賞される日・・・ですわ」
精一杯の強がりを言って、
帰って行った。
彼らは、弱小の精霊教の教団を狙って布教をしていたのだ。
「女神教徒の聖女様、有難うございました」
「いえ、いえ、我等は互いに手をつないで、魔王軍と戦わなければなりません。宗教のことで争うなど、具の骨頂ですわ」
「フフフフ、そうですね」
そして、もう一つ、個人への勧誘、悩みを抱えていたり。承認欲求が強い人を狙っているようね。
「ですから、我が大戦果教は、女神教、精霊教に並んで、世界三大宗教と言われています」
「そうか・・そうか」
「今度、法王、国王、タロウ展を行います。是非、来て下さい!」
「そうか、そうか」
否定も肯定もしない言葉で聞き流す方法を提案した。
これは一定の効果を得たが、
やっぱり、入ってしまう人がいる。
農村では苦戦しているようだ。農村では、仲間意識が強固だ。仲間にはご先祖様も含まれている。
信仰は村ごとだ。
『大戦果研究会に入らなければ、地獄に墜ちます。堕地獄です』
『なら、ご先祖様はどーすんべ』
『時空を遡って救われます。クオンジョウブツです。タロウ様が過去に行って救います』
『何だ。タロウってお化けか?その場、その場で都合の良いことをいってんじゃねえ』
『入らなければ、救わないって、ケチ臭い神だな!』
入信する者はOではないが、
それでいい。私はロザリーちゃんだけ救えれば良いのだ。
都市部では、一人を拠点に連れ込み、大勢で囲み勧誘する。
その手法に気を付けれるように宣伝もした。
そして、我がササキ商店に、アリスちゃんの村の聖泉の水を卸してくれることになった。
「いらっしゃいませ。聖泉から汲んだお水です。瘴気の浄化や、疲れたときに飲むと効果が現われます」
「いらっしゃいませなのです。とても、美味しいのです!」
フフフ、二人はすっかり友達になったようだ。
白百合のような清純な美少のアリスちゃんと、向日葵のような明るい美少女のロザリーちゃんの二人で、売上げは上がったわ。
「フフフ、アリスちゃん有難う。今日は遅いから、泊まっていったらどう?新商品のスゴロクあるから、三人でやろ?」
「そうなのです。アリスちゃんと遊べるのです!」
「・・ええ、お言葉に甘えます。お願いします」
「「やったーー」」
☆大戦果研究会本部
「何だ。これは?ロザリーなる者の脱会届とな・・」
「はい。名誉大会頭・・・最近、ササキなる者が、悪知識ササキとして君臨し、シャクブクの邪魔をしております」
・・・我はタロウ、異世界転生をしたらしい。記憶が曖昧だ。しかし、自分の名前と信仰していたナムミョーホウレンゲーキョーだけはしっかり覚えていた。
東京の教団本部に、教団職員に採用してくれと直談判をしに行ったが、その後、事故にあったと記憶がある。
我は人間か?いや、俺自身がコウアンの大本尊だったに違いない。
毎日手を合わせていた文字曼荼羅ご本尊・・・
有名なコミックで、槍と融合した鍛冶職人の話がある。
そのイメージで合っている。
ご本尊と我が融合した。
その逆か?いや、はたまた俺がご本尊になったのか?
「分かった。転生者かもしれない。我が自らシャクブクに行こう。大悪を滅せなければならない。シャクブク大行軍だ!」
「「「ハハー」」
☆ササキ商会
「「「ナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョー・・・」」」
「ヒィ、大変なのです。お店を取り囲まれたのです!」
「ええ、大変だわ。アリスちゃん。ロザリーちゃん隠れて!」
・・・深夜に、お店に、大戦果研究会の人たちが来たわ。どうしよう。
「ササキなる者は前に出てこい。我と対話をしよう。法論だ!」
・・・30代後半かしら、頭は坊主だけど、あれは日本人?転生者?
話がしたいけど、通じなそうね。
情報を交換したいわ。
どうする。
とにかく出るわ。
「アリスちゃん。ロザリーちゃん。逃げて、マリアンヌ様に知らせて」
「「でも・・」」
「いいから、取り囲まれているけど、隙を付いて、逃げるのよ」
「「はい!」」
私は戸を開け。タロウなる人物と対峙した。
・・・・・・・
「このソウジョウマンめ!」
「ゾクシュウめ」
「大悪め!」
信者は口々にアズサを罵る。
しかし、それをタロウが止めた。
「大戦果研究員よ。静まれ。我等は対話をしにきたのだ」
「「「ハハハハ-」」」
「いいかね。ササキ殿、100万遍題目を唱えれば、福運を積み
自分が変わり周りが変わる。
そして、一億万遍をあげると、信仰の王様になれる。
一億遍をあげるには、1日3000遍を唱えるとして、70年以上かかるのだ。
7.0ヘルツの題目は宇宙の真実と合体して、クガシシキまで到達し、題目一つに100万回のハイタッチと同じ効果が生まれるのだよ。
君はどう思う?」
・・・ここは、一端、受け入れる発言をした方が・・・いいかも
「つまり、クガシキに題目が到達すれば、題目と精神がミックスして、宇宙を旅して行けるってことですね」
・・・正直、自分でも何を言っているか分からない。
「な、何と、君はヘイサイモン一門だと思ったが、ダイダバッタだな。ダイダバッタは釈尊の兄弟だった。
君を副会頭にしよう」
・・・ワケ分からないけども、ここは、はっきりと断るべきね。
「断ります」
その時、ササキ商店店舗の中で様子を伺っていたアリスが、両手を天につき。精霊に助けを求めた。
「精霊様!どうか、アズサさんを助けて~~」
「副会頭を断るとは・・理由を述べよ・・・もしや、ソウジョウソウジョウマン・・本物に近い偽者ほど罪が重い。偽金は本物に近いほど罪が重いのだ。
フン、悪を滅する祈り。タロウ自ら、題目を唱えてやろう!」
ピカ!――――――――
「「「何?」」」
「あの女の頭の上に、光が、まぶしいーーー!」
アズサの頭の上に微精霊が集まった。
微精霊、癒やしの効果がある。気持ちを落ち着かせるために、アリスは呼んだのだが、大勢やって来て集まり大きな光球のようになった。
アズサ以外の、皆の目をくらませる結果となった。
「ヒィ、まぶしい!タロウ様、こいつは妖怪です!退治しましょう!」
しかし、
タロウは、しばらく、茫然自失とした後、
「・・・・帰るぞ!撤収だ!」
と命令をし、そのまま信者を引き連れて帰った。
☆
「あいつら帰ったのです!アズサさん無事なのですか?」
「アズサさん!」
「あら、精霊様が集まると、気が清浄になるわ。さすが、精霊の愛し子ですね」
「そ・・そんな私は必死で・・」
「お~い。アズサさん無事か?」
ササキ商会と協力関係にあるドワーフたちが戦斧を抱え応援に来た。
「皆様、ご心配をおかけしました」
「いいさ。それよりも、これから、警備員を派遣しようか?」
「いいえ。もう、こちらには来ない気がします。理由は分かりませんが・・」
「そうなのか?しかし・・・」
「皆様、お水です。お食事も作るので食べて行って下さい!」
「「「おおー、ロザリーちゃんのご飯は最高だぜ!」」」
・
・・・・・
一方、タロウ達、大戦果研究会は・・・
「名誉大会頭、何故、帰ったのですか?追撃のチャンスです!」
「一体、あの現証はなんですか?」
と研究員が問うたが、皆に、同じことを答えたと言う。
「大戦果研究会は健在だ。我等の負けではない。このことは決して口にしてはいけない。命令だ!」
・・・あの光球、もしや、竜の口の法難、なら、邪は我等なのか?
☆13世紀日本身延山中・・・
「大変です。蒙古が敗退しました」
「何?」
・・・と言うことは、幕府が我等を迫害した結果、教典通り、他国侵逼難が起きた。
邪教の祈祷と、迫害者、武士の戦いにより。蒙古軍が負けたとな?
何が起きた。蒙古は幕府の間違いを糺す仏の御使いではなかったのか?
「幕府から迎えは?」
「ございません」
「なら、この事は我が門下は決して言及してはいけない」
「しかし、他宗派から、言われたら・・」
「その時は、大蒙古は消滅したか?と言え」
「「「ハハー」」」
・・・・・・
くしくもタロウの発言と、タロウが信仰していた坊さんの言動は一致した。
その後、教団は小さいながらも存続し、世間を騒がしたが、やがて、それもなくなり。
タロウは95歳になった。
「まだ、引退が出来ない。独りで信仰をしたいのだが、後継者が育たない・・・」
・・・この宗教は、ハングリー精神がなければ、ただの家の宗教だ。学園を作り子弟に高度な教育を受けさせた結果。
豊かになり。ハングリー精神が失われ、官僚のように、セクションの争いの場になってしまった。
息子を海外布教部、副名誉会頭代理補佐にしたが・・・息子には後継者は無理だ。
ふと、あの日の光球の事を思い出す。
もし、あの時、ササキなる者に教団を差し出し、大会頭に迎え、我が門下生に下ったのなら・・・
「結果はどうなっていたであろうな・・・ウゥ・・ウグッ」
・・・・
「大変です!大名誉会頭が、リョウジュセンにいかれました」
「「「ナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョーナムミョーホウレンゲーキョー」」」
葬儀後、すぐに、「後継者は俺だ!」と争いが勃発し、六派閥に別れた。
各々、タロウ師は、俺のことを後継者と考えていたと主張した。
結局、
誰もタロウの心中を察することは出来なかった。いや、しなかったという方が正しいであろう。
最後までお読み頂き有難うございました。