3.
義父が帰ってから数ヶ月後、今度は王太子夫妻とハンナを含めた子供3人が、大公城へ様子を見にやって来た。
大公領にいる貴族達と親交を深めたいという要望もあり、ガーデンパーティーを開くことになったのだが……
「ねえフェルディナンド、アリシアの姿が少し前から見えないけれど、どこへ行ったのかしら?」
招待客が揃い挨拶を終え、歓談が始まってしばらくすると、アリシアは何人かの貴婦人達を連れて消えてしまった。
「何やらみんなにお披露目したい物があるとか何とか言っていましたが……」
「お披露目? 何だい、それは」
「さあ……アリシアのする事は私にも分かりかねます」
不思議がっている王太子夫婦に肩を竦めて見せると、「相変わらずそうね」と苦笑いしている。
そうこうしている内に、アリシアと他数名の貴婦人達が戻ってきた。
「皆様ー! どうぞこちらを御注目下さい!!」
大声で声をかけなくとも、その異様な姿でみんな既に注目している。何故かアリシアとついて行った貴婦人達は、マントで身をすっぽりと隠しているのだから。
「今日はここにお集まり頂いた皆様にお見せしたいものがございます! それがこちらっ!!!」
じじゃーん! とでも効果音が聞こえてきそうな勢いで、アリシア達はマントを取り払った。
「まあ! なあに、あの服装は?」
王太子妃をはじめとした貴婦人達が驚きの声をあげた。
アリシア達が着ているのはジャケットにタイトパンツ、中にはブラウスを着ている。
いわゆる男が乗馬をする服装に近いのだが、ジャケットは男物の暗い色合いではなくピンクや水色といったパステルカラーに裾や袖にはレースがあしらわれている。
そしてヒップラインが隠れるような長さで短めのワンピースのようにも見える。
中のブラウスもフリルがたっぷりとついていたり、リボンが付いているものなど女性らしいデザインだ。
「こちら女性用の乗馬服を作ってみたのですがいかがでしょうか? ほら、ワンピースやドレスだといくら中にタイツを履いていてもヒラヒラしたり、スカートがめくれて中が見えると言うのは嫌でしょう? なのでこちらにいらっしゃるルッツァ様、ジョフィア様、レーラ様に御協力して頂いてデザインを考えてみました」
「動きやすさも考えてフリルやリボンは最小限ですが、そのかわり色合いを明るくしてみましたの」
「ジャケットの丈感も、スカートを履いているかのような気分で着用して頂けるように考慮してみましたわ」
クルリと回りながら貴婦人達が洋服をプレゼンしていくと、王太子妃が食い付いた。
「そうよ! こう言うのが欲しかったのよ!! なんて可愛いのかしら。女性らしさを失わずに馬に乗れるなんて素敵ね」
「そうでしょう、そうでしょう? 。王太子妃殿下はファッションアイコン! 妃殿下かが御着用されたら間違いなく、中央でも流行りますよ〜。ねっ、王太子殿下?! フェル様?!」
「えっ、ああ、そうだね。これはもう鐙の発明以来の、画期的な大発明じゃないかな?」
「ですよねぇ。さすがは御義理兄様、分かってらっしゃるー!」
早速、新しい女性用の乗馬服を見に、アリシア達の周りに貴婦人たちが集まってきた。
「こちら、どこで買えるのかしら?」
「帰ったら仕立て屋に注文しないと! 」
「間違いなく、キシュベルから新しい時代が始まりますわね!」
王太子妃と貴族達が一緒になってきゃあきゃあ盛り上がっている。
その様子を見て、皆がいる前ではどちらかと言うと感情をあまり表に出さない王太子が、腹を押えながらくつくつと笑っている。
「女性の『可愛い』は世界共通みたいだね。まさか元サダルの貴族から「キシュベルから」などと言う言葉を聞けるとは思ってもみなかった。ほんと、アリシアは面白いよ」
大公領の貴族達は『サダル人だ』と言う意識があるようで、キシュベル王国の一部になったと言う事実をなかなか受け入れられていない。
何処と無く元サダル人と元からキシュベル人の両者には見えない壁があり、これを取り払うにはきっと、膨大な時間がかかると思っていた。
まだここだけの小さな出来事とは言え、キシュベル王国のこれからの未来が、ほんの少しだけ見えたような気がする光景だ。
「ええ、一緒にいて飽きませんね。彼女はいつも、私の予想の斜め上を行きますから。じゃじゃ馬はじゃじゃ馬のまま、自由にかけ回らせるのが一番かと」
「間違いないね」
アリシアは、何処でどんな地位を与えられてもアリシアだ。
彼女の手綱を引くことは、きっと一生出来ない。
それでも……
「ほらほらフェル様、御義兄様。こっちに来て男性陣の意見を下さいよ!」
アリシアにグイグイと背中を押されて輪の中に入れられた。
アリシアは、たとえ手綱など握っていなくてもいつでもフェルディナンドの傍に居てくれる。
最高に最良のパートナーだ。
おわり
これで完結です!ここまでお付き合い頂きありがとうございました( ´ ` *)
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