1.
アリシアとフェルディナンド達のその後の暮らしぶりを番外編として書きました。
2本立てでお送りしますー(∩´。•ω•)⊃ドゾー
淡い色合いが広がる冬空の下、とある侯爵邸の庭には数十人の貴人達が集まり始めていた。
貴人達の話題の中心は一様に、最近この大公領に嫁いできた女性の噂。
「今日のガーデンパーティーには《《あの》》大公夫人もいらっしゃるのでしょう? 結婚式の時に開かれたパーティーでは軽く挨拶を交わした程度だから、今日会えるのが楽しみですわ」
「本当ですわ。なんでも今日が初めてらしいですわよ、結婚式以外で社交場に出るのは」
「さぞや緊張なさっている事でしょうね。なにせもとは《《ただの》》庶民、いえ、厩番だったんだって言うんだものねぇ」
「そんな身分だった人がわたくし達と話が合うのかしら。心配だわぁ」
「どんな風に私達を牽制しにかかって来るのか見ものですね」
「ふっ、元平民が自分の身分の方が上だとキャンキャン騒ぐんでしょうよ」
クスクスと嘲笑ともとれる笑いが女性たちの間に広がった。
誰もが思っていた。このガーデンパーティーにやって来る大公夫人が虚勢を張って、生まれながらに貴族である自分たちよりも上なのだと、一生懸命に吠える様を見届けてやろうと。
*
あぁー、憂鬱だ。
フェルディナンドと一緒になる事を決意した時にある程度覚悟していたとは言え、めかし込んで貴婦人方とパーティーという名の舌戦場へ赴かなければならないなんて…。
結婚して以降、アリシア・エステルハージの元には大量の挑戦状…じゃなくて、招待状が送られてきた。
なかなか結婚しなかった国の英雄と言われる紅の騎士、フェルディナンドのもとへ嫁いできた女は如何程のものか。
貴族の子女でもなく、フェルディナンド専属の厩番だったと言う情報しかないアリシアに、大公領に居る貴族はもちろんの事、それ以外の貴族達からも好奇の目に晒された。
箱いっぱいに入った招待状を前にげんなりしていると、フェルディナンドは別に無理して行かなくてもいいと引きこもりを容認してくれたのだけど…流石にハンナに偉そうにお説教を垂れていたくせに不味いだろうと、いくつかお呼ばれしたパーティーに出てみる事にした。
とは言えどのパーティーに出たらいいのか分からないので、くじ引きさながら、適当に招待状の箱の中から引き当てたやつに出てみようとしたらアルパート夫人に手をパシリっと叩かれた。
アルパート夫人が誰かって? ヴァルテル・アルパートの奥さんですよ。ヴァルテルは私専属の護衛になって、奥さんは侍女になってくれた。という訳。息子さん達は伯爵であるお祖父さんの下で
勉学に励んでいるらしい。
それからもう1つ言うと王太后陛下が自身に20年と仕えてきたベテラン侍女を、信頼出来る人が出来るまで、とアリシアのために貸してくれている。
この2人が揃うともう怖い。
四六時中監視されているかの如く、なーんにも知らないアリシアに行儀作法と知識とを日夜叩き込んでくれている。
2人の意見を聞き、まず最初に出てみる事になったのがチェネスキー侯爵邸で行われるガーデンパーティー。
チェネスキー侯爵はサダル王国が建国されて間もない頃から続く由緒正しいお貴族さんで、サダル王が反逆を企てた時には反対派だったとの事で特にお咎めは受けていない。
それなりに力がありフェルディナンドに対して遺恨のないこの侯爵家主催で、なおかつ大規模じゃなく中規模のパーティーなら人の顔を覚えるのが苦手なアリシアでもいいのでは無いか、と選んでくれた。
「うわぁ、アリシア様とってもお綺麗ですよ!」
リリが目をキラキラと輝かせて、侍女2人に着飾らせられたアリシア見ている。
リリはアリシア専属の使用人、と言うポジションに居る。
本当は侍女にしてあげたいのだけど、リリの身分上それは有り得ないので使用人として傍に付いていてくれる。アリシアの部屋の掃除からファブリック類の洗濯までリリを中心にして動いている。
さてここで恋人からリリの旦那様になったアルフレッドはどうなったのかと言うと、もちろんこちらも一緒に大公の居住する城へ付いてきている。と言うか、元々はアルフレッドが装蹄師として付いてくることになったのだ。
私がフェルディナンドと結婚すると公表されると、王宮の装蹄師長が「アリシア1人ではクルメルの装蹄に不安がある。アルフレッドを連れて行って欲しい」とフェルディナンドにお願いしにやって来たらしい。
「何だかんだ口やかましく言ってたって、装蹄師長はアリシアの事かなり気に入ってたんだよ。だって、男でもあんなに骨のあるやつはいない。なんて裏では俺に言ってたんだから」とアルフレッドがあとで教えてくれたのだけど……
分かりずらっ! そう言う好意はもっと全面的にだしてくれ!
装蹄師長は私の父親と似たタイプだとフェルディナンドが言っていたけれど、妙に納得してしまった。
にっこにこのリリに見送られてエントランスへと歩いていると、向こう側から見慣れた男性がやって来た。
「アリシア、今日は随分とめかし込んでるな」
丁寧に梳かれてセットアップされたアリシアの髪の毛にフェルディナンドが触れてきた。
フェルディナンドの左手は手綱を握れるくらいにまで回復した。ただ、グッと力を入れられないので武器を握って振るうことは出来ない。それでも医者は「奇跡的な回復」だと言っていた。
「馬子にも衣装、ってやつですよ」
こういうヒラヒラして豪奢な装いはなかなか慣れない。気恥ずかしくて俯くと、耳元までフェルディナンドの顔が降りてきた。
「いや、綺麗だよ。奥様」
「……っ!」
相変わらずこうしてからかわれ続けているのだけど、いちいち間に受けてしまいそうになるのだからしょうがない。
「どこかへ行くのか?」
「チェネスキー侯爵邸で開かれるガーデンパーティーに行くんです」
思わずほうっ、とため息が漏れてしまう。
「そんな嫌そうな顔をするくらいなら行かなきゃ良いだろ」
「嫌、と言うか緊張してるんですよ! 何かやらかさないかと自分自身が1番不安なんですから」
いくら行儀作法だの何だのと教えられたって、ほんの1年ちょっとくらいで身につくものじゃない。ハリボテも良いとこだ。
「ふっ、やらかしている自覚はあるんだな。まぁお前はお前らしく、そのままでいいさ。どうせ猫を被ったところですぐに剥がれるんなら、最初から素で行ったらいい。それで馬が合わなきゃそれまでってことで構わない。俺にはその後のフォローをする器量くらいはあるぞ」
「…………ですよねっ! いやぁ、フェル様頼りになりますねぇー。伊達に完璧王子の仮面かぶってた訳ではないですね。ではお言葉に甘えて、行ってまいります!」
フェルディナンドがそう言ってくれるなら安心してやらかしてこよう。足取りも軽く馬車へと向かおうとすると、後ろでアルパート夫人が「殿下、なんて余計なことを……!」と苦々しげな顔で呟いている。
「ヴァルテル、アリシアを頼んだそ」
「かしこまりました」
「侯爵邸の馬達にでも会えると思って楽しんでこい」
行ってらっしゃいのチークキスをフェルディナンドからされて、護衛のヴァルテルと一緒に馬車に乗り込んだ。




