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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第2章 王宮軍部
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やって来ました王宮軍部

小さな荷物を一抱えだけ持って、アリシアは王宮へと向かう。


 王宮に行くのは初めてなので人に道を聞きつつ、馬車や徒歩で半日かけてようやく着いた。


 王宮の門番に、馬を引取りに来た使いの人にあらかじめ貰っておいた通行証の木札を見せると通して貰えたのはいいとして、中に入ってその広さに驚いた。



 うちの牧場何個分よ、これ。



 王宮本館その物も大きいが、あちこちに別の建物は立っているし、噴水だの謎のオブジェだのが置かれた庭園があちこちにあるしで、まるで『王宮』という名の街が一つあるようだ。


 ここでもまた軍部がどこにあるのか分からないアリシアは、人に道を訪ねつつようやくたどり着いた。



 ここまで広いと、王宮の中でも馬に乗るか馬車に乗って移動したくなるわね。



 軍部の宿舎兼本部がある建物に入ろうとすると、見張りをしている兵に呼び止められた。


「どのようなご要件でしょうか」


「殿下の厩番として雇われたアリシアと申します」


「殿下……。どちらの殿下だ? 場合によってはここではない場所にいらっしゃる」


 そうだ、王宮には「殿下」と呼ばれる人が沢山いるんだった。あの人の名前がなんだったか確認しておくの忘れてた。


えーと、フェル……何だったけ?

 フェルーザじゃ女性の名前だし、フェルミン...いや、違うな。もっと長かった気がする。


 あ、そうだ!


「フェルナンデス殿下に来るように言われました」


()()()()()()()()だボケ」


 コツンと後ろから頭を小突かれて見上げると、先日の王子が呆れ顔で立っていた。


「しかもフェルナンデスは普通、ラストネームだろ」


「女性に手をあげるなんて、騎士として有るまじき行為では」


「王族の名前を間違えるという無礼を働いておいて鞭打ちにしないなんて、ものすごく寛大だろ。と言うかお前、今日はちゃんと「女」の格好をしているんだな」


 フェルディナンドの言う通り、今日のアリシアはワンピースを着て、いつもは後ろで三つ編みにしてある髪の毛もほどいて丁寧に櫛ですき、ハーフアップスタイルにしてある。

 ワンピースに至っては、父が「王宮に上がるのにボロいのなんか来ていくな!」と新しいのを街で買ってきたシロモノで、アリシアの趣味でもなんでもない、いかにも女の子らしいデザインだ。


「ですからあれは仕事着で、普段は普通に女性物の服を着ているんですってば」


 口を尖らせ気味に反論すると、フェルディナンドはアリシアの髪の毛をひと房手に取り口付けをするように口元に近づけた。


「普段からこうしておけばかわいいのに、勿体ないな」


 かかかかわいいっ?! 一体何を言ってるんだこのタラシめ!

 赤面しているのを隠そうとふいっと顔を逸らすと、フェルディナンドのにこにこ顔が追ってきた。



 ウザっ!ウザっ!!ウザーーーっっ!!!



「さて、からかうのはこの辺にしておいてと。付いてこい」


 笑いながら歩くフェルディナンドの後ろを付いていくと、執務室らしき所に連れられてきた。


「これが契約書だ。読めるか?」


「ええ、教会で教えてもらいましたので読み書きと算術も簡単なものなら出来ます」


 教会の慈善活動で月に何度か勉強会を開いてくれていたので毎回参加していた。

 父がアリシアに「万が一嫁の貰い手が見つからなかった時の保険」だとか言って、牧場の仕事を休んで通わされたのだ。


 手渡された契約書をサラッと読んで、これまた借りたお高そうな羽根ペンでサインをする。


「それではフェルディナンド殿下にも……」


「フェルでいい」


「はい?」


「長いとまた間違えるだろ。フェルでいい」


「あー、フェル様?」


 愛称に殿下を付けるのはおかしい気がしたので様付けにしてみた。それでも変だけどさすがに呼び捨てはダメでしょ。


 フェルディナンドの方を見ると満足気な顔で頷いているのでこれでいいらしい。


「それではフェル様に改めましてこちらを」


 アリシアは持ってきた荷物の中から紙を取り出す。


「これは?」


「僭越ながら、フェル様にもこちらにサインをお願いしたく用意致しました」


 渡した紙にはアリシアが軍部の厩番として働く代わりに、クルメルによる種付けをする旨が書かれている。

 もちろん1度で子供が出来るとは限らないので、子供が無事に産まれるまで何度でもという事と、生まれてきた子供の所有権はアリシアにある事もバッチリ記しておいた。


 アリシアお手製の契約書に目を通すと「抜け目がないなぁ」と、くつくつ笑いながらサインをしてくれた。

 返された契約書を丁寧に鞄へとしまうと、フェルディナンドが隣で控えていた女官と思われる女性に声をかけた。


「今日から私付きの厩番になったアリシアだ。部屋への案内と、それから生活に必要な事を教えてやってくれ」


「かしこまりました。アリシアさん、参りましょう」


 執務室を出て今度は女官の後を付いていくと、2段ベッドが何台も並べられた部屋へと案内された。ベッドの下には蓋付き収納箱(チェスト)があって、こちらに荷物を入れるらしい。


「あなたのベッドはあそこね」


 その後も食堂や浴場、トイレなどを案内してもらった。


コの字型のこの建物の造りはどうやら、中央南側が仕事をするスペースと食堂などの男女共用スペース、東側が男性用宿舎、西側が女性用宿舎と言う事みたいだ。


 軍部では他の場所に比べて、働いている人の割に女官や女性の使用人が圧倒的に少ない。

 それは下っ端の兵が使用人と一緒に給仕をするからのようで、すれ違うのは男ばかりだった。


 最後にいちばん肝心な厩へと案内してもらうと、アリシアはおもわず感嘆の声を上げる。


「すごい……こんなに馬がいっぱいいる」


 何棟も並んだ厩舎と広い馬場や放牧場。

 厩舎も綺麗に履き清められて、管理が行き渡っていることが伺える。



 アリシアが感動に浸っていると、女官から険のある声で話しかけられた。


「明日の朝から早速働いてもらうから遅刻しないようにね。それにしても「フェル」様だなんて厩番の分際で馴れ馴れしい。あんまり調子に乗るんじゃないわよ」


 おお怖い。フェルと呼べと言ってきたのはあちらさんで、私じゃないってあなたも見てたでしょうが。


 アリシアの心の中のつぶやきなど聞こえるはずもなく、案内を終えた女官はふんっと鼻息も荒く去っていった。

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