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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
最終章 救われた者とそうでなかった者
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恋の結末~アリシア・フェルディナンド編

 サダルの兵は多少の抵抗は見せたものの、その多くはすんなりと投降した。

 最期の王の命令に従ったのか、或いは圧倒的な兵力の差で諦めただけなのかは分からない。

 フェルディナンド以外の者はほぼ無傷で最終決戦は終わりを迎えた。


 腕に深手を負ったフェルディナンドは後始末を他の上級士官に任せて、ほかの一部の兵と一緒に王宮へ帰ることになった。



 左の上腕に深く槍が突き刺さったものの、切断はなんとか免れた。

 縫い合わされた腕は腐り落ちることなく何とか繋がってきたもののどこまで治るかは分からない。恐らく再び腕を動かすことは難しい、動かせるようになったとしても以前の生活には戻れない。と言うのが医者の見立てだった。



 隻腕の兵、と言うのも無きにしも非ずだが、それは傭兵の話であって王宮の軍部ではまず有り得ない。


「さて、これからどうするか……」


 クルメルの馬上から空を振り仰いで深く息を着く。


 前線に出れないとなると書記官か参謀として働くか、もしくは若手の育成役くらいにはなれるか。


 いずれにしても……



 片腕であのじゃじゃ馬を乗りこなすことは到底出来ない。



 とうとう手放す時が来たようだ。



 どこまでも続いていきそうな草原と空の狭間、アリシアと馬で駆けた日の事を思い出しながらフェルディナンドは帰途についた。



***




 時折吹く風は冷たく思わずぶるりと震えてしまうような寒さにも関わらず、王都は歓喜に湧いていた。


 街中に飾られたフラッグと降り注ぐ花吹雪。


 民衆の歓声が王宮の中まで聞こえてくる。


「いよいよフェルディナンド准将が帰ってくるね」


「うん」


 軍部の門付近で、帰ってきた兵から馬を受け取るために厩番たちは待機している。アリシアもアルフレッドと一緒に兵の帰りを今か今かと待っているところだ。


「腕の具合、大丈夫かな」


「どうだろう」


 フェルディナンド王子の救国話は瞬く間に国中に広がった。


 シフィドニア公の謀反にいち早く気づいてほぼ無血で制圧し、更にバックに付いていたサダルの王を討ち取った。属国とは言えこちらもほとんどキシュベル兵に損害なく戦を集結に導いた上、サダルの王は実の兄と言うという事もあり、センセーショナルな内容に皆沸き立っている。


 サダル王と一騎打ちした際に、腕に深手を負った事も小耳に挟んだ。

 繋がっているとは言っていたけど、実際はどうなんだろう……。


 不安が過ぎらなくは無いが、命があるのならそれでいいとすら思ってしまう。



「アリシア、来たよ!」


 アルフレッドに声を掛けられるや否や、青毛の大きな馬に跨った人の元へ駆け寄る。


「フェル様、お帰りなさいませ。そしてお疲れ様でございました」


 肉体的な疲れよりもきっと、精神的な疲れの方が酷いのだろう。実の兄を手に掛けたのだから当然だ。声をかけたフェルディナンドの表情は固く強ばっている。


 別れた時には黒く染め上げられていた髪の毛の染料はほとんど落ち、元の金髪がくすんだ様な色合いをしているのが尚更フェルディナンドを暗く見せた。



「アリシア、無事だったか」


「はい、お陰様で。大尉にここまで送って頂きましたから」


「そうか。クルメルを頼んだ。陛下に報告に行ってくる」


 極短いやり取りをすると、クルメルの手綱を託された。




 クルメルを存分に労いながら手入れを終え、更にくたびれてしまった馬具をピカピカに磨き上げ終わった頃、報告を終えたフェルディナンドが厩舎へとやって来た。


「フェル様、もう報告は終わったんですか?」


「ああ、話は大方既に伝わっているからな。確認といった感じだ」


「そうですか……」


 その後の言葉が続かず沈黙して目のやり場に困っていると、フェルディナンドの手首に巻き付けられたリボンに目が止まった。深緑色だったリボンは血を浴びてどす黒く変色している。御守りの効果なんて無いのに。


「そのリボン、まだ持っていたんですね」


「すっかり汚れてしまった」


 リボンが結ばれた腕を上げようとしたのか、うっ、とフェルディナンドが呻き声を出した。


「腕……大丈夫ですか?」


 大丈夫な訳ないのに、他に言葉が見つからなくてつい聞いてしまった。


「……医者の話では、もう一度動かせるようになるかどうかってところらしい。腐り落ちなかっただけマシだがな。ただ……軍馬として前線に立つことはもう出来ないだろう。俺もこいつも引退だ」


 そう言ってフェルディナンドは馬房の柵から顔を出しているクルメルの鼻づらを撫でた。


「軍馬はムリでも……」


「うん?」


「軍馬としてはムリでも、()()()()()()()いけるんじゃないですか?」


 何を言われたのか一瞬分からなそうな顔をしたフェルディナンドは、すぐに口元を歪めていつもの底意地の悪い笑みを浮かべた。


「俺()()()の子種は要らないと言ったのは、どこの誰だったか?」


「だっ、誰も相手が私だなんて言ってませんっ!!!」


「いいや」


 クルメルを撫でていた手で抱き寄せられて、フェルディナンドの胸元にトンっ、とぶつかった。


「お前以外の女に種付けするつもりなんてないさ」


 フェルディナンドを見上げると、そのまま口付けを落とされた。そしてアリシアもそれを受け入れた。


このラストが書きたいが為に、せっせと文字を打ってきました(´∀`*)スッキリ〜

次話はエピローグです。

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