表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第7章 馬を訪ねてどこまでも
52/66

告白のタイミングって難しい

 そうは言ったものの……


 何をどうしたものやら。こういう事には滅法弱い。



 馬の取引については、後日使いの者に代金と引き換えに馬を受け取る事になった。


 肝心の代金について改めてフェルディナンドに確認してみると、「貸しを返してもらう為の投資」だとか言って、本当に支払ってくれるみたいだ。そう言えばフィンダスの出処を掴めた御礼に、フィンダスの様な歩様をする子を増やして一発大儲けして、分け前としてお返しするって約束だったんだっけ。


 船便があるまでの数日をカルロ島を回って過ごし、ついでに牧場でクルメルの装蹄を済ませておいた。

 あらかじめクルメルの蹄に合わせて作っておいた蹄鉄は持って来ていたけれど、最後の調整は蹄を削ってから行う。工具は持ってきたものの、蹄鉄の整形に必要な金床までは重たくてさすがに持ってきていない。

 何処かで金床を借りてやろうと思っていたので牧場のおじさんに頼んでみたら、快く貸してくれた。


 「奥さん装蹄上手いねー」と牧場の皆に大いに褒めてもらいかなり嬉しかった。やっぱりあのクソジジイ、じゃなくて装蹄師長は褒めるって事を知らないみたいだ。


 なんやかんやでカルロ島とサダルを後にし、とうとうタイミングを掴めないままキシュベルに戻ってきてしまった。


 今アリシア達がいるのは、キシュベルの王宮とサダルとの国境のちょうど真ん中くらい。

 シフィドニア公爵の称号を持つ何とかさん(さっき教えて貰ったけど忘れた)が治める領地を巡っているところで、キシュベルでも指折りの裕福な大貴族だ。


 この公爵領を治める貴族達が潤っているのはなんと言っても、革の有数の産地だから。公爵領を分割統治しているケオン伯爵の領ではなめし革工房が、この後でいく予定のセレク伯爵の領は皮を取るための牧場が多い。

 

 先程到着して今来ているのは公爵が直接統治している場所で、シフィドニア公が住む城にほど近い街。


 多くの場所を視察するために行きと帰りでルートを変えて移動しているのだが、帰りにこの街を訪れると知って、カルロ島へ行くのと同じくらい物凄く楽しみにしていた。


 と言うのもこの街で作られて売られている革製品、取り分け馬具は質のいい事でも有名。実家の牧場でもここの馬具を愛用している。


「ほわぁぁぁ! あっちにもこっちにも革製品の店と馬具屋がいっぱいですね」


「僕も何度か来た事があるけど凄いよね。見ていると欲しくなってきちゃうよ」


「それにしてもシフィドニア公の城、物凄く立派でしたね」


 馬を預けに行く時に城の近くを通ったけど、王宮に引けを取らないくらいの立派な城だった。


「シフィドニア公は昔から領地運営が上手いが、今の領主は殊更上手くやっているみたいだからな。十何年か前に城を立て替えたらしい」


「豪勢な城は権力の誇示には持ってこい、ですね」


「そういう事だな。アリシア、少し街中を見て回るか? 楽しみにしていただろ?」


「え、でも視察があるんじゃないですか。なんなら1人で回りますので」


「この街には数日滞在する予定だし、数時間回るくらいはいいさ」


「アリシアちゃんを1人で街中に出して、何かあったら大変ですからね」


「まだ昼間ですよ。1人で買い物くらい……」


 ヴァルテルから肘でちょんちょんと叩かれ、妙な目配せをおくられた。


「それでは僕は妻に新しい革財布でも買っていってあげたいので、アリシアちゃんはアドリアン様と一緒に行っておいで。それではアドリアン様、2時間後にここで待ち合わせで宜しいでしょうか」


「分かった。そうしよう」


 ヴァルテルはヒラヒラと手を振ると、人混みの中へ消えて行ってしまった。

 これって多分、気を使ってくれたってやつだ。

 心臓が急にバクバクしてきた。


「アリシア、どこを見たい?」


「そっ、そうですね……あ! あそこのお店に行っていいですか? イムレ様にプレゼントを買いたくて」


「イムレに?」


「はい、ハンカチを買おうかと思って」


 これまでの旅の間にヴァルテルのハンカチを2枚も鼻血で染めてしまった。変装のために庶民が持つような、普通の綿で出来たハンカチの様で良かった。これが絹製だったら弁償するのにえらいことになっていた。


「ふぅん、俺には何もプレゼントしてくれた事もないのに?」


 フェルディナンドが物凄く不機嫌そうな顔になった。

 あれ? こんなはずじゃ無かったのに……。これじゃあ雰囲気最悪だ。


「えーと、ほら、鼻血で2枚もダメにしてしまったのでお返ししないと。そうだ、プレゼントじゃなくて弁償です! 弁償!!」


「弁償、ねぇ。まあいいか、行こう」


 機嫌が直ったのか直っていないのかよく分からない表情をしたフェルディナンドの後についてお店にの中に入っていく。入ったのはアリシアでも手が届く価格帯の衣服屋で、男性が持つのに良さそうなハンカチを購入した。



 いつ言おう。



 こう言うのってこんな人混みの中で言うものじゃないよね? お店の中とか? いやー、むしろ会話を聞かれそうで恥ずかしいし、人気のない路地とか? いやいや、そういう所ってよく変な人いるよね。


 考えれば考えるほど分からなくなってきた。


 みんな何処でそう言う雰囲気にして、そう言う話するの?!


 今更ながら、きちんとリリに気持ちを伝えたアルフレッドに尊敬の念を抱いてきた。


 ハンカチを買った店を出てからプラプラと街中を歩いているが全く何も目に入ってこない。あんなに楽しみにしていた馬具屋ですら上の空で、何を見たのか覚えていない。



 ああああ!!考えすぎて頭がパンクしそうになってきた。ヤケクソでここで話してしまえ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ